2017年3月17日金曜日

3/17 勉強会:短信・有報の記載内容見直しのポイント 他

1.類似業種比準方式、会社規模要件で大幅見直し

■国税庁は「財産評価基本通達」の一部改正(案)に対する意見公募手続きを開始 (3/30まで募集)
・取引相場のない株式の評価(類似業種比準方式)の見直し
⇒平均で約1割程度、中小企業の株式の評価が下がる見込み
⇒平成2911日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産の評価に適用

■主な改正内容
・類似業種の株価について「課税時期以前2年間平均」が追加
⇒従来は「課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価のうち最も低いもの」または「類似業種の前年平均株価」だった。
・比準要素(B:配当、C:利益、D:簿価純資産)について、単体数値から連結数値へ見直し
・比準要素のウェイトを「1:3:1」から「1:1:1」に見直し
・規模区分の金額等の基準を見直し、大会社及び中会社の適用範囲拡大
⇒従業員数70人以上=大会社へ、大会社の卸売業の年間取引額を「30億円以上」に引き下げ
⇒中会社の区分も総資産価額や年間の取引価額を軒並み引き下げ


2.有償新株予約権の会計処理()案が判明

※従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い (実務対応報告)

■有償新株予約権(有償SO
・上場企業だけでも約300社が導入

■実務対応報告の適用日
・公表日以降(経過措置あり)

■経過装置
公表日より前に有償SOを付与した取引については、(1)(2)を注記することにより、従来の会計処理継続可
(1)権利確定条件付き有償SOの概要
・各会計期間において存在した権利確定条件付き有償SOの内容
・規模(付与数等)
・変動状況(行使数や失効数等)
(2)採用している会計処理の概要


3.認定医療法人の贈与税非課税、新たな認定制度は10月に施行

■医療法人(おさらい)
・「持分あり医療法人」は18年改正により新設することができなくなった
・「持分あり医療法人」から「出資持分のない医療法人」へ移行を促すため、移行期間中に持分を法規すれば相続税・贈与税が免除される施策が取られている

※医療法人は株式会社のように利益の分配(≒配当)が出来ないため、純資産が膨れ上がってしまう傾向があり、持分があると過大な相続税・贈与税がかかるなどの問題点がある

■平成29年度改正
・相続税・贈与税が免除されるためには一定の要件を満たす必要があるが、その要件が29年度改正で更に緩和されることとなる

(緩和内容)
・役員の親族が役員総数の1/3以下
・法人関係者に利益提供をしない 等


4.フェア・ディスクロージャー・ルール、上場企業が悩む重要な情報の対象とは?

■今月(173)上旬に金融商品取引法の一部を改正する法案が閣議決定
⇒フェア・ディスクロージャー・ルールの導入へ

■フェア・ディスクロージャー・ルール
⇒上場会社等が未公表の重要な情報をその業務に関して(例えば、IR活動において)意図的に証券会社・投資家等に伝達する場合は同時に行い、意図することなく、証券会社・投資家等に伝達してしまった場合は、その後、速やかに当該情報をホームページ等で公表するよう、求めるルール

■重要な情報の範囲
・現行のインサイダー取引規制の対象となっている情報の他、
・現行の規制対象となっていないが、公表前の確定的な決算数値であり、かつ、株価に重要な影響を及ぼすものも含む


5.取得費加算特例で廃止通達の適用可

■取得費加算特例とは(譲渡所得)
相続により取得した土地や建物等を一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を取得費に加算することができる特例

H26年度税制
2以上の譲渡(短期譲渡及び長期譲渡)があった場合、税率が高い短期譲渡所得から取得費の加算を認める規定が廃止になった。
この通達はH2711日以後に開始した相続等に係る資産の譲渡につき適用。

■ではH261231以前に相続があった資産の譲渡については?
通達では廃止されているものの適用可能。


6.処分理由不提示でも地方税法に違反せず

■事案
・東京都が納税者に対し、第二次納税義務の納付通知処分を実施
・第二次納税義務が発生したのは、地方税法第11条の8が適用されるため
・通知書には、義務を負うことになった具体的な事実関係となる課税理由の明記なし
⇒行政手続法141項に違反するか否かをめぐって裁判

■判決
・納税者側の敗訴
⇒行政手続法33項により違法ではない

■根拠法令
行政手続法141項:行政庁が行う不利益処分には理由の提示が必要
国税通則法141項:国税に関する不利益処分には理由の提示が必要
行政手続法33項 :地方公共団体がする処分は同法141項を適用しない旨を規定


7.欠損金の繰越控除と新設法人

■新設法人の特例
設立の日から7年を経過する日までの期間内に属する事業年度は欠損金の全額が控除可能

ただし、
・資本金5億円以上の大法人の100%子会社
7年以内に上場した場合の上場以後
については所得金額の50%~65%の控除制限あり

この規定は資本金基準がないため、たとえば資本金10億円で設立された場合であっても資本金5億円以上の大法人の100%子会社でなければ適用可能となる


8.債務免除益の源泉義務巡る差戻し審で判決

■事案
組合⇒理事長へ48億貸付⇒貸付を免除

■争点
1.本件債務免除益が給与等に該当するか
2.給与等に該当する場合、収入金額に算入すべきか
⇒債務者が資力喪失し債務弁済が著しく困難、債務免除益を収入金額等に算入しない通達を適用すべきか

■結論
理事長の資産額(17)から本件債務以外の債務の額(52-48=4)を控除した額=13億は、債務免除益として経済的利益に該当し、給与等の金額に算入
⇒源泉税(4.8) +不納付加算税(4.8千万)

■裁判所の判断内容
本件債務免除益は雇用契約に類する原因に基づき提供した役務対価、功労への報償等の観点も考慮した給付とみるのが相当。
⇒本件債務免除益は給与等に該当する。

なお、2.の 資力喪失については最高裁で判断しておらず、審理のため高裁に差戻している。


9.スクィーズアウト

・少数株主から強制的に株式を取得し、完全子会社化すること
・手法として、株式交換、全部株式取得条項付種類株式、株式併合、株式等売渡請求などを用いたものがある。
・平成29年度税制改正法案では、これらの手法について、一律に適格要件が設けられ制度間の不均衡を調整することが盛り込まれている。
 ※株式交換では時価評価課税が行われることがネックであったが、改正後は適格要件を満たせば課税繰り延べとなる。
・一番メリットがあると言われている手法
90%以上保有:株式等売渡請求
 株主総会の特別決議が不要。時間的・手続的コストが小さく、端株の端数処理も不要
90%未満保有:株式併合
 株主総会の特別決議は必要だが、他の方法に比べて手続面でのメリットあり


10.減価償却方法の変更に係る実務上のポイント

1.税法の改正
H28.4.1以降取得の建物附属設備、構築物に関しては定額法のみに変更

2.会計方針の変更
・従来より税法基準+附属設備等の償却方法を定率法から定額法へ変更
⇒会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当
・上記以外
⇒正当な理由に基づき、自発的に行う会計方針の変更に該当

3.開示
・会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当
⇒会計基準等の改正を理由に変更した旨を注記
・正当な理由に基づき、自発的に行う会計方針の変更に該当
⇒会計上の見積の変更と区別することが困難な場合として、変更内容、理由、影響額等を注記


11.翌期に合併等が行われる場合の会計処理のポイント

■繰延税金資産の回収可能性
・消滅会社の繰越欠損金に係る税効果に留意

■固定資産の減損
・消滅会社:合併等が行われない前提で減損判定を行う

■退職給付
・取得の場合
⇒被取得企業の未認識項目は取得企業に引き継がれない
・共通支配下の取引
⇒未認識項目も引き継がれる


12.短信・有報の記載内容見直しのポイント

ディスクロージャーワーキング・グループ報告における提言を受け、有報及び短信の記載内容が見直された。

■短信
適用時期:平成29331日以後に終了する事業年度もしくは四半期累計期間
・短信のサマリー情報について、上場会社に課している使用義務を撤廃
・短信のサマリー情報及び経営成績等の概況の先行開示が認められた
・短信の添付資料の記載事項から「経営方針」が削除(有報へ移動)
・短信の添付資料の「経営成績・財政状態に関する分析」が、「当期の経営成績・財政状態の概況」に簡素化

■有報
適用時期:平成29331日以後に終了する事業年度に係る有報から
・有報の記載内容に「経営方針」が追加


13.リストリクテッド・ストック

■概要
・役員等に勤務条件や業績条件の成就により譲渡制限が解除される譲渡制限株を付与
・条件未達の場合は会社が無償取得
→リテンション効果(引き留め)、中長期の株価向上に対するインセンティブの付与
■会計処理
(1)報酬債権付与および発行時
→報酬債権を付与し、これを現物出資で受け入れ、前払費用として計上
Dr 前払費用 / Cr 資本金・準備金

(2)役務提供期間
→役務提供期間で費用計上
Dr 株式報酬費用 / Cr 前払費用
Dr DTA       / Cr 法調

(3)無償取得
→条件未達
Dr 損失 / Cr 前払費用


14.子会社株式の認識・賞与減額QA

■期末を跨ぐ子会社株式の売買時の発生・消滅の認識時点
①子会社株式でない上場株式:(原則)約定日、(例外)修正受渡日
②子会社株式でない非上場株式、事業投資の子会社株式:受渡日

・約定日基準の前提:約定~受渡が、市場の規則・慣行に従った期間
⇒非上場株式には、規則・慣行なし
⇒事業投資:自益権・共益権がいつ生じるか⇒株式の受渡日がいつか

■賞与を一方的に減額できるか
①具体的な規定がない場合
(原則)可能⇒労働者が請求権を得るには使用者の決定or労使合意が必要
(例外)長年に渡って一定額を支給することが常態化⇒労働者に請求権有の可能性大

②就業規則に具体的な規定がある場合
※就業規則:使用者が作成する規則
if「基本給の1ヶ月分を支給する」⇒減額NG
論点1:個々の労働者との交渉すれば?⇒減額NG(就業規則に達しない部分は無効)
論点2:就業規則を変更すれば?⇒減額OKただし周知+変更の合理性必要(著しい業績悪化等はOK)

③労働協約に具体的な規定がある場合
※労働協約:労使間で決定する協定
⇒②と同様の取扱い


15.回収可能性適用指針が本適用に<税効果会計・法人税等会計基準案のポイント>

平成2841日以後開始する事業年度に影響を与える税金関連の指針等として、以下の3つが公表等されている。

■回収可能性適用指針
■消費税増税延期に伴う税制上の措置(地方法人課税に係る措置)
■法人税等会計基準案

■回収可能性適用指針
・繰延税金資産の回収可能性に関する実務指針を基本的に引き継いでいる
・留意すべき変更点は「企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取り扱い」
・分類1 
⇒ 実務指針を踏襲している。
・分類2 
⇒ ・一定の要件を満たしたスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産に回収可能性があるものとされた
  ・会計上の利益から課税所得に基づく要件に変更されている(分類3と共通)
  ・課税所得から臨時的な要因を除く(分類3と共通)
  ・過去3年及び当期のいずれの事業年度に重要な税務上の欠損金が生じていないことが追加 (分類3と共通)
・分類3 
⇒ ・一定の要件を満たした5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に回収可能性があるものとされた。
・分類4
⇒・期末に重要な税務上の繰越欠損金が存在するかではなく、過去3年または当期に存在していた否かどうかに焦点を当てる
・分類5
⇒ 実務指針を踏襲している。
・適用時期は平成2841日以後開始年度の期首から適用する

■消費税増税延期に伴う税制上の措置(地方法人課税に係る措置)
 ・法人住民法人税割の税率引き下げ、地方法人税の税率引き上げ、地方法人特別税の廃止および法人事業税の復元の実施時期が平成2941日から平成31101日に延長されている。
 ・単体納税制度を採用している場合、税効果への影響なし
 ・連結納税制度を採用しており、税金の種類ごとに回収可能性の判断が異なる場合、税国税効果会計に影響を与える

■法人税等会計基準案
 ・これまでの実務指から実質的な内容の変更は意図されていない。
 ・適用時期は公表日以後(平成28119)適用される。


16.今3月期決算の実務ポイント 税効果会計に適用する税率に関する適用指針

・公布日基準から成立日基準へ
⇒ 国会で法律の改正案が成立次第、新税率を適用

・各地方公共団体の条例改正を待たず、国会で改正地方税法等が成立した段階で、過去の実績等を基礎として税率を見積もる。


17.卸売業の上場審査

総資産に占める債権や在庫の比重が高い
⇒債権管理、在庫管理が重要なポイント

1)債権管理
与信管理方法や債権管理方法の内部管理体制の運用状況、滞留債権の評価基準について問われる。

・与信管理
新規先の信用調査はどのように行っているか
与信額がどのように設定されているか
取引条件などの承認方法が適切に行われているか

・債権管理
債権分類はどのように行われているか
滞留債権をどのように把握しているか
回収促進策の実施状況
過去の貸倒実績、残高確認の実施状況

2)在庫管理
適正在庫水準の考え方、品目別在庫月数、長期滞留品の評価基準などについて問われる。
実施棚卸方法、棚卸差異の発生状況などによる内部管理体制の運用状況が確認される。

3)その他
売上の総額表示か純額表示かも、同業他社の動向次第では問われる。









◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
ワンストップでサービスを提供  

2017年3月11日土曜日

3/10 勉強会:取引先の倒産、災害、不祥事…。トラブル別にみる具体的な対応ポイント 他

1.譲渡日の調整による欠損金活用不可に

29年税制改正で適格合併等に係る欠損金引継制限が適用されない"空白期間"が塞がれる。
・「特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額」は、「支配発生日」において有する資産に係る損失
⇒「支配関係事業年度の開始日」から「支配関係発生日の前日まで」の期間に特定資産を譲渡すれば損金算入できた
29年税制改正で損金算入不可に
※合併法人等に係る「特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額」についても同様


2.私道共用宅地の減額要否の判断基準示す

納税者が相続により取得した歩道が私道共用宅地に該当しないとした高裁の裁判決を破棄し、差戻しが行われた事案

■参考(評価通達24)
私道供用宅地の相続税評価は、路線価などの30%で評価
私道が不特定多数の通行に使用されている時は、ゼロ評価

■最高裁の判断
・私道供用宅地は、第三者の通行に使用され、所有所の意思により自由に処分等をする事に制約があることにより、時価が低下する場合に相続税評価を減額されるべきもの
・相続税評価における減額の要否及び程度については、建築基準法等の法令上の制約の有無だけでなく位置関係・形状等や道路としての利用状況、道路以外への転用の難易度等に照らし、減額の要否及び程度を検討すべき


3.個人所得課税改革で給与所得控除の見直しは?

平成29年度税制改正による配偶者控除の見直しを改革の第1弾とし、今後数年かけ個人所得課税の改革を進めていく予定。
給与所得控除が、平成30年税制改正の焦点となる可能性。

(復習)
■所得税の控除限度額は段階的に引下げ(確定事項)
・平成25年 控除限度額245万円
・平成28年 控除限度額230万円
・平成29年 控除限度額220万円

■配偶者控除額の見直し
・平成30年 収入限度額103万円⇒150万円

(今後の検討課題)
・給与所得控除等をはじめとしたあるべき控除額の設定
・人的控除の見直し(配偶者等)
・公的年金等控除の見直し(年金受給者拡大による)


4.JMIS(修正国際会計基準)第三弾、修正等はなしで決定へ

■前提
・国際会計基準
IASB(国際的な会計基準設定機構)が作成した、国際的な会計基準

・修正国際会計基準
ASBJ(日本の会計基準設定機構)が、日本に適合しているかという観点から、上記原基準の内容を検討し、必要に応じて、一部の内容を削除・修正した、日本版国際会計基準

JMIS(修正国際会計基準)第三弾
・公開草案通り、「修正・削除」すべき項目はなしで決定される方向

・今回の対象は、1411日~16930日にIASBから公表された、会計基準等のうち、171231日までに発効するもの
Ex.個別FSにおける持分法、連結の例外の適用、繰延税金資産の認識、等


5.エフオーアイ社の粉飾決算事件

■概要
・マザーズ上場。
・上場後に粉飾決算の事実が発覚。
・有価証券届出書及び上場申請時に虚偽の決算情報を記載したことを認める。
・破産手続開始の申立て。
・上場後7カ月で上場廃止。
旧経営陣のみならず、上場時の主幹事証券に対しても損害賠償責任が認められた裁判。

■旧経営陣・・・損害賠償責任判決
・有価証券届出書等へ記載について、粉飾決算を主導及び容認していたことから、虚偽記載していたことは明らかであると判断
・監査役も本来の業務監査で是正すべきであるにも関わらず、「相当な注意」をもって監査を行ったと認められないと判断

■主幹事証券・・・損害賠償責任判決(主幹事として初の賠償責任)
上場申請時より、粉飾を示唆する投書(内部通報)があったにも関わらず、売上の実態確認のために追加調査行わなかったことから、審査不十分かつ注意義務を尽くしていたとは認め難い判断
※上場前に2度上場申請を取り下げていた

■自主規制法人・・・投資家に対する注意義務違反なし
・会計監査人より売上の実在性の監査手法を確認済。
・帳票類や預金通帳の確認も行っていた。
以上より、漠然と追加調査を怠ったとは評価できないため。
※抽象的には注意義務違反ありと判示。

■東京証券取引所・・・不法行為の責任なし
自主規制法人が独立した立場で上場審査の全部を行っていたため、自主規制法人が行った審査の過程における過失は責任を負う必要はない。


6.国税庁、類似業種比準方式を見直しへ

国税庁が、類似業種比準方式の見直しについて、意見公募を開始(3/30まで)

■類似業種比準方式
類似業種の上場企業の株価を基にして、評価会社の配当、利益、純資産の3要素を比較することで株価を算定する方法

■改正理由
より実態に即した株価評価を行うことで、中小企業が円滑に事業承継できるようにするため
⇒現行の評価方法では、上場企業の株価の上昇に比例して想定外に高い株価評価になる恐れがある

■主な改正内容
1.類似業種の株価として「前2年間平均」が選択可能に
現行 :前月、前々月、前々月の前月、前年平均の株価のうち、最も低い金額を選択
改正案:現行+前2年間平均の株価のうち、最も低い金額を選択
【効果】上場企業の株価の急激な変動が、株価評価に与える影響を小さくする

2.配当、利益、純資産の比重の変更と連結決算数値の使用
現行 :配当、利益、純資産の比重は、1:3:1で計算
改正案:配当、利益、純資産の比重は、1:1:1で計算 ※連結会計上の数値を使用
【効果】利益が株価に与える影響を小さくして、好業績企業の株価の高騰を防ぐ

■適用時期
平成2911日以後に相続等で取得した財産の評価から適用


7.上場株式等の配当等 所得・住民税で課税方式の選択可

■上場株式等の配当等の課税方式
下記3パターンより選択が可能
(1)申告不要⇒源泉徴収税額をもって課税関係完了
(2)総合課税⇒給与所得等と総合して超過累進課税。配当控除の適用あり
(3)申告分離⇒15%の分離課税。上場株式の譲渡損失と通算が可能

H29年度分より所得税・住民税でそれぞれ(1)(3)の選択可(=所得税と住民税で異なる課税方式を取ってOK)となることが明確化される。H28年度以前については明確化されていないが選択可能

■具体例
所得税⇒総合課税(配当控除により還付となるケースあり)
住民税⇒申告不要(総合課税だと最低税率7.2%、申告不要だと税率5%)とすると有利になる場合がある。


8.消費税《譲渡した土地の地中にある不法投棄物の撤去をする場合の仕入税額控除》

■事案
・毎期課税売上高5億円以下
・土地を売却⇒課税売上割合95%未満⇒個別対応適用
・翌期、譲渡した土地にごみが大量に埋まっていることが判明⇒除去費用を負担
⇒当該除去費用は、税額控除の対象か?

■結論
・課税売上高5億円以下、課税売上割合95%以上である場合は全額控除対象
⇒前期は、個別対応であったため、非課税売上対応課税仕入れなど関係なく控除可


9.報告セグメントの変更

・セグメント情報とは、
売上高、利益、資産その他の財務情報を、事業の構成単位に分別した情報である。
・経営者が意思決定や業績評価のために、事業活動を区分した方法に基づいてセグメント情報を開示する。
・報告セグメントの決定後に区分の見直しが行われることもある
 見直しのパターンは以下の2種類。
 ⇒経営者の交代や会社の組織変更によって見直す場合
 ⇒量的基準による見直し。急激な売上増加があったセグメントの扱い等。


10.【租税条約】投資所得

1.投資所得
⇒配当、利子、使用料(ロイヤルティ)など
⇒源泉地国、居住国の両方で課税
⇒しかし、源泉地国の税率は制限、居住国が最終的な課税権を持つ

2.源泉地国の課税制限(原則)
(1)配当所得
⇒資本の25%以上を保有の場合は5%、それ以外は15%の税率まで制限
(2)利子所得
10%の税率まで制限
(3)使用料所得
⇒源泉地国では課税が免除
※ただし、実際の租税条約では一定税率まで課税されるケースもあり


11.(万が一の事態に慌てないために)決算作業中のトラブルにはこう対応する

■決算作業中に起こる事象とその対処を想定
・会社による意思決定(自己株式取得、増資減資等)
・災害や第三者によってもたらされる損害、訴訟 等
⇒これら事象の想定と、起こった時のフローを想定、整理しておく

■決算作業中にトラブルが生じた場合に検討しなければならないこと
・会計上の後発事象の検討
・取引所の適時開示への対応
・臨時報告書の提出
・決算発表が予定通りに行えるか

■情報収集体制の構築
・経理部だけでなく、他部門、子会社も巻き込む必要あり
・報告すべき情報の定義づけ⇒各部門に周知
・連絡体制、フロー等、経理部による情報収集のしくみの整備


12.内部統制の不備が顕在化した際の対応

■期末までの内部統制の是正措置の実施
・対象となる業務プロセスの再整備
・当該整備状況についてのテスト及び運用状況テストの実施と再評価

■期末までに是正されなかった場合は不備に対する評価の実施
・内部統制監査報告書にて「開示すべき重要な不備」とするか否かの検討
⇒不備の影響が及ぶ範囲
⇒影響の発生可能性の検討
⇒内部統制の不備の質的・金額的重要性の判断


13.内部監査部門の実態

■内部監査部門の有無・構成
・内部監査専任設置:約83
・内部監査とその他部署兼任:約13%
→合計で約96%の会社が設置
・兼務は経理系部署が大半
・年齢は50歳代が半数
・人事ローテーションあるが、異動しない職員は約6割いる
■組織上の位置づけ
・社長直下:約81
・大半の会社で複線(社長・取締役・監査役)の報告
■監査役との連携
・大半が監査の実施の都度または定期的に交換
・四半期以上が約8
・一方で監査役から内部監査への伝達は少数


14.これからの連結会計見直しプロジェクトにおける検討ポイント

■連結会計フローの変遷
従来:グループ各社でexcelの連結パッケージを作成⇒収集後、親会社担当者がそれぞれ取込
最近:各社クラウドにて個別に管理⇒親会社担当者は各社情報を一括自動取込
⇒データの精度・透明性upPKG作成+受領後チェックの省略化

■ポイント1:各社情報の収集方針の決定 (親会社)
①各社のシステムを共通した一元化システムに取込んでしまう方法
○:一度構築してしまえば、後が楽
×:各社のシステムを変更する時間・コストがかなり大きい

②各社決算情報をもとに、コード変換+自動連携する方法(実務上多い)
○:効率的
×:各社に、連結会計に必要な項目を抽出するシステムを用意してもらう必要

■ポイント2:他部門との連携(親会社タスク、以後上記②を前提)
ITの観点⇒システム部門との密な連携(グループ間のネットワーク整備等)
・業務の観点⇒親会社部門間での協力体制確保+各社への説明・連絡フロー確立

■ポイント3:データの検証とトレーニング(親会社)
ITの観点⇒自動連携されるデータの信頼性確保(特に科目マッピングの適時メンテが大事)
・業務の観点⇒各社主要ユーザに対するコーチング

■ポイント4:変化への対応(グループ各社)
・プロジェクトチームの創設
ITの観点⇒システムのベンダーに対する機能開発依頼
・業務の観点⇒親会社への提出期日に間に合うか事前テスト


15.取引先の倒産、災害、不祥事…。トラブル別にみる具体的な対応ポイント

どのようなトラブルが発生した場合でも、以下2点の対応が必要となる。
① 影響額を把握する
② 修正後発/開示後発に該当するか、適時開示/臨時報告書での開示が必要か判断する

トラブル例として下記があげられ、個々のトラブルに応じた対応が求められる。
(個々のトラブル特有の対応は⇒以降に記載)

・売掛金が回収できていない取引先が倒産してしまった(回収懸念先になってしまった場合)
⇒倒産を予知できていなかった場合は、管理体制を見直す。
・災害が発生して財務的な損害が出てしまう場合
⇒人命救済・安全確保が最優先
・不祥事が生じた場合
・業務上のトラブルが発生した場合
⇒会社の業務に関連するものか個人に関連するものか把握する。
・訴訟が生じた場合
・役員が逝去した場合
・税務調査の影響
⇒「見解の相違」であれば過去の誤謬には該当しない
・監査法人の審査対応
⇒監査法人からの指摘事項や見解の相違事項があれば、監査法人等と協議し、根気強く説明する
・システム障害が生じた場合
・財務報告に係る内部統制上の重要な不備が検出された場合


16.今3月期決算の実務ポイント 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

・分類2 スケジューリング不能な一時差異
(従来)繰延税金資産の回収可能性なし
(改正後)将来のいずれかの時点で損金算入されることを合理的に説明できれば回収可能性あり

・分類3 5年を超える期間にスケジューリングされた一時差異
(従来)回収可能性を認められない
(改正後)合理的な根拠があれば回収可能性が認められる

・分類4 
(従来)特別な原因の損失を除けば毎期所得を計上できると認められれば分類3と出来る
(改正後)分類3または分類2と出来る


17.会計監査を受ける前に整備しておきたいポイント

1.会計処理の根拠資料は、検証可能な状態で整理されているか?
⇒伝票番号等を根拠資料に付すなど、会計処理と根拠資料の関連を明確にする。
2.会計処理の根拠資料は、すべて網羅的に保管されているか?
3.内容不明の残高、勘定科目内訳に残っていないか?
4.発生主義で会計処理を行うために必要となる情報は収集できているか?
⇒販売管理システムなどとの連携が必要。
5.実地棚卸はきちんとやっているか?
6.在庫の受払記録は作成しているか?
7.固定資産台帳に記載されている資産は実在しているか?
8.原価計算を行うための体制は整っているか?
⇒時間がかかるため、早めに着手した方が良い。
9.連結範囲の確定前に整理すべき関係会社はあるか?
⇒当社が実質的に支配しているかどうかの判断が必要。
10.子会社において、連結決算に対応できるだけの体制が整っているか?

⇒連結するにあたって、必要情報が親会社に集められる体制が必要。









◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
ワンストップでサービスを提供  

2017年3月3日金曜日

3/3 勉強会:未実現損益の税効果、従来通り繰延法に 他

1.地方税をめぐり納税者勝訴が相次ぐ

■①数か所に分かれて存在する共有土地の現物分割も不動産取得税の非課税対象
・「共有物の分割による不動産の取得」については、不動産取得税は課されない(地法7372号の3
⇒分割前に有していた持分割合を超えない取得であり、複数の共有地で互いに隣接し、その共有者が同一で、かつ、持分割合が同じである場合において、・・・非課税として取り扱って差支えない
(事例)
・納税者とその兄は、相続により取得した共有物である土地(納税者43.8%、兄が56.2%所有)を3筆に文筆
・真ん中の土地を代金分割として第三者へ売却する一方で、両脇の土地を現物分割
・東京都は真ん中の土地が第三者へ売却されており、両脇の土地は隣接する共有地にはなっていないと指摘
⇒地方税法73条の72号の3の適用はないと主張
⇒裁判では非課税と認められ納税者勝訴

■②老人ホームの付属駐車場の敷地が「住宅用地」か否かが問題に
・土地に対する固定資産税の課税標準=原則、固定資産台帳に登録された価格(地方349
 ただし住宅用地については課税標準を3分の1とする特例あり(地方34932
(事例)
・本件土地上には駐車場(9か所、合計面積約141㎡)があったが、入居者は利用していなかった
・都税事務所は駐車場については住宅用地に該当しないと判断
⇒外部事業者も利用しており「居住者のための施設」とは認められないと主張
⇒裁判所は駐車場には柵等の区分はなく、家屋の出入口まで接続されていること、入居者が呼ぶタクシーが利用していること等から、駐車場は併用住宅としての本件家屋と一体のものとして利用されており住宅用地に該当と判断
※控訴中


2.空き家に係る譲渡所得の特例、適用を受けるためのポイント

1.特例の概要
家屋を相続した相続人が家屋又は取り壊し後の土地を譲渡した場合、その譲渡所得から3,000万円を特別控除するというもの
2.適用のポイント
(1)下記の3つを確認する必要がある
.譲渡日の要件あり
.対象となる家屋の要件あり
.譲渡する際の要件あり
(2)「自己居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」または「自己居住用財産の買換え等に係る特別措置」のいずれかと併用可能
(3)「相続財産譲渡時の取得費加算特例」とは選択制


3.退任時譲渡制限解除で退職所得に該当も

・平成29年度税制改正において、役員給与税制の見直しが入った

⇒退職給与のうち、業績連動給与に該当する退職金は、業績連動給与の損金算入要件を満たさない限り、損金不算入

⇒退職給与のうち、業績連動給与に該当しない退職金は、引き続き過大でない限り損金算入可能となる

インセンティブ報酬の1つである譲渡制限付き株式報酬であっても、業績や株価に連動して付与株式数が変わらないものであれば、その譲渡制限を退職時に解除することにより「退職給与」として損金算入できる可能性が出てくる。


4.未実現損益の税効果、従来通り繰延法に

■未実現損益の消去に係る税効果の取り扱い
・日本基準:繰延法
・米国基準:棚卸資産は繰延法+それ以外は資産負債法
IFRS:資産負債法

■論点
・日本基準のままか
・米国基準に合せるか
IFRSに合せるか

■企業会計基準委員会の検討結果
・従来通り、繰延法を採用する方向
・主な理由は、下記の通り
(1)システム変更や内部統制の構築等、多大なコストが生じる。
(2)会計基準レベル(マクロ)における国際的な整合性は取れている為、必ずしもガイダンスレベル(ミクロ)における整合性まで図る必要はない。


5.架空仕入れめぐり税理士業務の禁止処分

■事例
・顧問先代表者からの依頼に基づき架空仕入れを計上
・架空仕入れ額約1.7億円を費用計上し所得を圧縮した(所得0円へ)
・税務調査で架空仕入れが発覚
・地裁判決により税理士に対する業務禁止処分が下された。
・地裁判決は適法か?

■税理士法451
財務大臣は税理士が故意に真正の事実に反して税務書類を作成した場合は、1年以内の税理士業務停止又は税理士業務の禁止処分をすることができる

■以下理由により適法と判断
・架空計上行為が真正の事実に反して税務書類を作成した行為に該当。
・架空計上行為を故意に行っていた
・架空計上額は極めて悪質かつ高額で責任重大である。
・禁止処分としたことに裁量権の範囲の逸脱や濫用があったとは認められない


6.原則は修繕時も、通達で震災に配慮

■事案
・被災事業年度(H235月期)に「災害損失特別勘定()」を損金算入
・翌期(H245月期)に「災害損失特別勘定」を取り崩して益金算入
H245月期に過大な税額が発生したとして更正の請求を行う
()震災後1年以内に支出する予定の被災資産の修繕費について、損金算入を認めるもの

■請求人の主張
(1)翌期に過大な税額が発生したことは、法律の趣旨に矛盾
(2)修繕費は実際に修繕を行った時に損金算入を行うのが正しい処理

■判決
・本事案は通達どおりの正しい処理であるとし、訴えを棄却
⇒修繕費用は修繕時の損金算入が原則ではあるが、未曽有の災害のため通達
⇒延長確認申請書を提出していれば、修繕完了事業年度に益金算入可能であった


7.業績連動給与 留意点

■利益連動給与⇒業績連動給与に名称変更
・パフォーマンスシェア(PS)や株式交付信託による給与も対象になる
・「複数年度に係る指標」を用いることが可能になる
 
■留意点
・株式を交付する場合は指標確定から2か月以内に交付することが要件
(現行は指標確定から1か月以内に金銭を交付することが要件)
・「複数年度に係る指標」を用いた場合は指標が確定した年度に損金算入
⇒未確定年度においては引当金を計上して、確定年度に取り崩して損金算入する規定となる見込み


8.職務発明の補償金

■企業が"相当の利益"として金銭(補償金)を支払う場合の従業者の所得税の取扱いについて
・職務発明に係る補償金⇒雑所得となることが多い
・契約等で職務発明をした者をあくまで使用人と位置づけ補償金を支払う場合には、給与所得になり得る
・最終的には個別の判断
・源泉の取り扱い⇒雑所得は不要、給与所得になる場合は必要

■前提
・職務発明⇒会社に勤める従業者が会社の仕事として研究・開発した結果完成した発明のこと
・従業者は、職務発明に関して、特許を受ける権利や特許権を会社に譲渡したときは、相当の利益を受ける権利を有する。
・発明者が使用者等から受ける"相当の利益"には、金銭だけでなく留学の機会の付与や金銭的処遇の向上を伴う昇進・昇格等といった経済上の利益も含む。


9.IFRS採用でのれん償却負担がなくなる?

・IFRS採用を決定する企業において、のれん償却費がいらなくなり、営業利益を押し上げると業績予想するのがメディア報道のパターンになっている。
・まるでIFRS採用の動機がのれんの非償却処理にあるようだ
・通信サービス業であれば対価の大部分がのれんとなる。
 そのような場合にはのれんを償却する、両者のインパクトは非常に大きくなる。


10.大型IPOと中小型IPO

20171月~2月までに、6社がIPOを果たし、3月には21社がIPO予定。
比較的事業内容が堅調な成長企業の銘柄対する株価は堅調。
中小型株を専門に投資する機関投資家や外国人投資家が主たる投資家層であり、好需給に支えられ株価は右肩上がりを続けている事例が出ている。
例えば、安江工務店(1439)、ユナイテッド&コレクティブ(3557)、フュージョン(3977)、レノバ(9519)など。

一方、大型IPOはやや停滞気味に推移。
例えば、LINE3938・公開価格3,300円)、日本郵政グループ3社(日本郵政(6178)、ゆうちょ銀行(7182)、かんぽ生命(7181))
特にLINEは一時期3,500円を割れ、公開価格に接近中。

業績面は比較的ポジティブであるが、需要面が芳しくない模様。









◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
ワンストップでサービスを提供