2015年8月28日金曜日

8/28 勉強会:ネット通販の商品倉庫とPE(恒久的施設) 他

1.D&O保険を巡るQA

DA保険は「普通保険約款(第三者訴訟をカバー)」と「株主代表訴訟補償特約(株主代表訴訟をカバー)」に分かれる。

・第三者訴訟とは
 役員が故意・(重)過失によって第三者(取引先、従業員等)に損害を与えた場合に、会社法429条や民法709条を根拠として第三者が役員に対して損害賠償を請求するもの。

・株主代表訴訟とは
 役員は、具体的な法律・定款違反、または善管注意義務・忠実義務に違反して会社に損害を与えた場合に、会社に対して損害賠償責任を負うことになる。
 役員の責任追及の主体は会社だが、6か月以上引き続き株式を所有している株主は、会社に対して役員を訴えるよう請求(提訴請求)することができ、提訴請求から60日を経過しても会社が役員を訴えないときに、株主が会社にかわって、その役員の責任を追及する訴えを提起することできる。
 これを株主代表訴訟という。

・特約部分は「会社の損害に対する役員の損害賠償責任」に備える保険なので、その保険料を会社が負担すること自体が忠実義務違反(会社法355条)に抵触しかねないという指摘あり。


2.平成273月期、50社が会計方針の変更で強調事項」

H273月期決算の上場企業50社の監査報告書において、会計方針の変更に関する強調事項が付された。
⇒そのうち29社が有形固定資産の減価償却方法を変更(定率法⇒定額法へ)したもの。
⇒国内外の減価償却方法を統一するため

IFRS=定額法というわけではなはない。
金融庁HPIFRSに関する誤解


3.顧問先の決算書類を株主に開示する義務なし

■前提条件
(1)各会社の代表者であるAが税理士Bに決算・税務申告書を依頼
(2)Aが亡くなった
(3)Aの相続人Cが相続税の申告を税理士Bに依頼
(4)法定相続人及び株主であるDが税理士を訴えた

■争点
(1)原告Dが税理士Bに決算書の開示を依頼したが拒否された
(2)相続税の申告を法定相続人であるDに説明なしで進めた
 ⇒原告が上記2点を不法行為として慰謝料請求した

■裁判所の判断
(1)決算書開示請求の拒否の件
 ・代表者Aと税理士B間は契約関係があるが、税理士Bと株主の間では法的関係は存在しない
 ・株主が行使できる権利は会社にされるべきもの
 ⇒棄却

(2)相続税の申告をDに説明なしで進めた
 ・確かに法定相続人であるDに連絡や説明はしなかった
 ・但し、相続税の申告手続は相続人の全員が共同して行わなければならないものではない
 ・従って不法行為ではない
 ⇒棄却


4.責任限定契約

 社外取締役、社外監査役、会計参与、会計監査人(以下、社外役員等)の損害賠償責任を限定する契約
⇒「定款に定めた額の範囲内であらかじめ定めた額」または「報酬等の2年分」のいずれか高い方を限度

(適用条件)
 社外役員等の行為が善意・無重過失であること
→わざとやった場合、または、わざとでなくとも著しい落ち度ある場合は適用されない

(留意事項)
 ・第三者(株主、債権者)に対する責任は限定できない(会社に対する責任のみ)
 ・社外でない取締役、監査役は責任限定契約を締結できない


5.減価償却資産の部分除却の可否

■事例
・建物の屋根の張替えを行う。
・張替えで生ずる費用にあたり、「修繕費又は資産計上」とするか、「除却法」を用いて処理するか。

「除却法」とは、
張替えを行う屋根相当額を除却損とし、新たに張替えを行う費用を資産計上する考え方。

■法人税法では
同一の減価償却資産(屋根)について、部分的な除却を認めている考え方はないため、「除却法」を採用することはできない

■実務上
元の状態に復元できるまでの費用(見積ベース) ⇒ 修繕費
上記を超過する費用 ⇒ 資本的支出(資産計上)

このように処理しているケースが多く見かけられる。


6.表彰金が業務委託費として損金算入できる3要件とは?

・取引先従業員への表彰金支払は、基本的に交際費
・ただし、次の要件を満たせば、損金算入可能(業務委託費でOK
 ①工場等の現場において、無事故等の記録が達成されたことに伴い、
 ②その現場で経常的に働いている下請け企業の従業員等に対し、
 ③自己の従業員とほぼ同一の基準により支給する表彰金等


7.ネット通販の商品倉庫とPE(恒久的施設)

∇非居住者がネット通販業務用に借りている倉庫はPEにあたるか?
PE(恒久的施設)とは
⇒事業を行う場所であって特に、事業の管理の場所、支店、事務所等をいう。

PEの除外規定>
⇒商品の保管・展示・引き渡しのみでその場所を使用する場合はPEにあたらない

∇事例
・非居住者Aはネット通販の商品管理のため倉庫を借りていた
・商品発送の際、サービスとして商品の日本語取説書を同梱していた

 PEにあたるか?

(裁判所の判断)
 倉庫で取説書を同梱する行為は「商品の経済的価値を高める」活動であり、単なる商品の管理・引き渡しのみで施設を利用していると言えない。従ってPEにあたる。
⇒国内にPEを有する非居住者であるとして所得税の納税義務ありとした

<まとめ>
PEにあたるか否かは、その場所で「商品等の経済的価値を高める活動がされているか」が1つの判断基準となる


8.審判所:固定資産から棚卸資産に振替えた土地の評価損認めた事案

■概要
 ・不動産賃貸&販売を行う法人が土地を取得し、当初は自社利用していたため固定資産として経理処理した。
 ・取得年度中に当該土地を商品として販売する方針になったため、棚卸資産に振り替えた。
 ・期末に棚卸資産として低価法により評価損を計上し、損金算入して申告した。
   ↓
 ・税務署は当該土地は固定資産であるとして評価損の計上を否認した。法人側は審判所へ持ち込んだ。

■関連規定(法人税)
  固定資産の評価損:損金算入が可能なケースは限定的。
  棚卸資産の評価損:低価法による評価を選定すれば時価までの切り下げが可能。

■審判所の判断
 ・法人が期末時点において当該土地を販売用として保有している事実を認定し、納税者の主張を認めた。

★ポイント
 ・棚卸資産は低価法を選定すれば時価までの評価損計上が可能。
 ・事実関係に問題がなければ、同一の資産の資産区分変更(固定/棚卸)が税務上も認められる。


9.スチュワードシップ・コード

・「責任ある機関投資家」の諸原則のこと
・機関投資家の行動指針 2014/2に金融庁を事務局とする有識者検討会で策定
7つの原則で構成
・目的:
 機関投資家が投資先企業との「目的を持った対話」を通じて「企業価値の向上や持続的成長を促す
⇒顧客・受益者の中長期的なリターンの拡大」を図り、経済全体の成長につなげること

具体的なコード
・受託者責任を果たすための明確な方針
・議決権の行使と行使結果の公表に関する指針
・管理すべき利益相反取引等について明確な方針を策定し公表する


10.特定支出控除の対象に「ベビーシッター代」を追加(案)

・厚労省の2016年度税制改正要望。

・特定支出控除とは…
 対象は会社員。
 給与所得控除額の2分の1を超えた「仕事のために使った経費」を所得控除できる制度。
 利用には会社が「業務上必要と認める証明」が必要。

・ちなみに英国では、ベビーシッター代は70%まで「税額控除」できる。

・ベビーシッターを数十万円~使って控除を受けられるのは高所得の会社員に限られる?






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2015年8月22日土曜日

8/21 勉強会:賃借建物の内部工事費用と耐用年数 他

1.賃借建物の内部工事費用と耐用年数

∇賃借建物に造作をした場合の耐用年数
⇒合理的に見積った耐用年数で償却
「合理的」の方法は明示されていないため、客観的に「合理的」と認められればOK

(例)
3年毎に内装を変更することとしている飲食店⇒3年でOK
・中古ビル1棟を賃借して建物全体に造作をする場合
⇒ビルの中古耐用年数と造作の耐用年数で按分してOK
・賃借期間の定めがある場合で貸主に買い取り請求できない場合
⇒賃借期間で償却してOK


2.税務:東京・大阪・名古屋局の超富裕層の管理体制の全国展開も視野

■目的
超富裕層およびその保有する法人について、海外関連課税、所得課税、相続課税の管理・調査体制の強化を図る。

■対象
A:形式基準
見込保有資産総額が特に大きい者

B:実質基準
形式基準に該当しない者のうち,一定規模以上の資産を保有し,かつ,国際的租税回避行為その他の富裕層固有の問題が想定され,重点管理富裕層として特に指定する必要があると認められる者
 ※基準数値は非公表

■監視対象からの解除
形式基準により対象になった者は、基準を下回るまでは少なくとも解除されない。
実施基準により対象になった者は、これ以上重点的な管理を特に要しないと認められた者は解除される可能性がある。
 ※ただし、課税上の問題がありそうな者は対象外。


3.会社役員賠償責任保険(D&O保険)

・役員が株主や取引先などに損害賠償責任を追求された場合に、当該賠償額や争訟費用等を填補する保険
・経産省の調査で、上場企業253社のうち、9割が加入していた

・経産省の研究報告書では「役員が過度にリスクを回避しないようにするためには必要」と整理。

・税務
  基本契約(普通保険約款部分)/:第三者からの損害賠償責任の保険料:会社負担OK
  特約保険料:会社負担とした場合は役員への給与課税となる。

・コンプライアンス上、必要な措置
 利益相反の観点から取締役会の承認
 社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意


4.ふるさと納税に続き、ふるさと住民票 導入の動き

・(対象者)「ふるさと納税」の利用者、自然災害による避難者

・(得られるもの)自治体広報の受取、住民料金での公共施設利用、条例に基づく住民投票権

・(狙い)都市圏の人口を、地方に取り込むための方策の一つとして導入

・民間のシンクタンクが提案し、8市町村(北海道ニセコ町、福島県飯舘村など)が共同呼びかけ人に





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2015年8月16日日曜日

8/14 勉強会:会計上の見積りが確定した年度の実務対応ポイント 他

1.分掌変更による役員退職慰労金の「退職所得」性と分割支払金の損金性

 まとめ
・同族会社の創業者である代表取締役が、その役職を辞任しただけでは退職したと言えない
 非常勤取締役になる、実質的に代表権がない、報酬が以前の50%以下となることが必要(分掌変更があることが必要)

・分掌変更に伴う役員退職慰労金は退職所得かどうか
 上記を満たしていれば退職所得と言える(所得税基本通達30-2(3))

・分掌変更に伴う役員退職慰労金を分割支給した場合、第2回目以降の支給額は
 (1)退職所得となるものかどうか
 退職した事実に基づき支給されるものであるなら退職所得
 (2)どの時点で損金となるのか
 原則:株主総会の決議があった事業年度に全額を損金とする
  例外:資金繰りが厳しいなど事情がある場合は、その支給の都度、支給があった金額を損金とする(中小企業においてはよくあること)
 
・役員退職慰労金の分割支給の問題点
 結果的に利益操作の余地を法人に与えてしまっている


2.宗教活動の収益帰属で一部取消裁決

事案
宗教団体の名称で行われていた事業から生じた収益が請求人(宗教団体の師)に帰属するか否かが争われた。

審判所の判断
収益は宗教団体に帰属しないが一部収益については請求人に帰属しないと判断。

主な判断理由
請求人に帰属すると判断された収益は、請求人名義の口座へ入金されそこから生活費が出金されていた。
請求人に帰属しないとされた収益は、上記のようなことは認めれず担当者個人の独立採算による運営・管理がされていた


3.今週の専門用語

処分の理由
・平成2511日以降、国税通則法の改正により申請に対する拒否処分や不利益処分を行う場合は理由附記が必要になった。

()申請に対する拒否処分
  ・更正の請求に対して更正すべき理由が無い通知
  ・青色申告承認申請の却下 等

()不利益処分
  ・更正、決定、加算税賦課決定、督促、仮押え 等


4.売上リベートの認識時期が異なることに

売上リベートの会計上の取扱い
(1)現行の日本基準
一般的な定めはなく、実務上の一般的な取扱いは以下の通り
 ・勘定科目:売上高から控除又は販売費として計上
 ・認識時点:支払の可能性が高いと判断された時点

(2)IFRS15
 ・勘定科目:売上高から控除
 ・認識時点:履行義務を果たした時点

(3)売上リベートを販売費として処理していた日本企業がIFRSを適用すると
 ・勘定科目が異なる
 ・収益の金額が減少する
 ・認識する時期が異なる

多くの日本企業において売上リベートの支払いが行われている現状を考えると、IFRSの適用は日本企業に与える影響は大きい


5.マイナンバーを含む個人情報、行政機関はどこまで把握可能か

マイナンバーはどのように管理されるか
・情報提供ネットワークシステムにて管理される。
・個人情報が必要な行政機関は、同システムを利用して、情報の照会や提供を受けることができる。
・民間事業者は利用できない

なお情報提供ネットワークで一元管理されるわけではなく、各行政機関等がそれぞれの項目ごとに分散して管理する。

情報提供ができるケース(限定列挙されている。)
・都道府県知事等が、生活保護支給に関し市町村長より提供をもとめる場合。
・厚生労働大臣が、年金の支給に関し市町村長より提供をもとめる場合。

現在は120ほどに限定されているが、今後、追加される可能性あり


6.消費税めぐる税賠トラブルで税理士敗訴が相次ぐ

【例1
・税理士が、個人医院経営者に、節税目的として法人化を提案し、設立認可手続き等の一部を行う旨の契約を締結。
・資本金1000万円未満とするように説明・指導しなかった。
・その結果、設立2期分の消費税が課税された(資本金1000万円未満なら免税だった)
・節税目的に沿う資本金設定についての説明・指導義務を怠ったとして、税理士に損害賠償が課された。

【例2
・税理士が、顧客の申告書を作成した際、香典・見舞金を課税仕入として処理(本来不課税)
・後日の税務調査で、過少申告加算税、延滞税が課された。
・顧客は、別の税理士に修正申告書の作成を依頼。
・上記、追加税額負担に加えて、他の税理士に依頼した修正申告作成費用についても、誤った税理士に損害賠償が課された。


7.包括的租税回避防止規定適用リスクの判断基準

1. 記事の内容
ヤフー事件、IDCF事件、及び日本IBM事件を通じて、包括的租税回避防止規定が適用される判断基準を考察した記事

2. 判断基準
(1) 租税回避防止規定が適用されるリスクが高くなる判断基準
・ 租税回避目的が事業目的より優越
・ 租税法規の趣旨・目的に反する
(2) 租税回避目的が事業目的より優越しているか否かの判断基準
・ 『 達成した成果 』が、事業目的より租税回避目的が優越
・ 『選択した法形式』が、事業目的より租税回避目的が優越

3. 事例検討
(1) 事例の概要
・オーナー企業を買収
・買収形態は株式譲渡方式

オーナーにとって、配当所得として課税されるより、譲渡所得として課税された方が税負担が少ないことが多いことから、事業譲渡方式ではなく、株式譲渡方式を選択

(2) 行為を否認される(事業譲渡であるとされる)リスクを低減するには
 ・『 達成した成果 』について
 経営を支配するという事業目的に不合理がないことを説明出来るようにしておく
 ・『選択した法形式』について
 株式譲渡方式の方が、事業譲渡方式よりも簡便、合理的である事を説明できるようにしておく。


8.会計上の見積りが確定した年度の実務対応ポイント

会計上の見積りに該当する項目
 ・繰延税金資産の回収可能性
 ・金融商品の評価
 ・固定資産の耐用年数
 ・引当金       など

基準上の取扱
 見積もりと確定額に差異が発生
  (1) 投資者への意思決定に与える影響 小(重要性なし)
   差額発生時の損益
  (2) 投資者への意思決定に与える影響 大(重要性あり)
     2A. 入手可能な情報に基づき最善の見積りができていた場合
      差額発生時の損益
     2B. 入手可能な情報に基づき最善の見積りができていなかった場合
      過去の誤謬

実務上重要なこと
 ・会計監査人との「重要性」及びどのような作業が必要になるか、考え方を摺合せ
 ・新たな事象の発生や新たに入手可能となった情報により見積差額が生じていることを合理的に説明できること

例(賞与の支給の場合:支給日331日、決算日1231日)
 ・1412月末:冬季賞与として基本給の1か月分を支給する方針
  120百万円を引当金計上
 ・153月末 :労使交渉の結果、1.2ヶ月分を支給することになった。
  ⇒確定額144百万円
 ・差額24百万円は、重要性があるものと判断されている。

  12月末の決算時において、3月に労使交渉を控えているものの、結果的に基本給の1月分を賞与として支給することになると考えている旨、会計監査人に説明しておくと、見積差額に関する検討をより円滑に進められるものと考えられる。


9.子会社のその他有価証券評価差額金の連結財務諸表上の会計処理

 Q.改正により、親会社による支配が継続する状態での子会社株式の追加取得・売却では、のれんを増減させず、資本剰余金を増減させることで対応することになった。
   子会社BS上のその他有価証券評価差額金の取扱いに変更はあるのか?

 A.従前と同じ。


10.平成276月開催の株主総会分析

・主な質問項目
  -経営政策、営業政策
   →競合他社との比較における当社の強み弱み、今後伸ばす事業について
  -財務状況
   →為替変動リスクに関する質問、原価に関する質問、利益率に関する質問
  -リストラ・人事・労務
   →女性の活躍に関する質問、人材育成に関する質問
  -配当政策・株主還元
  →配当方針に関する質問、株主優待制度の導入に関する質問

・社外取締役の選任増加
  社外取締役を選任する上場会社が87%に(昨年比22.9ポイント)。
  改正会社法で監査役会設置会社で有報提出会社が社外取締役を設置しない場合、株主総会での理由説明が必要になったため。

・監査等委員会設置会社への移行
  6月末までに移行の開示を行った会社が189社あった。
  改正会社法で新たに認められた。
取締役3名以上(過半数は社外取締役)で構成する監査等委員会が取締役の業務執行を監査する株式会社。

・コーポレートガバナンスコードの対応状況
  招集通知にCGコードの対応状況を記載する会社は限定的であった。
上場企業が守るべき行動規範


11.M&Aにおける簿外債務の検討法

 (1)簿外債務の性質による4分類
・容易に金額換算、発生可能性が高(未払退職給付債務等)
・容易に金額換算、発生可能性が不明(税務調査における未払税金)
・容易に金額換算×、発生可能性が高(訴訟債務)
・容易に金額換算×、発生可能性が不明(土壌汚染等の環境問題)

(2) 簿外債務の調査の流れ
・一般的には経営者、部門責任者、部門担当者、顧問弁護士、税理士へのヒアリング
上席者では確認できない事項でも、担当者レベルからヒアリング出来る事もある。
短時間でもいいので、顧問税理士との面談は望ましい
・簿外債務に対するリスト(後発事象等)を作成しヒアリングを実施
・各種契約書、稟議書の確認等

(3)契約条項交渉時の対応方法
・いかに効率的なDDをやっても簿外債務のリスクをゼロにはできないため、対象会社に表明保証を求め、補償条項を盛り込んでリスクを回避する
表明保証を求めることで、DD時には回答されなかった事項や誤って回答していた事項について、開示される可能性がある。

(4)簿外債務の疑いがある場合のスキームの検討
・事業譲渡の場合、契約で移転する資産・負債を特定できるため、簿外・偶発債務を引き継ぐリスクを小さくすることが出来る
・会社分割も、事業譲渡と同様、分割契約に記載された範囲で資産・負債を移転できる。
 ただし、「○○事業に関する資産・負債等の一切が買手に承継される」と規定した場合は、○○事業に関する簿外債務も負担しなければならない可能性があるため注意を要する。


12.役員報酬 税優遇拡大へ

・経済産業省が2016年度税制改正要望を8月中にまとめる

・役員の業績連動給与を見直しへ
(現行)指標は利益のみ、全役員一律の計算方式
(改正案)ROEROAも指標として認める、職務に応じた個別算定が可能に

・その他、「株式報酬も算入しやすくする」「ボーナスの期中変更も可能に」する方針

・詳細は未定









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2015年8月9日日曜日

8/7 勉強会:中小規模事業者(マイナンバー) 他

1.D&O保険料の会社負担可も給与課税対象

DO保険
 以下の2つがある
 ・普通保険約款
  第三者訴訟における役員の損害賠償責任をカバー
  保険料を会社負担した場合、給与課税なし

 ・株主代表訴訟補償特約
  株主代表訴訟における役員の損害賠償責任をカバー
  保険料を会社負担した場合、給与課税あり
  …会社法:忠実義務違反に抵触しかねないと指摘あり
   税務上:源泉所得税の個別通達に規定あり

■政府の方針の明確化
 ・株主代表訴訟補償特約の保険料の会社負担を問題なしとするよう会社法の解釈を明確化する方向
  …犯罪や法令違反を認識しながら行った行為等に基づき生じた損害をDO保険では免責としているため

 ・ただし個別通達があるため、保険料を会社負担とすると税務上は給与課税されてしまう

 ⇒個別通達の改正を求める声が上がることが予想される

DODirectors and officers


2.無対価株式交換の会計処理の明確化を求める声

・無対価の組織再編の取扱いについて
⇒「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」において合併と分割の場合を規定。
 株式交換の場合の処理が規定されていない。

よって実務対応専門委員会に今後のテーマとするよう依頼中。


3.中小規模事業者(マイナンバー)

【原則】事業者のうち従業員が100名以下の事業者のこと
 該当する会社はマイナンバーの安全管理対応が特例で軽減される

【例外】下記に該当する場合は中小規模事業者にならない
 (1)行政機関等
 (2)税理士事務所、社会保険労務士事務所
 (3)金融系事業者
 (4)個人情報取扱事業者


4.税効果指針、控除対象外消費税を明記へ

■企業会計基準審議会は日本公認会計士協会の税効果に関する実務指針等の内容に相当するものを会計基準として別途策定することを検討

■「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」も検討対象の一つ
 (具体的に検討している内容)
・新基準の適用対象となる税金の範囲をどうするか
・控除対象外消費税に関する会計処理及び表示の取扱いを明記するか
・固定資産税等の認識時期について明記するか
・固定資産税や不動産取得税の処理の定めを置くか


5.マイナンバー制度

H27105日より国民1人ずつに付与される。
・一度付与されたマイナンバーは、原則として生涯変更されることはない。
・利用目的を明示した上でマイナンバーの提出を求める必要あり。
 目的を明示していない業務等にてマイナンバーを使用することはできない。

■Q&A
(1):マイナンバーの本人確認につき通知カードが手元にない場合は?
  A:住民票の写しに加え運転免許証等を提示してもらう。
   マイナンバー施行後、住民票にマイナンバーが記載されることとなるため。

(2):マイナンバー取得にあたり独自の届出書を提出してもらうが、扶養親族に記載してもらう際の注意点は?
  A:独自の届出書を使用する場合は、扶養親族等の委任状が必須である。
   「扶養控除等申告書」への記載については、従業員が扶養親族等の本人確認をすれば問題なし。
   この手続きがいち早く収集することが可能である

(3):不動産使用料の支払調書が不要となる場合(個人に対する年12万円の使用料)のマイナンバーは?
  A:不要である場合はマイナンバーを取得する必要はない。
   次年度以降提出する可能性がある場合は、契約締結時に取得しても構わない
   ※個人へ15万円超の家賃支払いは支払調書の提出が必要となる
     ⇒マイナンバーを記載して提出する必要あり

(4):取引先が法人の場合の本人確認は?
  A:確認する必要はなし
   なお国税庁のHPに掲載されるため、検索が可能であるから。

(5):非上場会社が支払う配当につき、株主からマイナンバーを取得する必要はあるか?
  A:H281月以降、配当を行う前に既存株主のマイナンバーを取得する必要あり(本人確認も必須)
ただし、3年間の経過措置があり、H311月以降の配当よりマイナンバーが必要となる。
   またH281月以降に新たに株主になった者は、その時点でマイナンバーの提供を求める必要あり

(6):個人カードを身分証明書にする際の注意点は?
  A:源泉徴収票の作成事務等以外で使用することは認められていない。
   身分証明書としてコピーされる場合は、番号をコピーされていないことを確認する必要あり

(7):従業員が退職した場合のマイナンバーが記載された書類はどうするか?
  A:事務処理を行う必要がある場合に限り保管し続けることができる。
   扶養控除等申告書は法令で7年間の保存義務があるため、従業員の退職後も保存しておく必要あり。

(8):マイナンバーのデータの廃棄等について
  A:法令等で保存期間を経過した場合は、速やかに復元できない手段等で削除・廃棄する必要あり。
   中小規模事業者は責任者が廃棄等の確認をすれば問題なし。

(9):PC上のマイナンバーを見られないための対策は?
  A:必ずしも別室にて作業を行う必要はなし。
   社内の事情にあった対策をとれば問題なし(フォルダにPWをかける等)


6.米国LPS訴訟

外国事業体の法人該当性で最高裁が判断基準を示す

■概要
・日本の居住者が海外不動産へ投資した。
・銀行を通じて、米国デラウェア州のLPS契約により設立した会社へ現金を拠出。
LPSが日本の法人でないと判断し、LPSの事業から生じた損失をパススルー課税として給与所得と損益通算した。

()LPSとは投資事業有限責任組合のこと
  組合員により構成され、組合員へ財産の分配がされる。

■争点
LPSが日本の租税法上において「法人」に該当するか否か

■判断基準
(1)外国事業体(海外の法人)が該当国の法令で、日本法上の「法人」に相当する法的地位を付与されているか。
  または付与されていなくても疑義のない程度で明白であるか。

(2)(1)が確認できない場合は、その外国事業体が権利義務の帰属主体であると認められるか。

■最高裁の判断
(1)はデラウェア州の法律を参照しても、日本法上の「法人」に相当するか明白であるとはいえない。

(2)については以下の点より帰属主体と判断できる。
・法律行為の当事者となることができる。
 ⇒外国事業体名で財産等の所有、法律行為を行うことができる
・法律の効果が帰属する。
 ⇒外国事業体が法律行為により発生する債権を有し債務を負う。
 ⇒外国事業体が訴訟上の当事者能力を有する
 ⇒債権債務が帰属されているのであれば、損益の帰属すべき主体も外国事業体である。

LPS事業により生じた所得は、外国事業体に帰属するため、納税者はLPSより生じた損失を損益通算することはできないと判断した


7.馬券払戻金の所得区分の判断、最高裁事案と異なり一時所得に

・独自のノウハウにより、5年間で約72.7億の馬券を購入し、5.7億円の利益を計上
・雑所得として、ハズレ馬券を必要経費に計上できるか?

【東京地裁】
・一時所得であり、ハズレ馬券は必要経費に計上できない。
PCソフトで自動的に馬券購入していた訳ではなく、独自要素を使ってレースごとに予想している。
⇒偶発的利益が積み上がったもので、継続的行為による利益ではない。
・規模が大きい=継続的行為 ではない。
※控訴中


8.医療費控除:医師の指導に基づくサプリメントの購入について

■医療費控除の対象となる医療費
・医師又は歯科医師による診療または治療
・治療又は療養に必要な「医薬品」の購入
 など

■「医薬品」とは
・薬事法第2条第1項に規定する医薬品を言う

■サプリメントの取り扱い
・通常、厚生労働省の承認を受けていない(薬事法に規定されていない)
⇒たとえ、医師の指導により購入しているものであっても「医薬品」に該当しないため、医療費控除の対象とならない。

なお「医薬品」に該当するものであっても健康増進等のために購入するものは医療費控除の対象とならない。


9.所得税:事業関連者からの開業祝金 ⇒所得税?贈与税?

個人事業主が受け取る開業祝金は、どの税目で課税されるのか。
 ①売上ではなく個人間の贈与なので、贈与税の対象?
 ②事業上の収入であるため、所得税(事業所得)の対象?
 ⇒②所得税の対象とすべき

■考え方
・資産の譲渡や役務提供の反対給付として受け取るもの(売上)であるか、単に貰うものであるかは判断基準とはならない。
・事業に付随して受領するか否かがポイントとなる。単に貰うケースでも、事業関連性があれば事業所得の収入とする。
 ⇒開業祝金は事業に関連するものであるため、贈与税ではなく所得税の範疇で課税される。


10.多重代表訴訟制度

・最終完全親会社等の株主が、子会社の取締役等の責任について代表訴訟を提訴できる制度。
・議決権の1%以上を保有する株主に限定
・訴訟の対象は「重要な子会社」の取締役等の責任
 ⇒対象子会社の株式の帳簿価額が最終完全親会社等の総資産額の1/5を超えている必要がある。


11.会社法上で、会計監査人監査が必要な場合の諸論点

1. 会社法上、会計監査人監査が必要なケース
 ・大会社(資本金5億以上 or 負債200億以上の会社)
 ・指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社
 ・会計監査人を任意に設置した会社

※会社法上、監査を求めている理由は、適正な計算書類を作成し、開示することにより、株主や債権者の保護を図るため。

2. どのタイミングで大会社に該当するのかを判断し、いつから会計監査人監査が必要となるのか。
 ⇒ 定時株主総会で承認された貸借対照表で大会社かどうかを判定
 ⇒ 該当することとなった場合、翌事業年度から会計監査人監査が必要となる。


12.土地を売却した結果、消費税計算で課税売上割合が低下した場合の対処法

1. 課税売上割合が低下するとどうなるか
 ⇒ 仕入税額に課税売上割合を乗じた金額を、仮受消費税から控除できる。
 ⇒ 課税売上割合が低下すると、控除できる金額が減り、納付すべき税額が増える。

2. 土地の売却により、課税売上割合が低下した場合の対処法
(1) 対処法
 ⇒ 課税売上割合に準ずる割合の適用を検討
 ⇒ 課税売上割合に準ずる割合とは、過去の課税売上割合を基に算出されるもの
 ⇒ 土地の譲渡を考慮しない割合で消費税計算が出来る。
(2) 課税売上割合に準ずる割合とは
・土地の譲渡が単発
・従来と事業の実態に変化がない
⇒ 上記をすべて満たした場合、下記のいずれか低い割合を課税売上割合に準ずる割合として、課税売上割合の代わりに使うことが出来る。

(1) 土地の譲渡があった前3年の通算課税売上割合
(2) 土地の譲渡があった期の直前期の課税売上割合

3. 留意点
・仕入税額控除の計算において、個別対応方式を採用していないと使えない。
・税務署長の承認が必要なため、決算日の3か月前には、申請することが望ましい。


13.カーブアウト型M&A特有の検討事項

・カーブアウト型M&A
 企業から一部(部門・工場と人員・特定の製造ラインなど)を切り出し、それを他の企業が買い取る形のM&A

・特性・留意点
 (1) 財務諸表の作成方法や前提に起因する特性
 ・M&A用に「急いで」作成されたものであることが多いため、事業部門の範囲にズレが生じる場合あり
 ・部門別に分けられていても本社費が一定の方法で配賦されているような場合は留意が必要

 (2) BSに関する特性
 ・対象部門に係る負債の把握
 ・事業部門間で共有する資産の振り分け

 (3) CFSに関する特性
 ・無理やり切り出したBS・PLをもとに作成したCFSの信頼性 → 資金繰り問題ないか

 (4) PLに関する特性
 ・スタンドアローン費用の把握


14.キャッシュ・アウト手法選択上のポイント

【キャッシュ・アウトとは?】
 対象会社の支配株主が、少数株主の株式全部を承諾を得ることなく金銭を対価に取得し、締め出すこと

・手法の検討・判断が必要に
 ⇒今までは、全部取得条項付種類株式を活用する手法が一般的
 ⇒改正会社法により、2つの手法が加わった。
①特別支配株主の株式等売渡請求を用いる手法
特別支配株主(90%以上保有株主)は、個々の売渡株主等の個別承諾を得ることなく、売渡株式等の全部を金銭を対価として取得することが出来る。
②株式併合を用いる手法
キャッシュアウト実施者以外には、株式併合後には端数しか残らないような併合比率で株式併合を行う

・どれを選択するか?
A 保有議決権割合が90%以上 
→①の特別支配株主の株式等売渡請求を用いる手法を検討。時間と手続きの負担が軽い為。

B 補修議決権割合が90%未満
→②の株式併合を用いる手法を検討。財源規制違反に伴うリスクを回避できる点等。


15.監査等委員会設置会社のメリット・デメリット

■メリット
(1)取締役会付議事項の削減による経営判断の迅速化
・取締役の過半数が社外 または 定款の定めがある場合
  重要な財産の処分と譲受
  多額の借財
  支配人その他の重要な使用人の選任と解任
  支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止  等
  (※一定の法定事項を除き)
 重要な業務執行の決定の全部または一部を取締役に委任OK

(2)社外取締役の重複感の解消
・監査役設置会社は社外取締役2名+社外監査役2名=社外役員4
・監査等委員会設置会社は監査等委員会を3名で内社外を2名でOK

(3)海外投資家、機関投資家からの指示
・監査等委員会設置会社では、監査等委員会は議決権を有する取締役により構成され
・取締役人事・報酬等に関して株主総会に意見陳述権を有する
→海外投資家への説明がしやすく指示を得やすくなる


16.【会社法】⇒ 社外取締役の要件が変更。

・(従来)
× 会社や子会社の業務執行取締役、従業員およびその経験者

・(変更後)
× 会社や子会社の業務執行取締役、従業員およびその経験者(直近10年間)
× 親会社の取締役
× 兄弟会社の業務執行取締役
× 会社の取締役・重要な従業員・支配株主の2親等以内の親族

【証券取引所規則】⇒「独立」社外取締役 原則2人以上、1人以上必須
「独立」社外取締役とは、社外取締役のうち下記を満たす人物


・重要な取引先でない










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