2018年9月28日金曜日

9/28 勉強会:新収益基準に関する税務上の注意点 他

1.役員報酬額の決定めぐり取締役の注意義務が問題に

■株主訴訟
・代表取締役が被告
・2014/11期の決算:営業利益30億、最終利益▲4億
・この期に関する株主総会で役員報酬の上限を30億円、個別の配分を取締役会に一任する決議
・総会終了後行われた取締役会で報酬の毛帝は代表取締役に一任する旨の決議
→代表取締役の報酬は14.05億円(前年度より5.7億円の増額)
→この増額分5.7億円について、代表取締役の善管注意義務違反を主張、株主代表訴訟

■地裁判断
・報酬決定に至る判断過程等が明らかに不合理とはいえない。
<論拠>
・役員個々人の報酬決定=会社の業績に少なからず影響を与える経営判断
(1) 役会から一任された代表取締役…評価・決定に広い裁量を有するものと解される
(2) 取締役がその評価・決定に当たり適切に権限を行使したか否かは基本的に総会での役員選任・解任を通じて株主が決すべき
⇒これらを踏まえると報酬決定の判断過程・内容が明らかに不合理な点がある場合を除き、善管注意義務違反の責任を負うことはない
<明らかに不合理な点があるか>
・リスクや金額の妥当性は純分検討されていた
・報酬増額に見合うだけの貢献をしていなかったと認める根拠がない
⇒客観的合理的理由なく可能な限り多額の報酬額を決定したと認めることはできない

■参考(報酬額)
・事業年度/代表取締役の報酬総額/全取締役の報酬総額/取締役人数
・2011年11月期/1.36億円/2.01億円/10人
・2012年11月期/4.65億円/6.33億円/7人
・2013年11月期/8.34億円/9.92億円/8人
・2014年11月期/14.05億円/約16.25億円/8人






2.配偶者名義有価証券等を相続財産と判断

■事例
・父親(被相続人)の配偶者名義の口座で管理されていた有価証券等(1億5千万円相当)が相続財産に含まれるか

■争点
・長女(相続人)は、配偶者名義有価証券等のうち、45%相当額を相続財産として申告
・税務署は全額が相続財産に該当すると主張

■事実関係
・被相続人は税理士事務所を営んでおり、家族4人の各名義を使用して資産管理していた
⇒配偶者名義証券口座もその1つと認定
・有価証券等の購入原資として、被相続人名義の預金口座から資金の大半が流入している一方、長女の口座からは資金流入はなかった。
⇒購入原資はその全部が被相続人に帰属すると推認

■判決
・配偶者名義有価証券等の全額が相続財産に含まれると判断
⇒相続財産の法律上の帰属は、財産の名義だけではなく、財産の取得が誰の出損によるものかの事情を考慮して判断される






3.貸家・貸家建付地の「一時的空室」は財産評価にどう影響?

■概要
原告、控訴人:死亡により単独で相続し、平成22年9月に相続税の申告書を期限内に提出
相続した財産:8棟の家屋及び土地(部屋数は193室で73室が空室の状態)
更正の請求:平成23年8月に請求を行うも、更正すべき理由がないとして却下
⇒財産評価通達に於いて、貸家及び貸家建付地の評価にあたり、借地権割合を乗じた計算により減額
する理由がないとして、増額する更正決定を行った。

■争点
財産評価基本通達における「課税期間において賃貸されている」とは
・課税時期前に継続的に賃貸されてきたか? ・賃借人の退去後速やかに募集が行われたか?
・空室期間中に他の用途に転用されていないか? ・空室の期間が一時的な期間であったか?

■判決(一審及び控訴審)
一審:請求棄却、控訴審:控訴棄却
財産評価基本通達26はあくまでも例外的な取扱いであり、一時的空室であるといえるためには、賃貸借契約が課税期間前に終了したものの引続き賃貸される見込みがあり、客観的な事実や証跡が存在している事。
本件の場合、賃貸されていない期間が最短でも5か月であり、継続的に募集状況にあったにも関わらず、賃貸されていない事を考えると、課税期間の前後に賃貸されていたと同視する事は出来ないとされた





4.収益認識の代替的取扱い、再検討される項目とは?

実務上見積りを行うことが困難であることや、税務への影響等を理由に、「収益認識に関する会計基準」において、今後代替的な取り扱いを設けるべきか否か検討する可能性が出てきた。

■電気事業およびガス事業における検針日基準
現状:検針日基準が容認されている。
収益認識基準:一定期間にわたり収益認識
⇒収益認識会計基準において、電気やガスの供給は「企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること」に該当し、代替的な会計処理は設けられていないため、一定期間にわたり収益を認識する必要がある。
⇒見積計上する必要があるが、需要特性等の変化により使用量が大きく変動することから精度の高い見積りが実務上困難であり、システム改修等により相当な時間とコストが要すると想定されている為、代替的な取り扱いが企業から求められている。

■売上高等に基づくロイヤリティ
現状:現金主義が容認されている。
収益認識基準:知的財産等に関連する顧客の売上高または使用量にも基づき、ロイヤリティを収益認識
⇒顧客の売上高または使用料にも基づくロイヤリティについては、実務的に収益額を算定する際の計算基礎の入手が困難であり、収益の見積りが困難であることや、現金についても取引先からいつ時点で支払われるかわからないことが多いため、法人税だけ先払いになってしまうケースが想定されることから、代替的な取り扱いが企業から求められている。








5.後継者計画、判断課程や根拠の文書化を

「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」の改定案
⇒後継者計画に着手することを検討すべき。

■後継者計画の策定・運用に取り組む
⇒判断課程や根拠を言語化・文書化し、客観性と透明性をためることが必要
Step1.後継者計画のロードマップの立案
Step2.「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定
Step3.後継者候補の選出
Step4.育成計画の策定・実施
Step5.後継者候補の評価、絞込み、入替え
Step6.最終候補者に対する評価と後継者の指名
Step7.指名後のサポート

■取締役会の監督機能の実効性を確保
⇒社外取締役などの非業務施行取締役が務めることの意義などを追加。






6.今週の専門用語

SDGs
「Sustainable Development Goals」(持続可能な開発目標)
「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる目標
⇒気候変動対策など17の目標と具体的な数値目標等を定めた169のターゲットで構成されている
⇒2016年から2030年までに達成を目指す
類似した概念にESGがある
⇒Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)
⇒新たな投資価値の評価項目として注目されている






7.損害賠償金と消費税

■Q
当社は社員旅行を計画し旅館を予約していたが都合により
キャンセルとなった。これに伴いキャンセル料を支払った。
キャンセル料の明細書に消費税相当額が含まれていたが
これは仕入税額控除の対象にできるか?

■A
キャンセル料は「損害賠償金」に相当するため対価性がなく、
仕入税額控除の対象とならない。
なお、キャンセル料に消費税相当額を含めるかどうかは当事者間の
了解事項によるものであり、税額控除の可否には影響しない。






8.未払残業代、名目問わず税務上は賞与等と認識

厚労省の公表によると、
労基署の指導によりH29年度中に「未払残業代」を支給した会社は約1,900社。
総額446億円で前年度127億円の約3.5倍増。
実際に「未払残業代」を支払った場合の取扱いは?

■法人税・所得税の原則的な取扱い
(1)一時金(精算金等)として支給する場合
法人税:損金算入可
所得税:当期の賞与として源泉徴収をする
(2)「過去分の給与」として支給する場合
法人税:損金算入可
所得税:年末調整のやり直し

弁護士事務所を介して支給される場合等で、「解決金」名目で支給される場合であっても、
名目に関係なく、賞与又は給与と認識され、源泉徴収することとなる

■資金繰りの都合等で「未払残業代」を月々分割で支給する場合
・分割する支給額や支給月が明確 ⇒ 「給与」で源泉徴収
・上記が不明確 ⇒ 「賞与」で源泉徴収

上記の場合の源泉徴収の方法は?
支給者が元従業員の場合、既に退職されているのでマル扶の効力が失われている。
したがって甲欄で源泉徴収は行えない
・「給与」で源泉徴収する場合 ⇒ 乙欄で源泉徴収
・「賞与」で源泉徴収する場合 ⇒ 乙欄で源泉徴収することになるが、「前月の給与等」が存在しないため、以下計算方法にて算定する。

・「前月の給与等」が存在しない場合の計算方法
(1) (賞与支給額△社保等)÷6ヶ月又は12ヶ月=A
(2) Aを月額表の乙欄に当てはめた税額=B
(3) B×6ヶ月又は12ヶ月=「前月の給与等」が存在しない場合の賞与の源泉徴収税額







セール・アンド・リースバック取引

・2015年、シャープがニトリに本社ビルを売却し、譲渡益を特別利益として計上。さらに賃貸借契約を締結して継続使用。
・このような取引をセール・アンド・リースバック取引といい、自社の不動産・機械設備等について利用するケースがある。
・売手及び借手(上記の例ではシャープ)が実質的な買戻権を有している場合では、買手及び貸手(ニトリ)は実質的に支配権を獲得していないとされ、売却要件を満たさず、金融取引とされる(⇒借入金、貸付金処理)。
・売却要件を満たした場合、
(1)オペレーティング・リースと判定された場合、売却損益を売却時に認識。
(2)ファイナンス・リースと判定された場合、売却損益を繰り延べ(リース資産の減価償却費の割合に応じて発生)。







10.売上の単位

■収益認識のための5つのステップ
(1)契約を特定する。
(2)義務を特定する。
(3)取引価格を計算する。
(4)取引価格を義務へ割り振る。
(5)義務を果たす。

■(2)の「義務を特定する」について
・複数の約束(≒取引)があった場合、把握すべきはそれぞれを「別個の約束」として認識できるかどうか。

<要件1>他の約束が果たされなくても、単独で約束の効果をビジネスに活かすことができるかどうか。
より具体的なポイントは
・約束を販売できるか?
⇒ex.使用・消費・廃棄よりも高値で販売できる。
・約束を使用・廃棄・販売以外の方法でビジネスに活かせるか?
⇒ex.使用・廃棄・販売以外の方法で投資の回収ができる。

<要件2>契約などで、1つ1つの約束の内容が明確に区別されているかどうか。
より具体的なポイントは
・ある約束と別の約束がインプットとアウトプットの関係か?
⇒ex.試作品の設計と製造があった場合、設計と製造がインプットとなって試作品の開発というアウトプットが発生する。
・一方の約束を修正した場合、他方を大きく修正するか?
⇒ex一方の約束を果たした場合、他方の約束も買主仕様に大きく変更しなければならない。.
・単独で約束を果たして価値があるか?
⇒ex.ビルの設計と建設。各々単独で果たしても価値なし。






11.第1章 新収益認識基準と法人税法・通達の改正概要

■収益認識の5ステップ
(1)顧客との契約を識別する
(2)契約における履行義務を識別する
(3)取引価格を算定する
(4)契約における履行義務に取引価格を配分する
(5)履行義務を充足したときまたは充足するにつれて収益を認識する

■収益の計上額に関する改正
(1)原則(時価による計上)
資産の引渡時の価格または提供した役務について通常得るべき対価の額に相当する金額
(2)例外(貸倒れ・買戻しを考慮しないこと)
資産の販売等につき、貸倒れまたは買戻しの可能性がある場合においても、当初の販売額の計上にあたっては、その可能性がないものとした場合の価額

■収益の益金算入時期に関する改正
(1)原則(引渡日・役務提供日基準)
(2)例外(契約効力発生日基準)
一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従い、目的物の引渡日または役務提供日に近接する日に収益を認識することも認められる
(3)例外(収益の額の変動に関する基準)






12新収益基準に関する税務上の注意点~ステップ1に関して~

■契約の識別
・税務上の規定はなく、新基準に則る。
・法的な強制力を伴えば、契約の形式に決まりはなく、口頭や慣行等によるものも契約。
⇒メールや電話による合意が慣習となっているような業種(広告業等)では、いつ、何に基づき権利義務が生じるのか、整理が必要

■契約の結合
・税務上、資産の販売等に係る収益計上は、原則として契約ごとに計上、例外として実質的な取引単位の履行義務ベースの収益計上を容認。
⇒複数フェーズがある建設工事契約、ソフトウェア開発計契約等では、会計上契約の結合が適用されると、税務と収益認識がずれる可能性がある。
従って、フェーズごとの契約とするか工程全体の契約とするか、自社の会計方針と合わせ、検討が必要。







13.想定される税務上の焦点と対応ポイント

●契約の変更
①契約変更を独立した契約として処理または②契約変更を独立した契約として処理しない2パターンあり
●税務上の取扱等
・税務上契約の変更の取扱は明確されていないため、基本的に会計に従う。
・①と②で収益認識の時期および金額が相違するため、当該箇所が焦点となる可能性が高い
・税務上の特別の規定はないが、採用処理方法により課税所得に違いが生じるので証憑準備が必要

●履行義務の識別
・法人税法上、原則個々の契約ごとに計上するのが原則であるが、1つの契約に複数の履行義務が含まれる場合はそれぞれを収益の単位とすることが可能
・個別の履行義務か一体の履行義務の見解が税務上の焦点となる可能性がある
※会社はサービスA,Bを別々の義務と判断し、別々に収益認識したが、税務調査がA,Bは一体の履行義務と判断され、同タイミングで収益認識が必要と指摘される






14.非上場株式の期末における時価評価

■基本的な期末評価
 ⇒時価を把握することが困難な株式として、期末BS価額は「取得原価」を採用

■非上場株式の減損について
・発行会社の財政状態の悪化により、実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をし、
評価差額は当期の損失として処理するとされている。

・「実質価額が著しく低下したとき」の減損要否の判定
 (1)30%未満…減損処理不要
 (2)30%以上50%未満…「各社が設けた基準により」著しい下落と判定される場合、
「回収可能性」がなければ減損
 (3)50%以上…回収可能性がなければ減損
 ⇒「回収可能性が十分な証拠により裏付けられる」場合には、減損処理を行う必要はないため、回収可能性の判定が重要。

■回収可能性の判定
・将来の事業計画等を入手し判断する場合には、以下の判断が重要となる。
 (1)事業計画等が実行可能で合理的なものであること
 (2)概ね5年以内に回復することが見込まれること
 (3)回収可能性は毎期見直すことが必要であること

■その他
上場企業の場合には、事前に以下を会計監査人と確認の上、同意しておくことが望ましい。
 ・どのような仮定を用いて期末の評価を行うのか
 ・それに使用する資料(監査資料)はどのようなものが必要なのか
また、重要な勘定科目に係る業務プロセスのため、J-SOXにおける評価対象とするか否か、会計監査人と並行して議論することが重要。






15.9月前半のIPO市場

・6日から13 日にかけてIPOした 4 銘柄はいずれも初値から値を下げている
・再上場の子供服専門会社のナルミヤ・インターナショナル(9275)や不動産関連の香陵住販(3495)に至っては公開価格すら下回っており、不人気ぶりと需給の悪さを示している
・市場の人気は業績の伸びが期待されるIT系、サービス系をはじめとした業種に偏りがあり、
一般的なビジネス、ビジネスモデルに独自性のない企業の株価は不人気な状況が見られるとのこと
・IPO銘柄なら何でも良いという訳ではなく、投資家の選択眼がシビアになっているということが言え、
それがIPO後の株価下落を表しているとのこと
























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決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
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