2016年3月27日日曜日

3/25 勉強会:業績連動型役員報酬の税務処理のポイント 他

1.税理士業務をめぐる最近の訴訟トラブル
■事例1
・関与先より提供された資料に基づき税理士が決算仕訳を切った
・のちの調査で、課税庁からの指摘により上記会計処理について重加算税が課せられた
・関与先は課税庁の指導に従い修正申告を行った
・関与先は本来の取引実態とはかけ離れた処理をしたと税理士に対して損害賠償請求をした
⇒裁判所の結論
 関与先の請求を斥けた

理由:提出された資料が不十分な状況下では致し方かなった。
 追加資料の提出を税理士がしていないが、資格上の行政処分がないことに照らせば、税理士が行った決算仕訳については結果認められないものではあったが関与先との関係においてはやむを得ず行ったものと認められる。
税理士に不法行為はないと判断した。

■事例2
・相続税の申告業務に関する未払報酬を税理士が相続人に請求した
・相続人は申告内容に誤りがある等などを主張し未払報酬と誤りにより生じた損害との相殺を求めた
・申告内容の誤りの内容
 延納申請をしなかった
 相続財産の申告漏れなどにより課税があった
⇒裁判所の結論
 相続人に未払報酬の支払いを命じた

理由:延納申請しても通らなかったと推認できる状況だった
 相続財産の申告漏れをしたからと言って相続税申告業務のすべてを間違ったわけでない。
 申告漏れにより相続人が損害を受けたというわけでもない。
 よって、相続人の主張する相殺は認められないと判断した。


2.組織再編成における資産・負債の承継の誤りの是正
税制適格の吸収分割時に、引き継ぐ資産と負債に引継ぎの誤りがあった場合
■疑問点
・寄附金・受贈益認定が行われないか
・非適格分割と判断されたりすることがないか

■見解
・引継ぎを誤ったことが明らかで、その是正が適切に行われる場合には、寄附金・受贈益認定や非適格分割と判断されることはない。
 ⇒文献に解説など無いが常識に従って判断すると考えられる
 ⇒後発的事由等に因るものはいけない

■是正の方法
・資産や負債の承継の誤りを正しく修正し、法人間で清算する。
()資産の誤承継の是正の取り扱い
・分割法人の売掛金を誤って分割承継法人に承継した場合
⇒売掛金を引き継がない是正が必要となる
【分割法人】
 売掛金 ××× / 子会社株式 ×××
【分割承継法人】
 資本金等の額 ××× / 売掛金 ×××
・上記のケースでさらに分割承継法人が売掛金を回収してしまった場合
⇒未収未払にて法人間で清算できるよう処理が必要となる
【分割法人】
 未収金 ××× / 売掛金 ×××
【分割承継法人】
 売掛金 ××× / 未払金 ×××


3.業績反映の株式報酬も損金算入可能
・一定期間の譲渡制限が付された株式報酬である「リスクテッド・ストック」を「事前確定届出給与」の一種として取り扱う

具体的には、
譲渡制限を解除する条件として「譲渡制限解除時における一定の業績の達成」を課し、当該業績を達成できなかった場合には、付与した株式報酬の半分を没収する仕組みとする。
この場合、付与する株式数自体は変わらず、あくまで「譲渡制限の解除」ができなくなるに過ぎないため、税務上も「事前確定届出給与」として取り扱われる。


4.中小企業投資促進税制、固定資産税軽減との重複適用可
■生産性向上設備投資促進税制
・一定規模以上の最先端設備等を取得した場合、
 (1)28/3取得…即時償却か5%の税額控除
 (2)28/429/3取得…50%の特別償却か4%の税額控除
293月末で廃止されることが決定されている

■中小企業については上記から上乗せ措置あり(=中小企業投資促進税制)
 (A)「先端設備」である
 (B)「生産ライン等の改善に資する設備」である

■要件を満たせば、28年度税制改正で創設される予定の「機械装置の投資に係る固定資産税の軽減措置」とも併用可能

 ※固定資産税の軽減措置の対象要件
 (1)販売開始から10年以内の最新モデル
 (2)旧モデルと比べて年平均1%以上生産性が向上する
 (3)1160万円以上
 …中小企業投資促進税制(A)(2)(3)を要件とするため、固定資産税の軽減措置の要件を満たせば必然的に満たすことになる


5.子会社株式とのれんの減損はリンクせず
・「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」32(以下、連・資指針32)によれば、個別F/S上、子会社株式の減損をした場合、連結F/S上、のれんも併せて償却する必要あり
・「持分法会計に関する実務指針」9項なお書きによれば、関連会社株式についても、子会社株式同様の処理が必要
⇒上場子会社株式、関連会社株式について個別F/S上、減損した場合、連結F/S上、のれんの償却が必要

・一方で、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」によれば、市場価格が著しく下落しても必ずしも減損となるわけではない(市場価格が著しく下落しても、割引前CF>簿価であれば、減損しない)

∴経団連・全銀協は「連・資指針32項は必ずしものれんを減損する必要がない場合にまで減損を強いており、経済実態を正しく反映していない恐れあり」と指摘

IFRSでは、連・資指針32項のような規定はなく、日本基準とIFRSとの重要な差異として認識

∴経団連・全銀協は「連・資指針32項を削除すべき」と指摘


6.宅建の資格取得費及び開業費の経費性
宅地建物取引業の開業にあたって支出した費用につき、事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否かについて

■宅地建物取引主任者資格の資格取得費
(結論)
⇒必要経費に算入できない。
(理由)
資格とは個人の能力や知識が判定され特定の職業に従事することができ、かつ、法律によって一定の社会的地位が保証される。
また資格取得費用は主たる目的が新しい職業を獲得するための教育費と判断。
⇒事業収入を得るための直接的な費用ではないため「家事費」に該当


7.会計税務委託料を必要経費と認めず
【国税不服審判所事例】
A氏が不動産所得の計算上、会計税務委託料を必要経費へ参入
・青色申告のための帳簿作成、領収書整理等は必要経費と主張
・但し、委託契約書には月額委託料の記載のみ(各業務の詳細金額なし)

【結論】
・以下のいずれの費用にも該当せず、経費参入不可
(1)不動産所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかな費用
(2)家事関連費の内、業務遂行上必要である部分を明らかに区分することができる費用


8.法人成り:引継ぎ不良債権の時価評価について
■引継ぎ資産は、原則として時価で評価する
⇒実質的に時価ゼロの不良債権を簿価で引き継ぐと売り手への贈与とされる可能性がある。個人が法人の役員に就任している場合には役員賞与とされる可能性もある。

■法人成り後、貸倒れとなった場合
⇒債権者が法人となっているため、個人宛てに破産通知が来たとしても個人の必要経費にはできないので注意


9.消費税:経過措置・軽減税率両方の対象取引の税率
平成2941日以後の消費税率8%には、下記の2つがある。
 軽減税率の8%:消費税6.24%,地方消費税1.76%
 経過措置の8%:消費税6.3%,地方消費税1.7%

軽減税率が適用される商品の売買について経過措置の要件も満たしている場合には、『軽減税率の8%』が適用される。

事例)
通信販売に関する経過措置を充足する契約(指定日以前に締結した定期購入契約など)で、食料品を販売するケース。


10.偶発債務
・現実に発生していない債務で、将来において事業の負担となる可能性があるもの。
・債務保証、受取手形の裏書譲渡、損害賠償責任、などが該当
・内容、金額を注記する必要あり。
・引当金と偶発債務の線引は必ずしも明確ではない


11.平成27年度改正のまとめ(法人税関連)
・法人税率
⇒ H283月期における法人税率23.9%
⇒ 税効果の適用における実効税率も変更

・受取配当金の益金不算入
⇒ 法人区分の変更
⇒ 益金不算入割合の計算の変更

・タックスヘイブン対策税制
⇒ 特定外国子会社の範囲が変更

・外国子会社配当益金不不算入制度の改正
⇒ 配当の支払い側で損金算入が認められる配当は益金不算入制度の対象外

・欠損金の繰越控除限度額
⇒ 中小法人以外は欠損金の繰越控除は65%へと引き下げ

・試験研究費の税額控除
⇒ 税額控除の上限額が法人税額の25%に縮小

・地方拠点強化税制の創設、拡充
(1) 特定建物等を取得した場合の特別償却または税額控除制度の創設
(2) 雇用促進税制の拡充

・所得拡大促進税制
⇒ 給与等支給増加額の基準雇用者給与支給額に対する割合が引き下げ
※ただし、H283月期は従前から変更なし

・中小法人の貸倒引当金の特例
⇒ 簡便法について、基準年度がH274月~H293月へ変更


12.分類2の企業における役員退職慰労金に係る繰延税金資産の回収可能性
■スケジューリングの範囲
 スケジューリング可能な一時差異(変更なし)

■変更点
 JICPA 監査委員会報告66号(旧基準)
 スケジューリング不能な将来減算一時差異に係るDTAについて、回収可能性はないものとする
 スケジューリング不能な一時差異:「税務上の益金又は損金の算入時期が明確でない一時差異」
 スケジューリング可能な一時差異:「スケジューリング不能な一時差異以外の一時差異」
 企業会計基準摘要指針26号(新基準)
 スケジューリング不能な将来減算一時差異に係るDTAについて、回収可能性はないものとする
   ただし、
  (1) スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが、将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、
  (2) 当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係るDTAは回収可能性があるものとする。

■役員退職慰労引当金へのあてはめ
 66号(旧基準)では回収可能性がない、と判断されることが多かった。
 (新基準)
 人間なので、いずれ亡くなる ⇒ 必ず退任する
 「将来のいずれかの時点で回収できる」の要件をクリア ⇒ DTA回収可能と判断可

■過年度減損済株式(政策保有)へのあてはめ
 66号(旧基準)でも、新基準でも回収可能性がない、と判断されるものと思われる。
 (新基準)
 株価の回復時期 ⇒ 不明
売却による含み損の実現時期 ⇒ 何もしなければ保有し続けると考えられるため、不明


13.利息にマイナスが適用された場合の経理処理
■マイナス金利の会計処理
以下のように表示せざるを得ないと考えられる
 ・金融機関からの借入金利息⇒支払利息のマイナス
 ・金融機関への預金利息⇒受取利息のマイナス
 ・発行した社債利息⇒支払利息のマイナス
 ・保有する社債利息⇒受取利息のマイナス

■源泉徴収
 マイナス金利になったとしても、預金者である法人が源泉徴収義務を負うことはないと考えられる

【後発事象の対応】
■ケース1:決算日後、監査報告書日前の役会で主要工場の閉鎖を決議した。
 ・決算日時点では工場閉鎖が見込まれず実質的な原因が決算日時点では存在しない場合(閉鎖の原因が決算日後に発生した災害や、決算日後の経済環境の変化など)
  ⇒開示後発事象として注記を検討

 ・決算日時点で経営環境から工場閉鎖が明らかであり、単に意思決定が決算日後になった場合
  ⇒修正後発事象としてF/Sを修正

■ケース2:決算日までの会計期間について税務調査が行われていた。監査報告書日後かつ財務諸表発効日後に更生通知を受け多額の追徴税額が発生した。
 ・追徴税額の原因が過去の誤謬による場合
  ⇒過年度遡及会計基準に基づき修正再表示

 ・追徴税額の原因が過去の誤謬によらない場合
  ⇒更生通知を受けた期間のF/Sにおいて、法人税等とは別の科目で表示


14.業績連動型役員報酬の税務処理のポイント
■ストックオプションの税務所上の取扱
(1)1円ストックオプション(株式報酬型SO
・法人
権利付与時→課税関係なし
権利行使時→SO費用が損金算入
・役員個人
権利付与時→譲渡制限アリの場合は課税関係なし
権利行使時→時価-(SO取得価額+払込金額)=経済的利益
※通常は給与所得に該当するが、役員退職慰労金制度を廃止し、
代替としてSOを付与、かつ、権利行使期間を限定した場合は退職所得の可能性もある

(2)税制適格ストックオプション(業績連動型SO
・法人
権利付与時→SO費用が損金算入なし
権利行使時→SO費用が損金算入なし
・役員個人
権利付与時→課税関係なし
権利行使時→課税関係なし
株式譲渡時→譲渡所得が発生

(用語説明)
株式報酬型ストック・オプション
・株式を報酬として付与することを目的
・オプションの権利行使価額を低く設定して(通常は1円)、実質的に株式と同等の価値を付与対象者に与える
・一般的に1円ストック・オプションと呼ばれ、主に役員退職慰労金を廃止する際の代替策が多い


15.クロスボーダーの組織再編成と課税関係
・三角合併を利用した「コーポレートインバージョン」という租税回避行為がある。

・日本の企業(A)が、軽課税国に子会社(B)を設立。
・次にその企業の子会社(C)を日本に設立。
ACを、B社株を対価とした三角合併で合併。
・結果、親会社B、子会社A+Cが出来る。

・通常、三角合併は適格性が認められるため、課税関係を生じず、A社を軽課税国の子会社にできる。

・コーポレートインバージョンを阻止するため、適格性の判断は厳格に定められている。
(租税特別措置法68条の23

50%超の支配関係があるグループ内 かつ 対価となる株式が特定軽課税国の法人はダメ
→ただし、軽課税国にある法人(B)が下記すべて満たす場合は、適格性を認める。
①事業がAと関連している
②売上がA2分の1以上
③実業を行っている(持株会社等はダメ)
④日本でも事業の実態がある
⑤特定役員の過半数がAの役員その他関係者でないこと


16.IPOディスカウント
投資家が申請会社株式を購入する際、新規公開時特有の開示情報不足を担保し、申込から上場までの市況変動リスクを吸収するため、申請会社株式の想定市場価格に対するディスカウントのこと。

(1)IPOディスカウントを拡大させる要因
・上場直後の既存株式の売却行動など、需給が読みにくい場合
・エクイティ・ストーリー(※)に十分な納得が得られていない場合
・直接比較可能な上場会社が少ない場合
・株式市況の不調が十分にバリュエーションに織り込まれていないと懸念される場合など
(※)企業がエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)で調達した資金をどう使うのか、投資家に説明する際の成長戦略のこと。

(2)IPOディスカウントを縮小させる要因
・知名度が高く、ブランドイメージが良好である場合
・エクイティ・ストーリーが十分に浸透している場合
・直接比較可能な上場会社が多数存在する場合
・株式市況が好調に推移しており、バリュエーションに疑問が少ない場合
・収益性、成長性において、他社より競争優位にあることが明確な場合など


17.今週の新規上場会社
上場・公開日/社名/銘柄コード/市場/公募価格(円)
322日 チエル/3933/JQS/810
324日 ベネフィットジャパン/3934/マザ/1,980
324日 ウイルプラスホールディングス/3538/JQS/1,880

(チエル)
業種:情報・通信業
事業内容:教育用ソフトウェア、ネットワークおよびシステムの企画・開発及び販売
主幹事:みずほ証券
監査法人:太陽

(ベネフィットジャパン)
業種:情報・通信業
事業内容:MVNO(仮想移動体通信事業者)、インターネットオプションサービスならびにコンテンツの提供
主幹事:大和証券
監査法人:新日本

(ウイルプラスホールディングス)
業種:小売業
事業内容:輸入車販売関連事業
主幹事:みずほ証券

監査法人:新日本
















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決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
ワンストップでサービスを提供  

2016年3月18日金曜日

3/18 勉強会:3月期決算において税効果会計で留意すべき事項 他

1.ヤフー・IDCF事件は「租税回避」の捉え方をどう変えたか
■「租税回避」の捉え方に関する最高裁の判示
132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは
 ⇒法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制にかかる各規定を組織再編の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいう

・濫用の有無の判断に当たって
 1、法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいていたり、実態とはかい離した形式をしていたりするなど不自然なものであるかどうか
 2、税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等を考慮したうえでその行為又は計算が組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱していてその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である

■まとめ
・税法の濫用は租税回避と最高裁が判示した
・濫用かどうかは
 1、普通(一般的)に考えたときに違和感が残るやり方で組織再編しているかどうか
 2、税負担の減少以外に組織再編をする経済的合理性が認められる事情があるかどうかを考慮してその組織再編が税負担の減少させることを意図したもので組織再編税制の各規定の本来の趣旨や目的を無視して税制の適用が受けられるように、または受けないようなやり方で組織再編しているかどうかという観点から判断する方向性を示した

IBM事件のあとにヤフー・IDCF事件の上告棄却が出された
 ⇒ヤフー・IDCF事件の上告棄却判示を後世に残したいという最高裁のメッセージではないか。


2.マイナス金利で退職給付の割引率は?
■企業会計基準委員会の公表内容
平成283月決算においては、以下いずれの方法を用いても、現時点では妨げられないとしている。
 1.マイナスとなっている利回りをそのまま利用する方法
 2.ゼロを下限とする方法(すなわちゼロとする方法)
1.2.ともに採用する根拠があり、見解として公表するには相当の審議が必要としている。そのため現状は"妨げられない"としており、また、"平成283月決算においては"とある。


3.監査法人のガバナンス・コードは年内にも策定へ
・金融庁は「監査法人のガバナンス・コード」を策定する方針
⇒昨今の新規公開を巡る会計上の問題や、会計不正事案などを踏まえたもの。
⇒大手上場企業等を監査する監査法人において実効的なガバナンスを確立し、マネジメントを有効に機能させていくための取り組みを進めるに当たって確保されるべき原則を示すもの。
具体的な内容はこれから議論する。


4.訪日ツアーめぐる取引を輸出免税と認めず
日本法人が訪日旅行ツアーを主催する海外旅行会社に提供した取引は消費税上、輸出免税に該当するかどうかで争われた事例

■日本法人が海外旅行会社へ提供したサービス
⇒訪日ツアーの飲食場所や宿泊場所等の計画や手配
※サービスの実際提供先は訪日旅行客
※上記サービスの対価を海外旅行会社から受ける

⇒日本法人は上記売上を輸出免税売上と処理し、飲食や宿泊に要した費用は課税仕入れとしていた(=還付)

■結論
・輸出免税売上には該当しない
⇒日本法人が主張した【旅行パッケージ商品】資産の輸出ではなく
 【国内におけるサービスを確実に利用できるようにする】役務の提供に該当
※役務の提供の場合、サービスが行われた場所で国内外の判定をする


5.リスク分担型DB、会計上はDCと同様
() DB:確定給付年金制度、DC:確定拠出年金制度
・企業会計基準委員会は政府が導入予定の「リスク分担型DB」に関する会計上の取扱いを検討

■リスク分担型DB
・確定給付企業年金法に基づいて実施
・ただし、事業主に予め固定された掛金以外に追加的な拠出を求めない仕組み
⇒ 現行の退職給付会計基準上、「確定給付制度」又は「確定拠出制度」のいずれに該当するかが最大の論点

・リスク分担型DBでは、新たな労使合意を形成し、掛金を変更することができる規定があるものの、当該規定に基づき掛金を変更する場合を除き、企業は追加的な拠出義務を負っていない。
⇒ 会計上、確定拠出制度として取り扱い、リスク対応掛金()も含めた掛金の毎期拠出額を費用処理する方向で検討
() 予め財政悪化時に想定される積立不足を測定し、その水準を踏まえた掛金

■既存の確定給付年金 ⇒ リスク分担型DBに移行する場合
 過去の積立不足に対応する部分として「特別掛金相当分」を算定して拠出する場合、特別掛金の未拠出額に相当すると考えられる範囲で、かつ、移行前の退職給付に係る負債に認識している範囲で、当該残高を退職給付に係る負債として引き継ぐ方向で検討


6.輸出類似取引とは
消費税の輸出免税の対象とされている輸出取引のこと。
主に国外事業者に対するサービス提供等が該当し、国際輸送や国際郵便が代表例。

ただし、以下に該当する場合は「輸出免税」に該当しない。
非居住者(外国法人など)に対する役務提供のうち、
(1)国内にある資産の輸送費や保管料
(2)国内における飲食代や宿泊料
(3)上記(1)(2)に準ずるもので国内において直接便益を享受するもの
⇒これらはすべて通常の「課税取引」に該当する。


7.職務発明が「法人」に帰属で通達改正へ
H28.4.1より、職務発明の権利が「従業者帰属」から「法人帰属」へ
・発明報酬の取扱が以下の通り変更に

(現状)従業員帰属
・発明した権利を、従業員から法人へ譲渡する必要あり
・発明時の報酬(出願補償金等)⇒譲渡所得
・譲渡後の報酬(特許登録補償金等)⇒雑所得

(今後)法人帰属
・発明時点から権利は法人が保有しており、譲渡の必要なし
・発明に関する総ての報酬⇒雑所得


8.税務の動向:新品の機械装置の固定資産税を3年間半減
■特例の対象となる機械装置
・販売開始から10年以内のもの(新品)
・旧モデル比で生産性が年平均1%以上向上するもの
1160万円以上

■適用内容
新法施行日(2834日提出、施行日はまだ未定)以後3年間に渡り、機械装置等に対する固定資産税の課税標準を1/2とする。

(例)H28.6月取得
H29年度、H30年度、H31年度の固定資産税が半減

■生産性向上税制との関係
一定の要件を満たす場合、併用可。
※ただし、生産性向上税制はH29331日までの事業供用分をもって終了


9.消費税:同じ8%でも経過措置分と軽減税率分は区分管理が必要
軽減税率導入後の消費税率の区分は下記の4区分となる。
同じ8%税率にも国税と地方税の内訳が異なる2種類が存在することとなり、注意が必要。

 ・5% (経過措置 国税:4%、  地方税:1)
 ・8% (経過措置 国税:6.3%、 地方税:1.7)
 ・8% (軽減税率 国税:6.24%、地方税:1.76)
 ・10%(標準税率 国税:7.8%、 地方税:2.2%)


10.電子記録債権
・電子記録によって発生、譲渡が行われる金銭債権
・でんさいねっとは既存の銀行間システムを利用できるので利用者を増やしている。
・電子記録債権のメリット
  作成・保管コストの削減
  盗難・紛失のリスク低減
  債権の分割が容易

・会計処理は「手形債権に準じて取り扱う」とされている。
・表示名は「電子記録債権」


11.企業結合会計基準改正のまとめ
1. 考え方の変更
⇒ 親会社説から経済的単一体説へ

2. 改正点
(1) 名称の変更
・少数株主持分 ⇒ 非支配株主持分
(2) 会計処理の変更
・非支配株主との取引(子会社株式の追加取得や売却)
⇒ 連結財務諸表上、持分変動の差額を資本剰余金に計上
※企業グループ間の取引の為、資本取引であるという考え方
・取得関連費用の取り扱い
⇒ 連結財務諸表上、取得関連費用は費用として処理


12.工事進行基準適用に関する会計・監査のポイント
■計算要素
 ・総収益   ⇒ 契約で決定
 ・総原価   ⇒ 会社が見積もる必要あり★
 ・工事進捗率 ⇒ 実際に発生している原価に基づき算定★
 ※ ★の箇所について、恣意的な利益操作が行われる余地がある

■見積総原価
 実行予算に基づいているか
 実行予算 = 詳細な工事各段階での見積り原価の積み上げ ⇒ 各段階で適切な承認を得ているか
 実行予算の見直し ⇒ 他の資料・状況なども見て、見直しが必要かどうか検討

■工事進捗率
 不適切な原価調整によって正しい率が算定されないことがある

■何が大事か
 ・総原価も進捗率も会社の内部統制が大きく影響する
 ・数字を視る側の視点としては、社内風土(予算にコミットする風土、姿勢か)等も意識すべき


13.3月期決算において税効果会計で留意すべき事項
■税効果会計に適用する税率
 ・現行:決算日現在で公布されている税率
 ・草案:決算日現在で国会で成立している税率
 ⇒H28331日以後に終了する事業年度の年度末に係る連結F/S・個別F/Sから適用
 ⇒よって3月決算の会社がH28年度税制改正大綱による改正後の法定実効税率を使うかどうかは、改正税法が3月末において国会で成立しているかどうかにより判断する

H28年度税制改正大綱の法定実効税率(資本金1億円超、標準税率)
 ・現行 :H27年度32.11%、H28年度以後31.33
 ・改正案:H28年度とH29年度29.97%、H30年度以後29.74


14.有価証券の評価のポイント
■売買目的有価証券以外の有価証券について、価値が取得価額に比べて「著しく下落」している場合
・減損処理をして評価差額を損益計算書計上
・価値下落後の価額で貸借対照表計上

■時価が「著しく下落」しているかどうかの判断
時価が著しく下落
・回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損する
・具体的には期末時点の時価の下落率を下記の3種類に分類

時価のある有価証券
(1)30%未満のケース
   →減損処理は不要
(2)30%以上50%未満のケース
   →「各企業が設けた基準」により著しい下落と判定される場合、
   「回復可能性」がなければ減損
   →時価が過去2年で著しく下落、債務超過や2期連続赤字で翌期も予想される
   =「回復可能性」なしと判断
(3)50%以上のケース
   →回復可能性がなければ減損

時価のない有価証券
(1) 50%未満のケース
   →減損処理は不要
(2)50%以上のケース
   →回復可能性がなければ減損
   →「回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合」には減損不要
   →事業計画等が実行可能で合理的、概ね5年以内に回復する見込、回復可能性は毎期見直し


15.企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
・平成271228日に指針が公表された。
・主な改正は3
 →将来の業績予測等を総合的に勘案(分類4
 →経常利益ではなく課税所得を判断基準に(分類24
 →従来の期間でスケジューリング不能な差異も場合によっては資産計上可能に(分類23

・分類15は従来の取扱と変わらず

・分類2
【要件】過去3年間安定的な経常利益 → 過去3年間安定的な課税所得に変更。
【回収可能性】スケジューリング不能の場合、資産計上不可 → 将来回収できることを合理的な根拠で説明する場合計上可
 ※株式の売却時期は決まっていないが保有目的からいずれ売却する可能性が高い、など

・分類3
【要件】過去の経常利益が大きく増減 → 過去の課税所得が大きく増減
【回収可能性】5年以内の、スケジューリングで判断 → 5年を超える期間に回収可能であることを企業が合理的に説明すれば回収可能性あり、と判断

・分類4
【要件・回収可能性】
 将来5年超にわたって安定的に課税所得を獲得できると説明すれば分類2に該当するものとして扱う。
 将来3年~5年にわたって課税所得を獲得できると説明すれば分類3に準ずるものとして、5年以内のスケジューリングで回収可能性を判断。


16.資本政策のスケジューリング
大きく以下の4つの時期に分けて考えることができる。
(1)オーナー一族の持株調整期
⇒資本政策の開始時点で、もっとも安価に増資あるいは株式を移動できる期間
⇒主目的は、オーナー一族の持株を増加させることであり、以降のステップで外部株主が参入してくるのに備えることである。

(2)役員・従業員の持株調整期
⇒ある程度上場の目処がついてきた段階
⇒株式保有の方法として、従業員持株会やストック・オプションなどのインセンティブ・プランを導入

(3)安定株主の持株調整期
⇒金融機関・取引先等の外部株主を参入させ、上場後の安定株主作りを行う期間
⇒割当先および株数は、将来を見据えて、取引関係、営業上の支援等を考慮して決定

(4)発行済株式数の調整期
⇒株式上場が近づいてきた時点で最終的に申請時の発行済株式数を調整するための期間
⇒株式分割などにより発行済株式数を調整


17.今週の新規上場会社
上場・公開日/社名/銘柄コード/市場/公募価格(円)
314LITALICO /6187/ マザ/1,000
315日 富山第一銀行/7184/ 1部/470
315日 富士ソフトサービスビューロ/6188/JQS/890
315日 ユーエムシーエレクトロニクス/6615/1部/3,000
315日 昭栄薬品/3537/JQS/1,350
317日 アカツキ/3932/マザ/1,930
318日 イワキ/6237/2部/2,000
318日 グローバルグループ/6189/マザ/2,000
318日 フェニックスバイオ/6190/マザ/2,400
318日 ヒロセ通商/7185/JQS/830
318日 アイドママーケティングコミュニケーション/9466/マザ/1,440
318日 アグレ都市デザイン/3467/JQS/1,730

LITALICO
業種:サービス業
事業内容:就労支援事業、児童発達支援事業、学習教室及び幼児教室の運営等
主幹事:野村證券
監査法人:新日本

(富山第一銀行)
業種:銀行業
事業内容:銀行業
主幹事:大和証券
監査法人:新日本

(富士ソフトサービスビューロ)
業種:サービス業
事業内容:コールセンター及び事務センター等のBPO事業
主幹事:野村證券
監査法人:太陽

(ユーエムシーエレクトロニクス)
業種:電気機器
事業内容:電子機器の受託製造・開発を行うEMS事業
主幹事:みずほ証券
監査法人:新日本

(昭栄薬品)
業種:卸売業
事業内容:天然油脂由来の油脂化学品(オレオケミカル)を主な取扱商品とする化学品事業、家庭用洗剤等の日用品を企画販売する日用品事業、土木建設関連の薬剤を主な取扱商品とする土木建設資材事業
主幹事:大和証券
監査法人:太陽

(アカツキ)
業種:情報・通信業
事業内容:スマートフォン向けソーシャルゲームの企画・開発・運営
主幹事:野村證券
監査法人:あずさ

(イワキ)
業種:機械
事業内容:化学薬品等の薬液移送に使用されるケミカルポンプ及びポンプ専用コントローラ等の周辺機器の開発、製造、仕入れ及び販売(輸出入を含む)
主幹事:大和証券
監査法人:あずさ

(グローバルグループ)
業種:サービス業
事業内容:保育所等の運営を通じて次世代を担う子供たちを育成する子育て支援事業
主幹事:いちよし証券
監査法人:太陽

(フェニックスバイオ)
業種:サービス業
事業内容:PXBマウスを用いた受託試験サービス
主幹事:SMBC日興証券
監査法人:あずさ

(ヒロセ通商)
業種:証券・商品先物業
事業内容:外国為替証拠金取引事業
主幹事:野村證券
監査法人:トーマツ

(アイドママーケティングコミュニケーション)
業種:情報・通信業
事業内容:流通小売業の統合型販促支援事業
主幹事:みずほ証券
監査法人:あらた

(アグレ都市デザイン)
業種:不動産業
事業内容:新築戸建分譲事業、注文住宅・戸建建築請負事業、その他不動産に関連する事業
主幹事:みずほ証券

監査法人:新日本















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