1.決算支援業務に保有株式の評価に関する助言義務なし
■経緯
・保有するB社の株式の譲渡を検討していたA社が、A社の顧問税理士Cに株価評価を依頼
⇒顧問税理士は、B社と株価算定契約を結ぶ
・A社はCが算出した評価額に基づきB社株式を売却した。
⇒その際に、A社は他の税理士にB社株式の評価を依頼
より高い評価額が算定されていた
・A社はB社株式を不当に低く売却させられたとCに損害賠償請求をした
■裁判所の判断
・CはA社の顧問税理士だが、A社との業務委託契約には、株式評価のような特殊契約は含まれないと解釈
・CはB社と株価算定契約をしている
A社はCと本件についての契約の当事者ではない
⇒Cの算定した評価額をA社が使用してもCには責任がない
・またA社はB社株式を売却する前に、C以外の税理士にB社株式の評価を依頼している
⇒どの価格を使用するかはA社が売却前に意思決定できた
・以上より、Cに損害賠償する義務はない
2.請求書日付指定の経費繰上計上は仮装
■事案
災害による被害復旧のために各事業者と締結した修繕工事等請負契約、備品等の売買契約に係る各費用を事業年度末日付で費用処理したことに、事実の仮装が認められるか否かが争われたもの。
■結論(審判所の判断)
仮装行為に当たり、重加賦課決定処分が下った
■主な判断理由
・請求書を事業年度末日以前の日付で発行することを業者へ依頼した。
・事業年度末日までに役務提供・備品の引き渡しが未了であった。
⇒これらは書類の改ざんなど、経費の繰上計上を意図的に行ったものである
3.スキャナ保存の見直しなど、平成27年度税制改正の省令公布
■所得税法等の一部の法律の改正が3月31日に公布された事に伴い、関係する政省令も同日に公布された。
(1)欠損金に係る帳簿書類の保存期間
⇒大企業における欠損金の繰越期間が10年に延長されることに伴い、欠損金に係る帳簿書類の保存期間も10年に延長
⇒29/4/1以降開始事業年度発生の欠損金より対象
(2)住民票の写し等の添付を省略
⇒マイナンバー制度導入後は住民票の添付省略可
⇒住宅ローン控除、贈与税の配偶者控除、小規模宅地の特例 等
⇒施行は27/7/1
(3)スキャナ保存の3万円未満基準の削除
⇒契約書・領収書は3万円未満のもののみスキャナ保存可能だったが、3万円以上のものについてもスキャナ保存可能になる
⇒施行は27/9/30
4.新税効果適用指針は誰のためのもの?
■企業会計基準委員会が検討している「DTAの回収可能性に関する適用指針」
(以下、適用指針)の公開草案の取り纏めが大詰め
■3月決算会社の場合、公開草案によれば、
連単ともにH29年3月期から強制適用、H28年3月期から早期適用可
■「会計方針の変更」か「会計上の見積りの変更」か?
(前提)
・会計基準等の改正に伴う変更であれば、「会計方針の変更」に該当
⇒遡及修正するため、P/L損益に影響なし
・新たに入手可能となった情報に基づく変更であれば、「会計上の見積りの変更」に該当
⇒遡及修正せず、P/L損益として計上
(適用指針の適用は?)
・新たに入手可能となった情報に基づく変更ではない
・適用指針のベースである「委員会報告66号」は、会計処理の原則・手続を定めるものであり、会計基準等に該当する
⇒「会計方針の変更」として取り扱う方向
(「会計方針の変更」として取り扱いつつも、一方で、遡及適用はせず影響額を利益剰余金期首残高に反映させる方法も検討中)
5.勤務税理士の賠償責任を認めた税賠事件が決着
■事例
・所長税理士(A)が相続税の申告業務の委任契約を締結。
・申告書作成業務を担当したのは勤務税理士(B)。
・控除できない債務控除を計上し、相続税のほか延滞税・加算税が追加徴収された
・税理士側の過失によるものとして賠償請求された
■地裁判決
・制限納税義務者であるにも関わらず債務控除を行った
⇒国籍の確認を怠ったBに対し注意義務違反と認定
・相続税の申告等の過誤は債務不履行及び不法行為に基づくと判断
⇒Aは契約の債務不履行として、約1,000万円超の損害賠償支払い
Bは不法行為として、約1,165万円の損害賠償支払い
※制限納税義務者とは
相続時点で海外国籍かつ海外居住である相続人のこと
⇒自身が取得した国内財産に係る債務のみ債務控除可能
■高裁判決
・Aはもちろんのこと、Bも公的な資格に基づいて申告に関与しているので、勤務税理士とはいえども個人責任を負うこともやむを得ないと指摘
⇒地裁判決を支持し、上記同額の損害賠償を命じた
・税理士側は上告しなかったため判決が確定。
■税理士としての責任
会計事務所の勤務税理士であろうが、実際に担当した申告書作成業務に関し、税理士としての責任が問われるリスクが発生する。
6.電子商取引に係る消費税の経過措置
・国外事業者が、国境を超えて日本で行う電子書籍、音楽、広告配信等
-H27/9/30以前 : 不課税取引
-H27/10/1以後 : 課税取引(8%)
【経過措置】
①H27/4/1前に締結した契約で、10/1前から引続き行われる役務提供
⇒10/1以後も不課税取引
例)H27/1月~12月までの1年間の広告配信を契約しているケース
②H27/4/1以後に締結した契約で、10/1をまたぐ役務提供
⇒月額料金が定められていれば、9月分までは不課税、10月分以後は課税
例)H27/4月~H28/3月までの1年間の広告配信を契約しており、月額料金が定められているケース
※月額の定めが無ければ、1年分の費用すべてが課税
(全部役務の完了時で判断するため)
7.消費税:新設法人等の納税義務
■原則
期首資本金が1,000万円未満であれば設立1期目、2期目は免税
■特例(納税義務ありとなる場合)
(1)特定期間おける課税売上高、給与支払額のどちらも1,000万円を超える場合、設立2年目において納税義務ありとなる。
(2)特定新規設立法人に該当する場合
設立1年目または二年目の期首において、基準期間に相当する期間の課税売上高が5億円超である法人に発行済株式等の50%超を保有されている法人は納税義務ありとなる。
<参考>個人事業者が法人成りした場合
個人事業者本人の50%超出資により法人成りした場合、2年前の課税売上高が5億円を超えていると納税義務ありとなる。
8.住民税:住民税均等割の『無償増減資の加減算措置』(平成27年度改正)
■原則
均等割の税率区分の基準は,原則,法人税法上の「資本金等の額」である。
■平成27年度改正
均等割の税率区分の基準である「資本金等の額」から
・無償減資に係る一定の欠損てん補額を減算できることとなり
・無償増資を行った場合には,その増資相当額を「資本金等の額」に加算することとなった
※「資本金等の額」自体の定義は変更なし
本年4月1日以後開始事業年度に行った無償減資に係る欠損てん補額のみでなく、過去の欠損てん補額についても「資本金等の額」から減算できる。
無償増資についても同様に過去の増資相当額が加算される。
■主な影響
欠損填補を実施したことのある法人については、均等割の負担が軽くなる可能性がある。
9.責任限定契約
・役員、会計監査人は任務を行ったことで生じた損害について賠償責任あり
・業務執行取締役以外であれば責任限定契約を締結できる(定款に記載必要)
・責任限定:善意無重過失であれば限定できる。
あらかじめ会社と合意した金額か最低限度額のいずれか高い金額に限定。
※最低限度額:代表取締役=年俸×6、業務執行取締役=年俸×4、その他=年俸×2
会社法改正前
・社外取締役でない取締役、社外監査役でない監査役は責任限定契約NGだった。
会社法改正後
・業務執行取締役を除く取締役とすべての監査役に責任限定契約がOKになった
【責任を免除できる場合】
①株主総会の特別決議(出席株主の2/3の賛成)
②取締役会決議(定款に取締役会で免除できるという記載が必要)
③責任限定契約(上記)
いずれの場合も「最低限度額」までは責任を負う。
唯一、株主全員の合意があれば全額免除できる。
10.予定取引に関するヘッジ会計の中止と終了
1. 言葉の説明
(1) ヘッジ会計
ヘッジの効果(価格等変動のリスクの回避)を会計に反映させるための会計処理
(2) 予定取引
実際に取引はまだ行っていないが、将来取引が実行される可能性が高い取引
(3) ヘッジ対象
為替変動等を伴う資産や負債。価額変動等を抑えたい資産・負債。
(4) ヘッジ手段
リスク軽減手段としてのデリバティブ取引
2. ヘッジ会計の終了と中止の判定
(1) 終了 ⇒ ヘッジ対象の消滅や、予定取引が実行されなくなった場合
(2) 中止 ⇒ ヘッジ手段の消滅など
3. ヘッジ手段の損益認識時点
(1) 終了 ⇒ ヘッジ会計終了時点で損益認識
(2) 中止 ⇒ ヘッジ対象の損益認識時点で損益認識
11.特定資産の買替特例制度の改正
1. 特定資産の買換特例とは
特定の資産を売却し、新たな特定の資産を取得した場合に、譲渡益の課税を繰延る制度。
※取得資産の取得価額を減額(圧縮)し、減価償却を通じて課税する。
2. 改正
(1) 特定資産買換のうち、土地等を中心とする買換え(9号買換え)が改正
(2) 改正内容
・期限の延長 … H26.12末 ⇒ H29.3末
・買換資産の対象範囲の変更 … 機械装置及びコンテナ用貨車を除外
・圧縮限度額割合 … 80% ⇒ 取得資産の場所により変わる。
※地方から都市部への資産を買換は75%など。
※圧縮限度額
⇒ 買換資産の取得価額or譲渡資産の対価の小さい額)×差益割合×圧縮限度割合
※差益割合 = 譲渡益 / 譲渡資産の対価
12.「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」改訂版の解説
■計算書類
大きな改正は平成27年4月1日以後開始する事業年度から適用
平成26年3月期決算では「退職給付に関する会計基準」への対応のみ留意
注記表:
会計方針に重要性がある場合、
「期間定額基準」
「給付算定式基準」
のいずれの会計方針を選択したかを明記するよう求められる(各社で要否を判断)
■事業報告
1.責任限定契約
取締役or監査役との間で責任限定契約を締結している場合、
(1) 契約の相手方、(2) 契約の内容の概要
を記載する。
2.社外取締役を置くことが相当でない理由
※社外監査役が2名以上あることのみをもって当該理由とすることはできない。
3.業務の適正を確保するための体制等の整備に関する事項
子会社についての内部統制に関する規定を記載するとの例示が追加
4.親会社等との取引に関する事項
関連当事者取引注記を要するもの(個別ベース)について、取引の合理性確保のために留意した事項(自社の利益を害さないように留意したか)について記載する
5.その他
会計監査人の報酬等、解任又は不再任に関する事項
特定完全子会社に関する事項
13.近年のインサイダー取引規制見直しの概要
・事業譲渡と同様、合併・会社分割等による保有株式承継も規制対象に追加(H24年改正法)
・組織再編の対価としての自己株式交付は新株発行と同様適用除外とされた(H24年改正法)
・純粋持株会社等に関する軽微基準は連結ベースの計数を用いることとされた(H24年改正法)
・重要事実を他人に情報伝達した会社関係者が刑事罰・課徴金の対象となった(H25年改正法)
14.株主代表訴訟への対応実務 -監査役-
(1)対応スケジュール
・株主による提訴請求
↓60日以内(※)
・取締役等へ提訴するか否かの決定
↓
・提訴しないと判断した場合は、株主が株主代表訴訟を提起できる
(※)考慮期間中にすべきこと
・事実関係の調査
・法的検討
・訴訟になった場合の見通しの検討
(2)提訴するか否かの判断ポイント
・訴訟の可能性
・提訴の必要性
・会社が被った損害の程度(金額)
・提訴対象取締役からの損害の回収可能性
・会社の人的・時間的・金銭的負担
・会社の信用に対する影響
(3)応用編
・利益相反状況にある監査役(監査役にも善管注意義務があった恐れ)
⇒上記(1)、(2)の対応をすることに変わりはない
15.グローバル節税 「タックスヘイブン」
いわゆる「タックスヘイブン」には4つのパターンがある。
(1)無税国:所得、相続税がまったくかからない(バミューダ、ケイマンなど)
(2)低税率国:税金が安い(シンガポール、香港など)
(3)国外源泉所得非課税国:国外で生じた所得は非課税(日本も配当に関してはこのタイプ)
(4)租税特典国:持株会社に対する免税、パテントボックスなどがある国
グローバル節税にはこれらの国をうまく組み合わせて(?)利用する必要がある。
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