2016年11月26日土曜日

11/25 勉強会:信託方式の有償SO、決算への影響なし 他

1.国外財産調書の未提出者に対する国税当局の対応

■国外財産調書制度
・平成261月から導入された。平成27年分の提出件数は約9000件。
・毎年1231日において5,000万円を超える国外財産を持っている居住者に提出義務あり。

■未提出者に対する課税当局の対応
・文書や電話による照会
・一定の者については、調査が行われるケースもある。

■今後
・平成291月より施行されるCRSによる金融口座情報の自動交換制度の導入により未提出者は一層絞り込まれる可能性あり。

CRSとは(Common Reporting Standard
非居住者の金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準


2.信託方式の有償SO、決算への影響なし

■「信託方式」の有償ストックオプション(※時価発行新株予約権信託)を採用する企業が増加傾向に
※時価により発行される新株予約権を受託者が保管しておき、一定の期日になった時点で条件を満たした受益者に対して交付するという新しいインセンティブ制度
・最大のポイント=オーナー個人が信託の委託者となって金銭を拠出する点
・金銭を拠出するのがオーナー個人=有償SOと異なり会社の費用に計上という話にはならない
・特にオーナー色が強い上場企業やベンチャー企業での導入が広がりつつある


3.平成27事務年度の相続税・贈与税の調査事例

「国外送金等調書」が発端となって海外預金の申告漏れが発覚

(参考)国外送金等調書とは
100万円を超える国外への送金及び国外からの送金の受領があった場合に金融機関が税務署に提出する法定調書の1つ。

■事例:
(1)国外送金調書をもとに、税務署は相続税調査に着手
(2)相続人は、税務署の実地調査時、相続財産の中に海外資産は無いと回答
(3)税務署は下記事実を把握
・相続開始日おいて被相続人名義の海外預金が存在
・相続開始後、相続人がこの預金を解約、自らの口座に送金

⇒税務署は、相続人は海外預金が相続財産である事を認識していたが、税務署に把握されないと考え、税理士にも告げず相続財産から除外していたと判断
⇒約1,900万円の課税価格申告漏れを指摘、約300万円を追徴課税(重加算税あり)


4.今週の専門用語

■権利確定条件
ストックオプション(SO)を付与された役職員が、SOを行使するために求められる条件のこと。

()
・勤務条件(一定期間の継続勤務が必要)
・業績条件(一定の業績の達成が必要)

無償で付与されるSOにおいても、現行のSO会計上では「労働サービス提供の対価」と考えられるため、毎期の費用計上を求められている。


5.過去の誤謬(修繕費否認)

 (設例)
・前期に未払計上した修繕費500は、当期分であり修正申告済
・過年度遡及会計基準の適用により、当期の期首利益剰余金を500増額処理

(Question) 当期の申告調整はどうすべきか?
(Answer)  別表四:「修繕費認容」500減算(留保)


6.仮想通貨の会計上の取扱いを明確化

財務会計基準機構が「仮想通貨に係る会計上の取扱い」について、企業会計基準委員会に対して新規テーマとなり得るか依頼。

H286月交付の改正資金決済法にて
・仮想通貨が定義付けされた。
・仮想通貨交換業者に対し登録制を導入。
・仮想通貨交換業者へ財務諸表監査及び分別管理監査を義務付け。
改正法は1年以内に施行される予定であるが、仮想通貨の会計処理に関する取扱いが明確化されていないため、金融庁も重要課題として認識。

■主な会計上の論点
・仮想通貨は需要供給で価値が変動する⇒棚卸資産の範囲に含めるか?
・仮想通貨は決済手段の特徴あり⇒外貨建て現金が適合か?
また顧客からの預かり資産のため、期末評価や監査方法、財務諸表上の表示及び開示も論点となる。


7.会社間の株式の有利発行と受増益の有無

【裁判所事例】
X(国内法人)がタイに所在の関連法人TES社の株式を49%保有
TES社が増資の際、X社のみが新株を引受し、X社のシェアが97%に増加
・増資の際の払込み金額は250バーツ/(直近の純資産価額は約3万バーツ/)
⇒当該増資が有利発行に当たるかどうか

X社の主張】
X社の保有株式と、その他株主の保有株式は種類が異なる
※株主間契約によって、その他株主には一定価額の買取保証・配当受領権が与えられており、優遇されている
・「他の内容の異なる株式保有株主との衡平を害さない(他の株主等に損害を及ぼすおそれがない)」場合は、有利発行に当たらない規定を適用できる

【判決】
X社と他の株主の保有株式は、譲渡制限、議決権の条件が同様
・株主間契約は変更も可能であり、株式の種類が異なるとは言えない
・本件増資に際して、X社以外の株主に損害を及ぼすおそれがない、には当たらない
⇒有利発行であり、直近純資産価額と払込み金額との差額は受増益課税


8.判例:特許権に係る補償金の課税区分

■概要
N大学の教授A氏は発明にかかる特許を受ける権利を無償でN大学に譲渡した
N大学は特許の付与をうけたのちF社に特許権を譲渡して利益を得た
N大学は大学の規定に基づきA氏に金員7,000万円を支給した
N氏の所得は一時所得か雑所得かで争われた

■一時所得(意義)
「~労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」と規定されている

A氏及び課税当局の主張
A氏:本件金員は「特許権」を譲渡したものではないため、「資産の譲渡の対価」にあたらず一時所得に該当する。
当局:「資産の譲渡」には資産の譲渡と密接に関連する給付を含むと考えられる。よって資産の譲渡の対価としての性質を有し、一時所得にはあたらない

■地裁の判断
当局の主張を支持し、雑所得とした。
⇒現在高裁に控訴中



9.衣料品の輸入にかかる消費税が計上もれとなった事例

■概要
A税理士は従来より衣料品販売業Bの税務を受任し申告を行ってきた。平成274月、依頼法人より衣料品輸入に関する消費税の控除について質問を受け調査したところ、引取にかかる消費税の控除漏れが判明した。更正の請求対象期間にかかる消費税の還付は受けられたが、期間経過分については還付を受けられなかった。
⇒還付できなかった消費税につき損害賠償請求を受けた。

■解説
消費税の更正の請求期限⇒法定申告期限から5年以内
申告ミスが発覚した場合でも期限内であれば更正の請求ができるため速やかに手続きを行うこと。


10.相続税で海外資産調査が3年連続増,13年以降最多に

平成27事務年度における相続税の調査の状況について
1件あたりの平均調査日数
相続税⇒平均14
贈与税⇒1.6
海外資産事案⇒19

■相続税総括
・実地調査件数や非違件数は微減(実地12,406件⇒11,935件、非違件数10,151件⇒9,761)
・重加算税の賦課割合は微増(12.4%⇒12.8)
⇒限られた人員で優先度の高い事案を行う当局のスタンス

■贈与税総括
・実地調査件数や非違件数は微減(実地3,949件⇒3,612件、非違件数3,616件⇒3,350)
・重加算税の賦課件数は2(27件⇒51件、賦課割合は0.7%⇒1.5)

■海外資産事案
・どういう括りか
⇒相続財産に海外資産がある、相続人や受遺者又は被相続人が日本国外に居住、海外資産等に関する資料情報がある、外資系金融機関と取引がある等のいずれかに該当する事案
・実地調査件数は13事務年度からみて最多(847件⇒859)

■調査事例を5つ記載している。1つ紹介。
【事案】
海外預金を相続財産から除外していた。
⇒国外送金等調書(金融機関の法定調書)から調査し発覚、重加算税有りとなった。


11.為替感応度

・先日のアメリカ大統領選挙では、トランプ氏の優勢で105円から101円台まで一気に円高が進行し、当選後には108円台まで円安が進んだ。
・輸出関連企業では相場が1円動いたときの利益への影響を表す為替感応度が注目されている。
・為替感応度は決算説明会資料やアニュアルレポートで説明されることもある
IFRSではこのような為替リスクは「金融商品に係る定量的なリスク情報」として開示する。


12.税務上の固定資産付随費用と修繕費と資本的支出の区分

1.付随費用と修繕費・資本的支出
(1)付随費用
⇒事業の用に供するために直接要した費用
⇒取得原価に含めなければならない。
(2)資本的支出
⇒使用可能期間延長、または価値の増加をさせるための支出
⇒資産計上

2.例示
(1)租税公課
・取得原価、または損金と出来る支出
⇒不動産取得税、自動車取得税等
・取得原価としなければならないもの
⇒未経過固定資産税等精算金(※)
※日割り按分した固定資産税相当額
(2)購入対価の3%以内の付随費用
⇒ソフトウェアと棚卸資産の場合のみ取得原価に含めなくとも良い
⇒その他の固定資産は当該3%の規定はなし
(3)建築等の為の地質調査・地盤強化等
⇒取得原価に含める。
(4)事業の用に供する為の、既存の固定資産や棚卸資産の破棄
⇒取得原価に含める
(5)機械装置の試運転費用
⇒取得原価に含める。


13.3者間相殺の可否と債権回収実務への影響

■3者間相殺とは
当事者:A、B、C(BとCは連結グループ)
A:信用悪化、Bから原材料を仕入れて製品化、Cに販売(Cに債権あり)
B:Aに原材料を販売(Aに債権あり)。Cの関係会社
C:Aから製品を仕入。Bの関係会社
⇒3者間相殺…AB間、AC間の債権債務の相殺をすること。平時は契約に定めることよって可能。差押さえや法的倒産手続(事例はAが民事再生手続中の相殺可否)のような時期まで相殺が可能なのか?

■最高裁判例
法的倒産手続中の相殺は否定(契約上他のグループ会社に対する債権と相殺できる旨記載していてもダメ)
理由:他の債権者との間の公平・平等という基本原則に反する

■最高裁判例が債権回収実務に与える影響
・法的倒産手続の場合に3者間相殺の効力を主張するのは困難
・法的整理に入る前に手を打つ必要あり。
⇒債権譲渡の利用:上記Bのもつ債権をCに譲渡しておく方法などが考えられる


14.金利スワップの特例処理適用の可否

・デリバティブ取引
⇒原則、期末日の時価でBS計上し、評価差額は当期の損益として処理

・金利スワップの特例処理
⇒ヘッジ会計の要件を満たす金利スワップのうち、一定の要件を満たす金利スワップ取引は金利スワップを時価評価せず、金利スワップに係る金銭の受払の純額をヘッジ対象に係る利息に加減して処理できる。

(要件)
 ①想定元本とヘッジ対象の元本金額がほぼ一致
 ②契約期間およびヘッジ対象の満期日がほぼ一致
 ③変動金利の基礎となる金利指標がヘッジ対象とほぼ一致
 ④金利改定のインターバルがヘッジ対象とほぼ一致
 ⑤利息の受払条件がスワップ期間を通して一定
 ⑥金利スワップに期限前解約オプション、支払金利のフロアー又は受取金利のキャップが存在する場合には、ヘッジ対象の資産負債に含まれた同等の条件を相殺するためのものであること

■例
借入金の金利条件が前半は固定金利、後半は変動金利である。後半のみ金利スワップ契約を締結した場合、金利スワップの特例処理は適用可能か?
⇒⑤を満たさないため特例処理の適用は不可


15.株式等によるインセンティブ・プランの類型

■新株予約権→インセンティブ効果
(1)株価連動
・株式報酬型SO1SO):無償or払込債務と報酬債権の相殺により付与、権利行使価格1
・通常型SO:無償or払込債務と報酬債権の相殺により付与、権利行使価格>付与時の時価
(2)株価連動+業績条件
・業績条件付株式報酬型SO:株式報酬型SOで付与法人の業績を権利行使条件
・有償SO:付与時のSOの時価による払込みにより付与、権利行使価格>付与時の時価

■株式付与プラン→インセンティブ効果
(1)株価連動
・譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック):初年度に株式付与、一定期間経過で権利確定+譲渡制限解除
→リテンション効果
(2)株価連動+業績条件
・パフォーマンス・シェア:初年度に株式付与、業績評価期間の業績により権利確定+譲渡制限解除

■その他
・従業員持株会:福利厚生の増進、経営への参画意識向上
→インセンティブ効果とは異なる


16.社債の発行手続とトレンド (上場会社を前提)

■発行手続(会社法:CFO等への委任)
準備:基本事項(募集総額の上限等)について包括決議(取締役会)
公表:CFO等による機動的な発行+証券会社との総額引受契約
発行:払込⇒発行

■発行手続(金商法:発行登録制度)
準備:発行登録書(一定期間における発行予定総額等)
公表:発行登録追補書類(個別発行時における発行価額や利率等)
発行:追補書類提出後、ただちに可能

■発行手続(社振法:保振とのやり取り)
準備:振替社債発行の同意書+取締役会決議
公表:銘柄情報について、保振に通知

■トレンドの社債商品~株式価値の希薄化回避しながらROE改善~
・普通社債(シニア+固定金利+期限一括償還型)⇒シンプルで取引しやすい
・ハイブリッド債⇒任意利払繰延条項+劣後特約(優先株の配当と同性質に)
・転換社債型新株予約権付社債⇒額面での償還が約束+株価次第で転換可能


17.「親引け」制度

1.制度概要
「親引け」とは、証券会社が株式等の募集または売出しの引受けを行うにあたって、発行会社が指定する販売先への売付けを行うこと。

長期保有が期待できる安定的な投資家に配分することを目的。

従前、個人投資家へ公平かつ公正な配分を行うという観点から、原則禁止されていたが、H24年に規制緩和され、下記に示す要件に基づき、「親引け」が認められることになった。

・要件1
引受証券会社が、当該募集等の引受け等に係る株式の配分が、公正と判断したこと。

・要件2
発行会社が、親引けの予定先の状況、発行条件に関する事項、当該親引け後の大株主の状況などを、有価証券届出書の提出後において適切に公表すること。

・要件3
当該募集に係る払込期日から180日を経過する日まで継続して保有することの確約を、主幹事会員が親引け予定先から書面より取り付けること。









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2016年11月20日日曜日

11/18 勉強会:他の税効果適用指針に先行して法人税等会計基準案が決定 他


1.税理士が妻に青色専従者給与、必要経費か否かをめぐり争い

■青色専従者に支払う給与
・個人事業主(夫)が事業を手伝う配偶者(妻)に給与を支払った場合
⇒妻が青色専従者に該当する場合、支払った給与は夫の必要経費に算入できる

・妻が、他の法人や他の個人事業者の手伝いをしながら、夫の事業の手伝いをしていて、夫が妻に給与を支払った場合
⇒妻へ支払った給与は、基本、夫の必要経費に算入できない
⇒妻が青色専従者に該当し一定の事由がある場合は、例外的に夫の必要経費に算入できる

■今回の事例(地裁)
・妻が夫の青色専従者でありながら、その親族の資産管理会社(法人)の代表者を務めていた場合
(1)妻は夫の青色専従者といえるかどうか
(2)妻へ支払った給与は夫の必要経費に算入できるかどうか

(1)について
⇒青色専従者とは言えない
⇒夫の事業の手伝いに専念していたと誰が見ても明らかとは言えないため

(2)について
⇒妻が青色専従者ではないため、夫の必要経費に算入できない

※納税者は控訴を提起


2.過去の誤謬(売上計上漏れ)

(設例)
・当期の売上500は、前期分であり修正申告済
・過年度遡及会計基準の適用により、当期の期首利益剰余金を500増額処理
⇒当期の申告調整はどうするか。

(答)
別表四は「売上認容」として500減算(留保)します。


3.海外投資に係る富裕層の申告漏れが増加

H27事務年度における所得税及び消費税調査等の状況(1028日、国税庁公表)」のうち、海外投資などを行っている富裕層に係る調査結果は下記のとおり

調査件数:565(前年比+26.1%)
1件当たりの申告漏れ所得金額:2,970万円(前年比+27.1%)
1件当たりの追徴税額:756万円(前年比+35%)

(参考)富裕層全体への調査
申告漏れ所得金額:過去最高516億円(前年比+32.3%)


4.個別の議決権行使結果の公表を原則に

フォローアップ会議が、「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方」と題する意見書案を了承した。

運用機関とアセットオーナー(年金基金や保険会社等)が対象となる。

運用機関等に対して、アセットオーナーへの開示以外にも、個別の議決権行使結果を一般に公表することを原則とすべきという内容。

運用機関等が、最終受益者への説明責任を果たし、透明性の向上を図ることが目的となる。


5.他の税効果適用指針に先行して法人税等会計基準案が決定

■企業会計基準委員会が日本公認会計士協会の「税効果会計に関する実務指針」を会計基準へ移行中
「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」については、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準()()として先行して公開草案を公表
()法人税、地方法人税、住民税及び事業税(以下、法人税等)に関する会計処理及び開示を規定

■会計処理
(1)当年度の所得に対する法人税等
⇒法令に従い算定した税額を損益に計上

(2)過年度の所得に対する法人税等
・追徴される可能性が高く、税額を合理的に見積ることができる場合(誤謬による場合を除く)
⇒追徴税額を損益に計上 ※延滞税(延滞金)、加算税(加算金)も追徴税額に含めて処理

・還付されることが確実に見込まれ、税額を合理的に見積ることができる場合(誤謬による場合を除く)
⇒還付税額を損益に計上

■開示
・法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)
⇒税引前当期純損益の次に「法人税、住民税及び事業税」等の科目をもって表示
※追徴税額及び還付税額は、本税を表示した科目の次に、その内容を示す科目をもって表示
(金額的に重要性が乏しい場合、本税に含めて表示可)

・事業税(外形)
⇒原則として、販管費として表示(ただし、合理的な配分方法に基づき、その一部を売上原価として表示可)
※追徴税額及び還付税額は、本税と同様

■留意事項
・「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」における表現の見直しや考え方の整理等を行うものであり、実質的に内容を変更するものではない
⇒公表日以後適用し、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更にも該当しない


6.小規模宅地特例の手続要件で納税者敗訴

■小規模宅地の特例の手続要件とは
・相続税の申告書の特例を受ける旨の記載
・小規模宅地等の計算明細書の添付
・遺産分割協議書や共同相続人の選択同意書の写しの添付

■事例
・A氏が遺言により特例対象のX土地を取得
・X土地の小規模宅地の特例適用にあたり、選択同意書を添付せず
・添付がなかったため、小規模宅地の特例が受けられなかった
・別の特例対象の土地は遺産分割協議中(未分割財産)

※措置法上、未分割財産の場合は未分割の上申書を提出したうえで、遺産協議が整った状態で選択同意書を提出しても特例の適用が受けられる

A氏主張
遺言で取得したケースの場合でも、後日に選択同意書を提出しても問題ないのではないか。原因は立法の不備ではないかと訴訟

■裁判所の判断
・選択同意書の添付が困難なケースは、遺言対象で取得したケース以外においても一般的に生じる問題。
・遺言対象で取得したケースのみ不利益になるとは考えられない。
・他の相続人の選択同意書がないため特例適用を否定した課税処分を支持。


7.「連結納税制度外し」による否認事例は

<グループ法人税制外し>
・完全支配関係(100%株式保有関係)にはグループ法人税制が適用され、親子間での資産譲渡損益は実現されない
・株式の一部を従業員などに保有させ、完全支配関係を崩した上で資産譲渡損失を計上するケースあり
⇒いわゆる「グループ法人税制外し」として、同族会社等の行為計算否認規定が適用される事例が出てきた

<連結納税制度外し>
・連結納税制度適用会社は、子会社資産を時価評価しなければならない
・子会社株式の一部を100%出資の外国法人に保有させることで、連結対象外とし時価評価を不要とするケースあり
※外国法人が間に入った支配関係は、連結対象外となる
⇒いわゆる「連結納税制度外し」であり、連結法人に係る行為計算否認規定が適用される恐れあり
※現状は、否認事例は把握されていない


8.セルフメディケーション税制 QA

■セルフメディケーション税制とは
いわゆるスイッチOTC医薬品※を12,000円以上購入した場合、その越える額を所得から控除できる制度。上限は88,000円。2911日以後購入分が対象となる。

※医師処方の医療用医薬品からドラッグストアで購入できるOTC医薬品に転用された医薬品をいう。

Q&A
Q:従来の医療費控除と併用できるか
A:併用不可

Q:通信販売で281231日に申し込んだ場合控除対象となるか
A:支払日が2911日以降であれば対象となる

Q:購入時にスイッチOTC薬に該当せず、その後追加で登録された場合は控除対象となるか
A:2911日以後購入のものであれば購入時に非該当であったものも対象となる


9.個別対応方式と一括比例配分方式の誤選択により過大納付となった事例

■概要
A税理士は依頼者の平成173月期から6年にわたり、消費税の計算を一括比例配分方式で計算していた。その後顧問契約が解除され、依頼者が自ら確認したところ、個別対応方式の方が明らかに有利であったことが判明した。
⇒差額につき損害賠償請求を受けた。

■解説
税理士は個別対応方式と一括比例配分方式について依頼者に十分な説明をし、納付税額について申告前に有利不利の試算をする必要があった。
明らかに税理士に過失があったものとされ賠償責任があると認められた。


10.国税庁 27事務年度の法人税等の調査事績を公表-消費税還付法人に係る追徴税額は前事務年度の約2

■調査日数
調査1件当たりの平均日数は11.3
(調査課所管法人では平均日数78.7)

■消費税還付申告法人
7,475件調査⇒消費税1521,500万円を追徴課税
(764件は不正に還付金額の水増しなどを行っていた)

■海外取引等に係る法人税
実地調査を13,044件、非違件数3,362件,申告漏れ所得金額2,308億円
非居住者や外国法人に対する源泉所得税等の課税漏れ1,527件、1698,800万円追徴課税

■調査事例を6つ記載している。1つ紹介。
【事例】
輸出免税制度を悪用し,消費税不正還付(東京局)
調査法人が国内の仕入先Aから商品を高額で仕入⇒国外Bへ高額で輸出
⇒その後同一商品を国外Bから複数の法人を経由し仕入先Aが低額で輸入
⇒調査法人が再びAより高額
仕入⇒国外の法人へ輸出(繰り返し)⇒消費税の還付申告書を提出
仕入先Aは無申告であった。
⇒通関業者への反面調査及びインボイスの分析によって発見


11.マドフの内部通報者が暴露したこと。

・マドフ事件=米国史上最大級のねずみ講事件
・内部通報者のMarkopolos氏が「監査が効果的ではなかった要因」を下記の通り主張している。

①監査報酬が安い
・マドフはBig4の監査をなめていた
・監査報酬が安い=監査人は十分な手続きができない
⇒数値をごまかすのは簡単

②監査人の経験不足
・監査報酬が安い=監査がコモディティ化=20代の若手が担当となる
⇒経験の浅い監査人に、大人の不正は見抜けない

③実証テストが少なすぎる
Big4ではサンプル75件程度。
大きな取引25件、新しいもの25件、その他25
⇒膨大な取引の中から、わずかのサンプルでは実態はつかめない
※実証テストが少ない現在のリスクアプローチは、1980年代の監査報酬の引き下げ競争から。
※従来の実証テストを十分に行う方法ではコストがかかりすぎるため、コスト低減、すなわち手間をかけない方法として考え出された


12.税務調査で経理担当者として気を付けるべき事項

①日頃から資料の保管・整理に気を付ける。
 ※調査の連絡があってからでは間に合わないため。
②調査官がロッカーや金庫等も確認する可能性があることを念頭に置いておく。
③調査官からの質問の回答は、きちんと確認してから回答する。
 ※曖昧な回答や推測での回答は後のトラブルのもととなるため。
④営業担当者等のヒアリングには同席し、不用意な発言が無いようにコントロールする。
⑤調査官から求められた資料は、提出前に内容を確認する。
⑥資料のコピーを提出する際には控えを取っておく。
 ※調査官が何に関心を持っているかを推測する為。
 ※後日、調査官から問題点を指摘された際に、どの資料を根拠に話しているかを把握する為。
⑦調査議事録を記しておく。
 ※調査官との認識の相違や記憶違いを避けるため。
また、次回調査への申し送り書類とできるため。
⑧調査官と良好な人間関係を築く。
⑨誠意ある対応を見せる。
⑩納得できる指摘事項は素直に応じ、納得できない事には応じない。


13.非上場オーナー企業を買収する際のDDの留意点

■プロジェクトマネジメントへの影響
・DD対応能力の欠如
⇒スケジュール後ろ倒しのおそれ
・対応
⇒アドバイザーと相談のうえ、資料が揃うまでDDを開始できないことを申し入れる
⇒セルサイドのアドバイザーに依頼し、DD受入体制の改善を要求する。

■オーナー関連取引に関するDD検出事項の例
(1)
・オーナー等保有物件の賃借、金銭貸借、個人保証
・個人使用目的の不動産の保有
・事業目的と異なる金融商品の保有
・役員報酬の支払(実体がない場合、報酬額が過大な場合)
・役員退職慰労金(原資とすべき保険への過剰な加入)
・個人的な支出

(2)リスク、発生作業等
・税務リスクの増大
・事業外の部分での調整項目が発生(金融商品の含み損益等)
・オーナー保有物件等の取扱いをどうするか(オーナーに貸し付けて賃料をとる等)

■価格交渉
×ファイナンス理論に基づくVA⇒別のロジックで決定されることが多い
例:修正簿価純資産+営業利益の○年分など


14.金商法における課徴金事例集(開示規制違反編)について

※証券監視委員会が平成288月に公表

・特定の役員等の主導による不適正な会計処理等
⇒経営トップ等のコンプラ意識の欠如、取締役会や監査役の機能不全等が発生原因

・新たに開始した事業における売上の過大計上
⇒コンプラ意識の欠如、内部統制の機能不全等が発生原因

・海外子会社等の不適正な会計処理が発覚
⇒適切なモニタリングを行うなどの、海外子会社等を管理する体制が十分に整備できていなかったことが発生原因


15.会計監査における監査役および監査役スタッフの役割

(1)会計監査人との連携
・双方から複眼的に会社の活動を捉えることが重要であり、そのためにも、日ごろから円滑な連携が図れるように監査役と会計監査人の信頼関係を構築することが必要となる
(2)会計監査人の評価
・会計監査人の監査の相当性を判断するだけではなく、品質管理、独立性、専門性等についても主体的に評価する
・大半の会社で明確な基準なしで検討中。
(3)内部監査部門との連携
・会計監査に限らず、相互の監査活動に関する情報交換・共有を密に行い、会計不祥事を起こさない仕組みづくりが必要
(4)その他
・監査役スタッフには内部監査部門その他の執行サイドはもちろん、会計監査人と監査役の懸け橋
・フットワークを生かして情報収集に努める等、不正を起こさせない企業風土の形成に対して大きな役割


16.上場を希望する子会社に対する親会社の対応

■親会社のメリット・デメリット
○⇒子会社株式の現金化、事業の選択と集中
×⇒親子会社間の不明瞭な会計処理の整理、利益相反関係の解消

■親会社の判断
⇒株式の一部を保有した上での判断が実際的
(関与レベルの判断は必要)
if否認⇒子会社役員の経営意欲失墜と離反リスク
if承認+全部譲渡⇒不要な資金調達、将来の成長による収益を逃す

■親会社の提案
・子会社役員へのSO付与
⇒インセンティブ向上による企業価値増加
⇒権利行使を踏まえた今後の支配権をコントロール可

MBO(VC利用が多い)
⇒但し株価決定は慎重に
(株価が高い場合、手放す経営判断に市場の疑念発生)

■上場を承認する場合の留意
・親子会社の少数株主保護(利益相反)
・中核的な子会社でないか(新規公開により親会社が利益二重享受)


17.会計士監査人と株主代表訴訟

・株主代表訴訟では、役員のほか、会計監査人も訴訟の対象となる。
・公開会社では、株式を6ヶ月以上継続保有している株主は株主代表訴訟を提起できる。
・役員と比較して、会計監査人は会社に「守ってもらえない」ことが多い。
・そこで、日頃から、取締役、監査役とよくコミュニケーションしていることが重要となる。
(1)無限定適正意見を付すとしても、課題や留意点を整理し、取締役に伝達する。
(2)重大な事項でなくとも監査役に適宜報告を行う。


18.建設・不動産業の上場審査のポイント

1.価格政策
景気動向や住宅税制等、外部環境に左右されるため、会社設定している価格政策が外部環境にマッチし、ターゲットとしている市場に受け入れられるかが重要。不動産業においては、在庫リスクを回避することが重要であり、長期化した在庫に対する価格政策を含めた対応方針が、審査上のポイント。

2.プロジェクト別業績管理
プロジェクトごとの個別性が高く、受注から販売・資金回収までの期間が長い。3月に集中する傾向があり、業績の季節的変動がある。会計上、一定の条件のもとで工事進行基準の適用が求められるため、進捗状況の管理や予算に対する費用の発生状況の管理が有効に機能しているか、上場審査上確認される。

3.外注管理
建設業⇒下請業者、不動産業⇒仲介業者にそれぞれ外注することが一般的。上場審査上、外注先への依存の考え方や外注先のコントロール、下請法の遵守について、確認される。

4.受注管理

建設業では、受注情報が確度の高い業績の先行指標となるため、その管理手法が上場審査上、確認される。短期利益計画においては、受注情報の分析が重要。上場審査上、受注情報と利益計画の整合性が確認される。








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