1.分掌変更の役員退職金で納税者勝訴の注目判決
■まとめ
・分掌変更による役員退職金が分割支給された場合の損金算入時期
⇒分掌変更があった事業年度でもOK、各支給年度でもOK
※各支給年度の損金とする要件と思われるもの:
実際に退職した状況と言えること、支給の総額と分割支給する期間の明確な定めがあること、各支給年度において損金経理すること
■経緯
・A社の代表取締役(創業者)が非常勤取締役になった
代表権なし、給与も50%超減額
実際に退職した状況と言える
・X1年8月期に開催した取締役会で役員退職金(2.5億円)の支給と
資金繰りが厳しいため、3年以内に分割支給することを決定
その事業年度においては7.5千万円を支給し、損金にした
・X2年8月期に1.25億円を支給し損金にした
⇒この1.25億円はX2年8月期の損金かどうか
■主張
・課税庁
役員退職金について債務確定したのはX1年8月期
よって、損金算入もX1年8月期にすべきでX2年8月期は損金算入できない
支給事業年度で損金算入するのは完全退職したときのみで、分掌変更の場合は予定していない
・A社
支給のあった事業年度に損金処理するのは、法人税法の基本通達でも認められているし、他企業でも行われている(いわゆる公正妥当と認められる会計処理)
⇒法人税が予定する公正な所得計算を阻害していない
■裁判所の判決
・役員退職金の損金算入時期は、公正妥当な会計処理に従うべき
・支給年度に損金算入するのは、中小企業では一般的に行われている会計処理
⇒公正妥当な会計処理と言える
・よって1.25億円はX2年8月期の損金と認められる
2.東京都のみ異なる条例公布日、法定実行税率も算定には要注意
・東京都のみ改正条例が、4月1日に公布された
→よってH27年3月期の法定実行税率=33.10%
第1Q=33.06%
今回のように改正税法や改正条例の公布タイミングでの影響を避けるため、国会での成立時点等への変更も検討されている。
3.為替予約等の含み益を10億超計上漏れ
・為替予約の含み益について期末の時価評価を行っていなかった事例
・金融商品取引税制が複雑、実務上も絶対量が少ない、近年の為替変動が大きかった等の要因が重なっている
■以下に該当しない場合は、含み損益を時価評価する
(1)期末までに、ヘッジ対象に係る損益が実現していない
(2)ヘッジ処理の要件を満たす
※ヘッジ対象の損益とヘッジ手段に係る損益の差額が80%~125%
(3)振当処理の要件を満たす
※外貨建て債権債務の換算をする時に為替予約のレートを用いる
4.継続企業の前提の注記が長期間にわたる企業も
■平成26年12月期決算会社では、4社の監査報告書において継続企業の前提に関する注記の追記情報あり
■継続企業の前提に関する注記と追記情報
・継続企業の前提
企業会計の基準は「企業は半永久的に存続する」ことを前提
(「企業は半永久的に存続する」ことを前提として事業活動しているため)
・継続企業の前提に関する注記
期末日において、企業が将来にわたって事業活動を継続することが不確実である場合、企業はF/Sに一定事項を注記
(主要な取引先の倒産など一定の事象が生じ、将来に渡って事業を継続できるかどうか疑わしくなった場合、F/S利用者の注意を喚起する必要があるため)
・追記情報
企業が継続企業に関する注記をした場合、
監査人はA/Rに継続企業に関する注記について追記
(F/S利用者が重要情報である継続企業に関する注記を見過ごすことを防ぐため)
■事例
(1)セーラー万年筆(東証2部)
数期連続して重要な当期純損失を計上
⇒6期連続注記
(2)タツモ(東証JASTAQスタンダード)
4期連続営業損失の計上+金融機関から返済条件の緩和
⇒初めて注記
(3)ジオネクスト(東証JASTAQグロース)
9期連続営業損失の発生及び営業キャッシュフローのマイナス
⇒8期連続注記
(4)SmartEbook.com(東証JASTAQスタンダード)
5期連続営業損失及当期純損失の計上
⇒2期連続注記
5.会社法改正を受け法人税法施行令も改正
平成27年5月1日施行の会社法改正に伴い、法人税法施行令の一部が改正される。
(1)株式併合による反対株主からの株の購入
改正会社法:
株の併合に反対している株主から自己株式を購入する場合、併合による端株であっても公正な価格で買い取る必要がある。
法人税法施行令:
自己株式を購入するとみなし配当の取扱いがあるが、併合により反対する株主から端株を買い取ったとしてもみなし配当は発生しない。
(2)監査等委員会設置会社に関する取扱い
改正会社法:
監査等委員である取締役が代表取締役の選定や、取締役の報酬の決定を主導的に関与することが可能
法人税法施行令:
利益変動給与ににおける役員報酬の支払いについて、通常であれば株主総会での決議が必要であるが、監査等委員会設置会社は、取締役会の決議による決定でも可能となる
改正会社法の施行日である平成27年5月1日より適用となる
6.役員退職慰労引当金は税効果QAを踏襲
<企業会計基準委員会の税効果会計適用指針>
・役員退職慰労引当金(将来減算一時差異)の取扱(予定)は下記の通り。
(1)役員の退任時期を合理的に見積もり、差異解消を合理的にスケジューリング可能
⇒スケジューリング結果に基づき回収可能性判断。
(2)スケジューリングが合理的にできない
(A)原則
⇒スケジューリング不能な差異として扱う。
(B)分類2に該当する場合で、将来回収できることを合理的に説明可能
⇒回収可能性あるものとして扱う。
※【分類2】以下すべての要件を満たす会社
・過去3年間+当期すべてで、課税所得が安定的に生じている
・当期末、経営環境に著しい変化なし
・過去3年間+当期いずれかで、重要な税務上の欠損金が生じてない
7.貸倒引当金 改正点確認
■大法人(資本金1億円超)の経過措置終了
資本金1億円超の法人が貸倒引当金を損金算入できるのはH27年3月期が最後となる(従前の限度額の1/4)
■法定繰入率の基準年度が改正
法定繰入率による場合の「実質的に債権とみられないものの額」を簡便法で計算する場合の基準年度が改正された。
改正前:
平成10年4月1日~平成12年3月31日までに開始された各事業年度
改正後:
平成27年4月1日~平成29年3月31日までに開始された各事業年度
(簡便法の算式)
A×B/C
A:当期末の一括評価金銭債権
B:原則法による実質的に債権と見られないものの額
C:対象期間の一括評価金銭債権総額
→適用初年度の対象期間は当期のみ
結果、H28年3月期は原則法と一致する(有利判定不要)
8.消費税:ゴルフ会員権の譲渡と消費税
■発行体のゴルフ場からの原始取得
⇒不課税取引
・株式方式のケースは資本の払込みとして扱う。
・預託金方式のケースは預け金として扱う。
■発行済のゴルフ会員権の売買
⇒課税取引(株式方式、預託金方式を問わない)
・非課税取引とされる有価証券には該当しない。
■預託金方式のケースの返還時
⇒不課税取引
・預け金の戻りとして扱う。
※返還されないケースの貸倒れについては、貸倒れに係る消費税額の控除の対象にはならない。
9.監査委員会設置会社 上場58社が移行表明
・監査等委員会設置会社では
2人以上の社外取締役が必要だが、監査役会設置会社で必要であった2人以上の社外監査役は不要となる
・監査等委員会
取締役で構成/3人以上/過半数は社外取締役
10.キャッシュ・アウトの手法の整備に係る改正項目
1. キャッシュ・アウトとは
少数株主から株式を現金等で取得 ⇒ 100%完全子会社化すること。
2. 法改正の目的と内容
・特定支配株主による株式等売渡請求制度
(1) 機動的なM&Aの実施を目的
⇒ 特定支配株主は株主総会決議なし(取締役会決議でOK)で、キャッシュ・アウトが可能
(2) 株主への情報提供の充実を目的
⇒ 事前及び事後に条件・結果等を株主に通知
(3) 株主救済を目的
a) 取得の差止請求
b) 売買価格の決定の申立
c) 取得無効の訴え
※特定支配株主 … 総議決権の90%以上を保有する株主
・株式併合
(1) 株主への情報提供の充実を目的
⇒ 事前及び事後に条件・結果等を株主に通知
(2) 株主救済を目的
a) 株式併合の差止請求
b) 株式併合に反対する株主による株式買取請求制度
・全部取得条項付種類株式の取得
(1) 株主への情報提供の充実を目的
⇒ 事前及び事後に条件・結果等を株主に通知
(2) 株主救済を目的
a) 取得の差止め請求
b) 取引価格決定の申立
3. 法改正の影響
従来、実務でのキャッシュ・アウトの手法は、全部取得条項付種類株式の取得が殆ど。
⇒ 特定株主の株式等売渡請求や株式併合も、実務上活用されると考えられる。
※株式併合等は、株主保護の観点から従来あまり利用されていなかった。
11.基準改正で乖離が広がった!?持分法と連結はここがこう違う
■付随費用(M&Aコンサルフィーなど)
単体での処理 :取得原価に含める
連結子会社 :連結取得原価に含めない
単体の取得原価を修正する必要がある
持分法適用会社:取得原価に含める(改正前基準のまま)
■売却時ののれん未償却残高(相当額)の償却
連結子会社 :しない
支配を獲得してから支配を失うまでの間(持株比率50%~100%)の持分変動によるのれんの増減はなし
持分法適用会社:する(改正前基準のまま)
12.親会社を合併法人、債務超過の100%子会社を被合併法人とする適格合併
①親会社の合併処理
・子から受け入れた資産と負債の差額と、子会社株式との差額を抱合せ株式消滅差額とする
・連結上、抱合せ株式消滅差額は消去する
②抱合せ株式消滅差額に係る税効果
・抱合せ株式消滅差額を法人税申告書上、別表四で加算(減算)留保する
・抱合せ株式消滅差額は一時差異ではない為税効果なし
③子会社に対する貸引きの取扱い
・子会社に対し貸付金があり貸引きを設定している場合は合併により取り崩される
戻入益は特別損益において抱合せ株式消滅差額と両建て表示する
13.M&Aに関する改正項目について
(1)親会社による子会社譲渡について
現行:株主総会決議は不要(重要な財産の処分は取締役会)
改正:株主総会特別決議が必要
(要件)・子会社帳簿価額/親会社総資産(単体)>20%
かつ
・譲渡後に子会社の議決権の過半数を持たない
※実態としては事業譲渡に近いため、事業譲渡と同じ株主総会の特別決議とした
(2)組織再編の差止請求について
現行:通常の組織再編(略式以外)は明文の規定なく、見解が分かれていた
改正:通常の組織再編(略式以外)で法令・定款に違反、株主が不利益を受ける恐れがある
→組織再編の差止請求できる
14.グローバル節税 「パテントボックス」
・世界各国は「法人税率軽減」の他にも様々な優遇措置で、企業の誘致を図っている。
・イギリスには「パテントボックス」という制度がある。
⇒ 特許発明その他の革新によって得た所得については、10%の軽減税率が適用される。
⇒ 「特許」は英国知的財産庁、欧州特許庁などに認定されている必要あり。
⇒ベルギー、オランダ、スイスにも同様の制度あり
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