2015年6月27日土曜日

6/26 勉強会:国外事業者のための電子商取引に係る消費税 他

1.超富裕層への専担調査、全国波及も視野

・平成26年事務年度から情報収集機能を一段と強化することを目的として超富裕層をターゲットにした専門チームを東京、名古屋、大阪の3つの国税局に立ち上げている

・国税庁では、超富裕層の選定基準、管理の区分などを内容とした試行通達を策定する

・平成27年事務年度からこの通達の内容に関する取組を試行した上で3つの国税局で実施されている超富裕層に対する専門の調査体制を全国的な取り組みにつなげていく方針


2.税務スタッフによる機密漏洩、就業規則違反も損害発生認めず

■裁判事例
・税理士法人が元従業員が業務上の機密()を第三者に漏洩したとして、労働契約上の機密保持義務違反による債務不履行に基づく損害賠償を請求した。
※税理士法人の従業員に関する勤務データ
・元従業員は勤務データを利用し、未払い残業代の請求訴訟に利用
・税理士法人は情報漏えいに関して、調査を行ったため本来の営業活動に従事できなくなったとして損害賠償を請求

■裁判所の判断
税理士法人の訴えを棄却
⇒機密保持義務違反による債務不履行行為であるが、具体的な因果関係をもって営業活動への損害額が認められない。


3.監査役の適正給与算出に取締役給与を考慮できず

■裁判事例
・質屋業を行う法人
・常勤監査役1名に役員給与として給与を支給
・役員給与支給額が「不相当に高額な部分の金額」に該当するか否か

■請求人の主張
・監査役だけれども実質取締役の職責を担っていた
・本件給与は取締役の給与として判断されるべき
⇒だが「不相当に高額な部分の金額」であると判断された

■判断箇所
・監査役としての業務は何もしていない
・売上、粗利、営業利益と比べてその給与の割合が高い
・類似会社の平均額と比較しても高額である
・会社法上、監査役が取締役と兼任することは禁止されている
 …取締役業務を担っていたとしても、会社法の趣旨を考慮すると監査役の職責のみから判断するべき


4.繰延税金資産、分類2への変更は限定的

■平成27/5/26に企業会計基準委員会が「DTAの回収可能性に関する適用指針()」を公表

■適用指針案の大きな改正点の一つ
 「分類4」の要件(1)を満たす企業であっても、一定の場合(2)
 「分類2or「分類3」における取扱いが容認される。
(1)過去3年又は当期において金額的に多額の欠損金等が生じている
(2)今後、
  ・5年超に渡って(「分類2」の場合)
  ・3年~5年程度は(「分類3」の場合)
   課税所得が安定的に生じることが合理的に説明できる

■ただし、「分類4」⇒「分類2」への変更はかなり限定的
 (「分類4」⇒「分類3」への変更と比べ、)
ex.過去に「分類2」の要件を満たしていたが、災害等により金額的に多額な税務上の欠損金等が生じたケース


5.用語解説

■機密保持義務とは
労働契約上の信義則に基づく誠実義務として、労働者が業務上知り得た企業の機密をみだりに開示してはいけない義務
⇒労働者が職務中に得た機密を他に漏洩してはならないこと

■機密とは
少なくとも以下の要件を満たしているものをいう
・企業が機密として管理・取扱いをしている
・機密としての重要性・価値がある
・公然のものとなっていない

■機密保持義務違反として懲戒解雇が認められた事例
・顧客データを持ち出し、競合会社の設立に企図した
・重要機密事項である再建計画を社内外に漏らした
・発注先情報を管理するシステムデータを無断で複写・消去した等

企業秘密等は人を介して漏洩するケースが多いため、日頃から機密情報に関する意識を高くもつ必要がある


6.国外事業者のための電子商取引に係る消費税

(1)内外判定基準の見直し
H27/10/1以降、「電気通信利用役務の提供」を「受ける者」の本店住所等で判定
・日本企業の外国支店が、外国企業から受けるもの
  ⇒日本企業の本店住所が国内であるため課税
・日本人が外国旅行中に、外国企業から受けるもの
  ⇒住所が国内であるため課税

(2)「電気通信利用役務の提供」に該当しない取引
・通信そのもの
・他の取引の付随行為である取引
 例)国外資産の運用等の報告メール、完成したソフトウェアのメール送信

(3)「事業者向け」取引
・リバースチャージ方式を採用、国内事業者が申告・納税
・国外事業者は、「リバースチャージ方式に該当」の旨を、規約や見積書等に明示しなければならない。

(4)「消費者向け」取引
・国外事業者が申告・納税
・免税点制度の適用あり(消費者向け取引の課税売上で1000万円判定)

(5)登録国外事業者
・国外事業者から受けた「消費者向け」役務提供は、仕入税額控除できない
・ただし、国外事業者が「登録国外事業者」であれば可能
・「登録」かどうかは、国税庁HPに記載させる
・「登録」申請は、71日から可能に


7.受配 控除負債利子原則法の留意点

∇算式
負債利子×前期末&当期末の関係(関連)法人株式等の帳簿価額合計/前期末&当期末の総資産合計

∇改正点
■原則法の分子
(改正前)「関係法人株式等(25%以上保有)」の前期末・当期末の帳簿価額合計
(改正後)「関連法人株式等(33.3以上保有)」の前期末・当期末の帳簿価額合計

■その他有価証券評価差額金
(改正前)加算減算調整必要
(改正後)調整不要

∇留意点
改正は283月期からであるが、前期末分の計算も改正後の規定で行うため注意が必要


8.所得税:税制適格ストック・オプションと出向者

■「出向者」は税制適格ストック・オプションの付与対象者か?
⇒「使用人」と同様に付与対象者に含まれる。

■法令には出向者についての定め無し
「取締役,執行役,使用人,取締役等の相続人,発行済株式の50%超を保有する法人の取締役等」(措法292)

■通達にも定め無し

■判断根拠
 出向者は
 ・(出向契約を介して間接的に)雇用契約がある
 ・出向先の指揮命令に服する
 ⇒「使用人」と類似しているため、同様に取り扱うのが相当。


9.事業税超過税率

H27年度改正により、法人事業税率が段階的に引き下げられた
・外形標準課税適用法人の超過税率について、各自治体が条例を改正した
・大阪府以外の自治体は
  H27.4.1以降開始事業年度 ⇒ 決定済
  H28.4.1以降開始事業年度 ⇒ 先送りにしていた
・東京都の改正案は2.14%。可決すれば実効税率は32.26%になる。

・年800万円超の所得に係る所得割の標準税率(地方法人特別税額は除く)
  標準税率 H27年度:3.1%H28年度:1.9%
・大阪府の超過税率(H27.3.31に公布)
  超過税率(大阪府) H27年度:3.4%H28年度:2.14%

【備忘】
・実効税率(東京、資本金1億円超)
 2015/3期決算時/2016/3期:33.10%2017/3期以降:32.34%
 2016/3期決算時/2016/3期:33.06%2017/3期以降:32.30%


10.子会社の業績悪化時の会計上の検討事項

子会社の業績が著しく悪化した場合、下記事項を会計上検討する必要がある。

1. 子会社株式の減損、のれんの償却
 ・個別FS上、子会社株式について減損処理(子会社株式の帳簿価額を落とす)が必要かどうかを検討
 ※ただし、業績悪化が一時的で、回復が見込まれる場合には減損不要。

 ・個別上で減損を実施した場合、連結FS上、子会社についてのれんが生じている場
合には、のれんの未償却残高を全額償却しなければならない。

2. 子会社への貸付金の回収可能性
 ⇒ 業績悪化により、支払能力があるかどうかを検討
 ⇒ 必要に応じて貸倒引当金を計上・追加する必要がある。

3. 債務保証損失引当金の計上
  ⇒ 子会社の債務を親会社が保証
 ⇒ 子会社に支払能力がなく、親会社が代わりに支払う可能性が高い場合
 ⇒ 将来の損失・費用に対する、債務保証引当金を計上しなければならない。

以上より、子会社の業績が悪化することにより、親会社は、子会社株式の減損だけでなく、様々な費用・損失を計上をしなければならない可能性がでてくる。


11.子会社の業績悪化に伴う繰延税金資産の回収可能性の検討

■概要
 ビジネス環境の変化に伴って子会社の業績が悪化している状況
  ⇒区分の見直しにより、繰延税金資産の一部を取り崩す場合がある
   区分を慎重に検討する必要

■判断要件
 (1) 収益力に基づく課税所得の十分性
 (2) タックスプランニングの存在
 (3) 将来加算一時差異の十分性

■大前提
 回収可能性の検討のためには将来の業績予測の作成が必要不可欠である

■留意事項
 ・取締役会や常務会等の会議体の承認を得たものであることが必要となる
  ⇒会社としてオーソライズされている必要がある
 ・会社の現状の収益力や経営環境を勘案した合理的で説明可能なものでなければならない


12.財務DDの留意点

 ・売掛金は年齢表により長期滞留債権の有無を調査
 ・棚卸資産は収益性低下や長期滞留在庫の有無を把握
 ・固定資産は減損の適用や減価償却の適正性を調査
 ・多額の設備投資を要する業種の場合は、更新設備の有無や大規模修繕の有無を把握
 ・時価のない有価証券は実質価額を発行会社の直近決算書による数値をもとに算定
 ・訴訟の有無を把握し、引当金の計上等を検討


13.役員退職慰労金廃止に関する会計処理について

(1) 役員退職慰労金制度の廃止の決議と同時に支払承認決議
 ・支給額の確定:制度廃止時点で確定
 ・支給時期:退任時
 ・科目:未払金(長期未払金)
 ・科目の性質:退任時点に支払う条件付き債務

(2) 役員退職慰労金制度の廃止の決議のみ(支払承認決議は退任時)
 ・支給額の確定:退任時における株主総会まで未確定
 ・支給時期:退任時
 ・科目:退職慰労引当金
 ・科目の性質:株主総会決議を得ていないため未確定債務


14.農地の固定資産税

・「農地」の固定資産税は10アール1,000円。
・同じ広さでも、「宅地」の場合全国平均で18万円。
・土地の有効活用を促すため、昨年「耕作放棄地」については固定資産税を増やす改正を検討中。
・一方で、仮に改正を行ったとしても、そもそも「農地」が耕作放棄地か否か、自治体はほとんど実態調査せず、何年も放置している。
→「種目を変えることには納税者の反発が強い」
→「証明をすることが大変」
→「職員の数が足りない」









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2015年6月21日日曜日

6/19 勉強会:平成27年度税制改正に係る税効果会計のポイント 他

1.オリンパス社の粉飾決算事件で同社に損害賠償を命じる初判決

■事例
・個人投資家がオリンパス社に対し、虚偽記載がなければ同社株式を取得していなかったと主張して株式の売却損相当の1億円の損害賠償請求をした事例

■経緯
・個人投資家が、オリンパス社の株式を10万株式購入
 (オリンパス社の英国人社長の解任決議があった日前後)
 平成231014日のオリンパス社の株価…2,045

・その後、オリンパス社が虚偽記載がある四半期報告書を提出していたことを公表し、この影響で株価が下落
 平成23118日のオリンパス社の株価…734

・個人投資家が保有株式を売却
 譲渡損失は約11千万円
 平成231111日のオリンパス社の株価…460

■裁判所の判断
・虚偽記載がなければオリンパス社株式を購入しなかったという個人投資家の主張は却下
 ⇒粉飾決算を行っていたオリンパス社が上場廃止に抵触する債務超過状態ではなかったため
・虚偽記載のある書類の提出者の賠償責任に基づきオリンパス社に損害賠償を命じる判断
・計算された一株当たりの推定損害額のすべてが虚偽記載と相当因果関係があるとは認められないことから、その一部を減額することが相当とした


2.社外取締役選任、相当でない理由

改正会社法(327条の2)では、定時株主総会における口頭の説明に加え、
①事業年度末日に社外取締役を置いていない場合には事業報告に、
②株主総会に提出する取締役選任議案に社外取締役の候補者が含まれない場合には株主総会参考書類に、
それぞれ社外取締役を置くことが相当でない理由を記載しなければならないとされた。

■改正会社法における社外取締役を置いていない場合の「相当でない理由」に関する事例
・ユニマットそよ風
⇒社外取締役の選定にあたって、企業経営への理解に加えて介護業界に関する知見を有することなどを要件としているが、現時点で適任者の選定ができなかった旨を記載

・中越パルプ
⇒経営規模等を総合的に勘案すると、自社のガバナンス体制が適正に構築されていることを詳細に説明した上、社外取締役の重要性を認識しつつも、経営規模等を総合的に勘案するとガバナンスは適正に運用されている旨を記載

・エンチョー
⇒社外監査役に加えて社外取締役を置くことは職務遂行上の重複感と費用の負担増を生じさせ企業価値を損なうおそれが懸念される旨を記載


3.計算ミスで給与計算代行会社に賠償命令

■概要
・給与計算代行会社が、給与計算ミスをした
・約3年に渡り、従業員1人の残業代を二重計上していた
・合計133万円過払いしていた
・給与計算代行会社に過払い分の損害賠償請求した

■争点
・会社は従業員から過払い給与の返還請求権を持っている
・本当に損害を被ったと言えるかどうか

■給与計算会社の主張
・会社には損害が無い(返還請求権を持っているため)

■結論
・給与計算代行会社には損害賠償命令が下った

■理由
・返還請求権を持っていたとしても、実際お金は会社から流出してしまっている

・そのお金が実際に補填されたことが証明されない限り、会社には損害が生じていると考えられるため


4.取締役会決定で売掛金認容処理は認めず

(事案)
某企業:社内調査しても解明できなかった売掛金の不明残について、取締役会決議を経た上で、減額し損金算入

原処分庁:損金算入できないと更正処分
⇒損金算入の事由である法人税法223(原価の額、費用の額、損失の額)のいずれにも該当しないと主張

(審判所の判断)
 損金算入できない
⇒金銭債権の簿価を減額した場合、当該金額を損金算入するには、貸倒損失または評価損計上の要件を満たす必要あり
⇒本件の場合、
 ・売掛金の不明残について社内調査しても解明できなかったこと
 ・内部的意思決定である取締役会決議を経たことに基づいて売掛金を減額し損金算入しているが、これらは上記要件を満たさないと主張


5.事業者向け電気通信利用役務の提供とは

・電子書籍、音楽の配信などネットを介するサービス
・クラウドサービス等
(主な例)YahooGoogle広告、Kindleでの購入、AmazonWebServiceなど

■消費税
(1)現状:役務提供者の所在地で判定
  配信した事業者が国内事業者⇒課税取引  ()Yahoo広告
  配信した事業者が国外事業者⇒課税対象外 ()Google広告、Kindleでの購入等

(2)H27101日以降:役務提供を受ける事業者の本店所在地で判定
  配信した事業者が国内であろうが国外であろうが、役務提供を受ける事業者の本店が日本にあれば課税対象となる。
  上記例を使用している場合は、課税取引として処理する必要あり
※消費者向けの電気通信利用役務提供は、(1)のまま継続される

■納税義務
役務提供を受ける事業者に納税義務を転嫁させるリバースチャージ方式が導入される。


6.事業者免税点は消費者向け売上高で計算

H29/4/1以後、国内向けに電気通信利用役務の提供を行う国外事業者が課税対象に

・国外事業者にも免税点制度が適用できる
 (基準期間の課税売上高が1000万円以下なら納税義務なし)

・課税売上高の計算からは、「事業者向け電気通信利用役務の提供」が除かれる
 ※事業者向けは、役務の提供を受ける国内事業者に納税義務あるため
 ⇒「消費者向け」に係る売上高で免税点を判定する


7.裁決事例:分掌変更に伴う分割支給退職給与の損金算入

∇概要
(1)A社は分掌変更(代表取締役⇒非常勤取締役)した役員退職金につき、資金繰りの問題から当期及び翌期で分割支給した

(2)国側は分掌変更による退職給与には分割支給が認められない(翌期支給分は役員賞与である)として更正処分を行った。

∇争点
(1)役員退職金については通達により、支給時に損金算入することが認められているが、分掌変更の場合でも適用されるのか

∇東京地裁
分掌変更による「退職」であっても役員退職金の通達は適用できるとして国側の主張を退けた。

(参考)分割支給の役員退職金の損金算入
(1)企業がよく採用している
(2)多数の税理士がHPで紹介している
(3)通達が存在する
ことから公正妥当な会計処理基準に従っていると認められた

但し、総額と終期が定められていない場合は否認の可能性がある


8.消費税:土地収用法の規定に基づき補償金を受ける場合の課税関係

■店舗の土地が収用される場合の、補償金収入について消費税の課税関係はどうなるか?
①土地の所有権が収用されることによる補償金の支払い
 ⇒ 非課税

②建物の移転に係る補償金の支払い
 ⇒ 不課税(対象外)

③休業に伴う収益補償金の支払い
 ⇒ 不課税(対象外)

※収用の目的物の対価としての性質が有る保証金は、『事業として対価を得て行われる資産の譲渡』に該当するので消費税の対象となる。


9.コーポレート・ガバナンスコード(CGコード)

・補充原則3-1②
 「合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである」
⇒他の原則は「行うべきである」に対し、「進めるべきである」との記載に混乱が生じている。
⇒どうすれば原則を実施(Comply)したことになるのか。

・英語版のHP、各種資料の英訳版の公表
⇒「進めるべきである」との表現から、すべての英訳が終わっている必要はなく、英訳を進める意思があればComplyしたことになるとの見解もある。


10.その他有価証券評価差額金の税効果

1. その他有価証券の評価差額に関する税効果の会計処理
(1) 個別法 … 銘柄ごとに税効果を認識
(2) 一括法 … 全てのその他有価証券を一括としてとらえて、税効果を認識

2. 回収可能性評価の流れ
(1) 個別法
個別銘柄ごとに、
 ・評価益 ⇒ 繰延税金負債を認識
 ・評価損 ⇒ 繰延税金資産を、回収可能性のある範囲内で認識
※ただし、一般的にその他有価証券は、簡単に売却できないケースが多く、スケジューリングは困難として、繰延税金資産を認識出来ないケースが多い。

(2) 一括法
スケジューリング可能なものと不可能なものに分類し、それぞれで回収可能性を判断。
イ)スケジューリング可能
 評価益と評価損となるものに区分し、
 ・評価益 ⇒ 繰延税金負債を認識
 ・評価損 ⇒ 繰延税金資産として、回収可能性のある範囲内で認識
ロ)スケジューリング不能
 評価益と評価損となるものを区分せず、評価益と評価損の純額について税効果を認識
 ・評価益>評価損 ⇒ 評価益と評価損の差額に対して繰延税金負債を計上
 ・評価損>評価益 ⇒ 評価損と評価益の差額に対して、回収可能なものについて繰延税金資産を計上
※評価損の部分も評価益と相殺されるため、個別法では回収不能とされる部分も、実質、回収可能性ありとして処理されることになる。

【設例】
評価益100と評価損50のその他有価証券があり、回収可能性がない場合
 ※実効税率を40%とした場合
(1) 個別法
 ・評価益100 ⇒ 評価益100に対し、繰延税金負債40(100×40%)を認識
 ・評価損  50 ⇒ 評価損50があるが、スケジューリング不能として繰延税金資産認識しない
⇒ 繰延税金負債40を認識
(2)  一括法
 ・評価益と評価損の差額(100-50)50に対し、繰延税金負債20(50×40%)を認識
⇒ 繰延税金負債20を認識


11.平成27年度税制改正に係る税効果会計のポイント

1.平成27年改正
 ・法人税率の引き下げ
   2016/3期決算時/2016/3期:33.06%2017/3期以降:32.30%

 ・欠損金の繰越控除制限
   2016/3期、2017/3期 65
   2018/3期以降    50
  (例外)
   (1) 更生手続、更生手続開始の決定等があった場合
   ⇒更生計画認可の決定等の日以後7年間は100%控除可能
     ただし、その間に再上場した場合は通常の取扱に戻る
   (2) 新設法人
   ⇒設立の日後7事業年度については、100%控除可能
     ただし、5億円以上の親会社・グループからの100%支配を受けている場合は通常の取扱になる。

 ・欠損金の繰越期間
   2018/3期以降 10
   ※ただし、当該期間延長によりはじめて消滅が問題となるのは2028/3

 ・受取配当金の益金不算入制度の見直し


2.税効果への影響(第1四半期決算)
 ・年度決算と同様に取り扱う場合
  一時差異の集計 → 会社区分の検討 → 回収可能性の検討 → 繰延税金資産の算定

【一番の問題は繰越控除限度額の縮小!】
 例:期末時点1,000の繰越欠損金がある大会社
   毎期250の課税所得が発生する見込
   会社区分は3(5年間スケジューリング可)
   毎期の繰延税金資産回収額:
    改正前(限度額80%):
     16/3以降毎期200250×80%)回収され、向こう5年で回収しきるスケジュール
    改正後(16/317/365%、18/3以降は50%)
     [16/3]162[17/3]162[18/3]125[19/3]125[20/3]125 合計699
     ⇒繰延税金資産のうち、回収できない部分が出てきてしまう。

 ・四半期特有の処理による場合
   (四半期税前利益 ± 簡便的な税務調整)× 見積実効税率
   ⇒この場合でも回収可能性の検討は行う必要がある。


12.法定実効税率と法人税等負担率の個別F/Sでの主な差異原因

※法人税等負担率=(法人税等+法調)÷税前利益
・永久差異
・住民税均等割
・評価性引当額の増減額
・税額控除
・税率変更
・繰越欠損金の期限切れ


13.インサイダー取引について

■インサイダー取引規制
(1)内部情報に関するインサイダー取引禁止
・「会社関係者」または「情報受領者」が
・「重要事実」を知った場合は
・当該事実が「公表」されるまでの間
・関係する「特定有価証券等」の
・「売買等」を行うことを禁止

(ポイント)
・役員等の会社関係者も退職後1年は規制対象
・インサイダー取引は形式犯
→未公表の重要事実を利用したかを問わず、また利益の有無を問わず、未公表の重要事実を知ったうえで取引しただけで処罰対象

 (2)外部情報に関するインサイダー取引禁止
・公開買付や株式買い集めに関する重要事実について、買付者と一定の関係にある者による取引禁止

3)未公表の重要事実の伝達等の禁止
・重要事実を知る会社関係者がそれを他人に伝達したり、伝達せずに取引を推奨する行為が禁止

 (4)制裁
5年以下の懲役、500万円以下の罰金、またはその両方
・インサイダー取引で得た財産は没収

 (5)包括的禁止規定
・インサイダー取引に限定せずに市場における不公正な取引を規制する
→新しい形態の不公正取引も処罰できるようにするため


14.税制優遇基準「資本金1億円」見直しへ

・「中小企業」の基準見直し検討が開始に
・意図的に抑えることができる「資本金」ではなく、「売上高」「所得」を基準にする方向で2017年度にも基準変更を目指す
・アイリスオーヤマ、ジャパネットたかたなど著名な大企業が資本金を1億円にして優遇を受けている
・シャープが1億円への減資を検討したことで、見直しへの機運が高まった
・米国⇒大企業と中小企業の分けなし 所得水準による累進課税

・仏国⇒売上金額を基準に法人税率を区分









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2015年6月13日土曜日

6/12 勉強会:関係会社株式の低額譲受け(譲渡)と当該株主に対するみなし贈与課税 他

1.関係会社株式の低額譲受け(譲渡)と当該株主に対するみなし贈与課税

■事例
・同族会社A社の株主aが、A社に関連する他の同族会社B社の株式(B社株式)をA社に低額譲渡した場合、そのA社のa以外の株主は対価なしで利益を受けた(みなし贈与があった)とされるかどうかが争われた事例
 (同族会社が受けた利益は、その同族会社の株主が受けた利益とするかどうか)

■結論
A社はB社株式を低額で譲り受けた…時価との差額が利益となる
 ⇒A社の純資産が増加する
 ⇒A社株式の価値が上がる
 ⇒A社の株主の各持分が増加している
 ⇒A社の株主は無償で利益を享受している…みなし贈与が成立する

※今回の事例でA社が同族会社でなかったら、A社の株主に対してみなし贈与課税は成立しない


2.馬券の払戻金の所得区分で国税庁が所基通を改正も

■平成27310日の最高裁判決を踏まえた改正
・競馬の当たり馬券の払戻金に係る所得区分
⇒営利を目的とした継続的行為から生じたもの=雑所得
⇒それ以外のもの=従来通り、一時所得

ただし今回の事案は中央競馬の全レースをソフトにより自動的に数年に渡って大量かつ網羅的に1年当たり10億円前後の馬券を購入し続けていたものであるため、雑所得に該当する事案は限定的であることが想定される。


3.所得税や相続税の節税策を当局に開示も

■アグレッシブ・タックスプランニング
・税理士法人等が、どんなタックスプランニングをして、それをどこの企業に提供したか税務当局に開示すること

・最も早ければ平成28年度税制改正で国内法で整備される

・開示の対象は法人税以外にも波及する可能性有り
 【例】英国…所得税、相続税も対象
    米国…所得税、遺産/贈与税も対象


4.特定支出控除の適用要件緩和

■特定支出控除の適用要件緩和(平成24年度税制改正)
趣旨・・・給与所得者の負担軽減と実額控除の機会拡大

内容・・・(1)対象となる支出範囲や(2)適用判定の基準が緩和

(1)資格取得費(公認会計士・税理士など)、勤務必要経費(図書費・交際費など)も対象に追加

(2)支出合計が給与所得控除額の1/2を超える場合、適用あり
 ⇒超過額を給与所得控除額に加算できる
 (改正前は、給与所得控除額の総額を超える場合、適用あり)


5.相続増税前の駆け込みで高額贈与が発生

H271月以降の相続税・贈与税の最高税率
 50%⇒55%へ引上げ

H26年分の贈与税の申告状況
・申告者 47万人(前年比約3万人増)
・納税者 36.3万人(前年比約3.7万人増)
・納税額 2,584億円(前年比1,071億円増)

最高税率の適用をさけるため、駆け込みの生前贈与が行われた結果、納税者の増加幅と比べ申告納税額の増加幅が大きく上回った。


6.消費税率10%引上げ時の平成29年経過措置通達

H29/4/1以後、行われる資産の譲渡等、課税仕入等 ⇒ 10%
・経過措置は8%増税時と基本的に同じ
・経過措置例↓
 -旅客運賃等
 -電気料金等
 -工事の請負等
 -資産の貸付け
 -役務の提供
       に関する経過措置
・経過措置判定の基準となる、指定日は「H28/10/1


7.リース資産と圧縮記帳

∇質問概要
(1)A社は県から農業用機械購入用の補助金を受けた
(2)(1)の補助金によりリース契約(所有権移転外リース)で農業用機械を取得した場合に圧縮記帳は適用できるのか?

∇検証
(1)保険金等の圧縮記帳
代替資産からリース資産が除かれている…NG

(2)収用があった場合・特定資産の買い換えがあった場合の圧縮記帳
買換資産からリース資産が除かれている…NG

(3)国庫補助金等の圧縮記帳(本問)
<要件>
・国庫補助金により交付目的に適合した固定資産を取得すること
(リース資産に関する記載なし)

税法上のリース取引に該当する場合、その資産を売買により取得したものとされるため要件を満たす。

■まとめ
国庫補助金の圧縮記帳に限り、リース資産でも圧縮記帳できる。


8.税務:スキャナ保存とタイムスタンプ

H27年度税制改正にて、領収書や契約書のスキャナ保存制度の要件が緩和された。
スキャナ保存をするには、スキャナで読み取る際にタイムスタンプを付さなければならない。
 ・タイムスタンプを付すには市販のソフトを使用する。(15万円程度か)
 ・タイムスタンプのデータ(ハッシュ値)は専門機関に保存される。
 ・スタンプに残っているデータと専門機関に保存されたデータとを照合し、改ざんの有無が確認される。


9.会計監査人コーポレート・ガバナンスコード(CGコード)

CGコードには会計監査に関する原則もあり
 原則3-2「外部会計監査人」
・コーポレート・ガバナンス報告書は、
 監査の対象外。
 ⇒監査人が記載の仕方等を指導する必要はないが、実際は相談を受けることが多い。


10.倒産処理(処理方法の比較)

 ・私的整理の際の留意点
   期限切れの欠損金を損金算入できない
   資産の評価損を損金算入できない

 ※破産特別清算や会社更生法・民事再生法等の法的整理の場合は、
    資産の評価損⇒青色繰越欠損金⇒期限切れ欠損金
    の順で清算益に充当することができる。









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