1.オリンパス社の粉飾決算事件で同社に損害賠償を命じる初判決
■事例
・個人投資家がオリンパス社に対し、虚偽記載がなければ同社株式を取得していなかったと主張して株式の売却損相当の1億円の損害賠償請求をした事例
■経緯
・個人投資家が、オリンパス社の株式を10万株式購入
(オリンパス社の英国人社長の解任決議があった日前後)
平成23年10月14日のオリンパス社の株価…2,045円
・その後、オリンパス社が虚偽記載がある四半期報告書を提出していたことを公表し、この影響で株価が下落
平成23年11月8日のオリンパス社の株価…734円
・個人投資家が保有株式を売却
譲渡損失は約1億1千万円
平成23年11月11日のオリンパス社の株価…460円
■裁判所の判断
・虚偽記載がなければオリンパス社株式を購入しなかったという個人投資家の主張は却下
⇒粉飾決算を行っていたオリンパス社が上場廃止に抵触する債務超過状態ではなかったため
・虚偽記載のある書類の提出者の賠償責任に基づきオリンパス社に損害賠償を命じる判断
・計算された一株当たりの推定損害額のすべてが虚偽記載と相当因果関係があるとは認められないことから、その一部を減額することが相当とした
2.社外取締役選任、相当でない理由
改正会社法(327条の2)では、定時株主総会における口頭の説明に加え、
①事業年度末日に社外取締役を置いていない場合には事業報告に、
②株主総会に提出する取締役選任議案に社外取締役の候補者が含まれない場合には株主総会参考書類に、
それぞれ社外取締役を置くことが相当でない理由を記載しなければならないとされた。
■改正会社法における社外取締役を置いていない場合の「相当でない理由」に関する事例
・ユニマットそよ風
⇒社外取締役の選定にあたって、企業経営への理解に加えて介護業界に関する知見を有することなどを要件としているが、現時点で適任者の選定ができなかった旨を記載
・中越パルプ
⇒経営規模等を総合的に勘案すると、自社のガバナンス体制が適正に構築されていることを詳細に説明した上、社外取締役の重要性を認識しつつも、経営規模等を総合的に勘案するとガバナンスは適正に運用されている旨を記載
・エンチョー
⇒社外監査役に加えて社外取締役を置くことは職務遂行上の重複感と費用の負担増を生じさせ企業価値を損なうおそれが懸念される旨を記載
3.計算ミスで給与計算代行会社に賠償命令
■概要
・給与計算代行会社が、給与計算ミスをした
・約3年に渡り、従業員1人の残業代を二重計上していた
・合計133万円過払いしていた
・給与計算代行会社に過払い分の損害賠償請求した
■争点
・会社は従業員から過払い給与の返還請求権を持っている
・本当に損害を被ったと言えるかどうか
■給与計算会社の主張
・会社には損害が無い(返還請求権を持っているため)
■結論
・給与計算代行会社には損害賠償命令が下った
■理由
・返還請求権を持っていたとしても、実際お金は会社から流出してしまっている
・そのお金が実際に補填されたことが証明されない限り、会社には損害が生じていると考えられるため
4.取締役会決定で売掛金認容処理は認めず
(事案)
某企業:社内調査しても解明できなかった売掛金の不明残について、取締役会決議を経た上で、減額し損金算入
原処分庁:損金算入できないと更正処分
⇒損金算入の事由である法人税法22条3号(原価の額、費用の額、損失の額)のいずれにも該当しないと主張
⇒損金算入の事由である法人税法22条3号(原価の額、費用の額、損失の額)のいずれにも該当しないと主張
(審判所の判断)
損金算入できない
⇒金銭債権の簿価を減額した場合、当該金額を損金算入するには、貸倒損失または評価損計上の要件を満たす必要あり
⇒本件の場合、
・売掛金の不明残について社内調査しても解明できなかったこと
・内部的意思決定である取締役会決議を経たことに基づいて売掛金を減額し損金算入しているが、これらは上記要件を満たさないと主張
5.事業者向け電気通信利用役務の提供とは
・電子書籍、音楽の配信などネットを介するサービス
・クラウドサービス等
(主な例)Yahoo・Google広告、Kindleでの購入、AmazonWebServiceなど
■消費税
(1)現状:役務提供者の所在地で判定
配信した事業者が国内事業者⇒課税取引 (例)Yahoo広告
配信した事業者が国外事業者⇒課税対象外 (例)Google広告、Kindleでの購入等
(2)H27年10月1日以降:役務提供を受ける事業者の本店所在地で判定
配信した事業者が国内であろうが国外であろうが、役務提供を受ける事業者の本店が日本にあれば課税対象となる。
上記例を使用している場合は、課税取引として処理する必要あり
※消費者向けの電気通信利用役務提供は、(1)のまま継続される
■納税義務
役務提供を受ける事業者に納税義務を転嫁させるリバースチャージ方式が導入される。
6.事業者免税点は消費者向け売上高で計算
・H29/4/1以後、国内向けに電気通信利用役務の提供を行う国外事業者が課税対象に
・国外事業者にも免税点制度が適用できる
(基準期間の課税売上高が1000万円以下なら納税義務なし)
・課税売上高の計算からは、「事業者向け電気通信利用役務の提供」が除かれる
※事業者向けは、役務の提供を受ける国内事業者に納税義務あるため
⇒「消費者向け」に係る売上高で免税点を判定する
7.裁決事例:分掌変更に伴う分割支給退職給与の損金算入
∇概要
(1)A社は分掌変更(代表取締役⇒非常勤取締役)した役員退職金につき、資金繰りの問題から当期及び翌期で分割支給した
(2)国側は分掌変更による退職給与には分割支給が認められない(翌期支給分は役員賞与である)として更正処分を行った。
∇争点
(1)役員退職金については通達により、支給時に損金算入することが認められているが、分掌変更の場合でも適用されるのか
∇東京地裁
分掌変更による「退職」であっても役員退職金の通達は適用できるとして国側の主張を退けた。
(参考)分割支給の役員退職金の損金算入
(1)企業がよく採用している
(2)多数の税理士がHPで紹介している
(3)通達が存在する
ことから公正妥当な会計処理基準に従っていると認められた
但し、総額と終期が定められていない場合は否認の可能性がある
8.消費税:土地収用法の規定に基づき補償金を受ける場合の課税関係
■店舗の土地が収用される場合の、補償金収入について消費税の課税関係はどうなるか?
①土地の所有権が収用されることによる補償金の支払い
⇒ 非課税
②建物の移転に係る補償金の支払い
⇒ 不課税(対象外)
③休業に伴う収益補償金の支払い
⇒ 不課税(対象外)
※収用の目的物の対価としての性質が有る保証金は、『事業として対価を得て行われる資産の譲渡』に該当するので消費税の対象となる。
9.コーポレート・ガバナンスコード(CGコード)
・補充原則3-1②
「合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである」
⇒他の原則は「行うべきである」に対し、「進めるべきである」との記載に混乱が生じている。
⇒どうすれば原則を実施(Comply)したことになるのか。
・英語版のHP、各種資料の英訳版の公表
⇒「進めるべきである」との表現から、すべての英訳が終わっている必要はなく、英訳を進める意思があればComplyしたことになるとの見解もある。
10.その他有価証券評価差額金の税効果
1. その他有価証券の評価差額に関する税効果の会計処理
(1) 個別法 … 銘柄ごとに税効果を認識
(2) 一括法 … 全てのその他有価証券を一括としてとらえて、税効果を認識
2. 回収可能性評価の流れ
(1) 個別法
個別銘柄ごとに、
・評価益 ⇒ 繰延税金負債を認識
・評価損 ⇒ 繰延税金資産を、回収可能性のある範囲内で認識
※ただし、一般的にその他有価証券は、簡単に売却できないケースが多く、スケジューリングは困難として、繰延税金資産を認識出来ないケースが多い。
(2) 一括法
スケジューリング可能なものと不可能なものに分類し、それぞれで回収可能性を判断。
イ)スケジューリング可能
評価益と評価損となるものに区分し、
・評価益 ⇒ 繰延税金負債を認識
・評価損 ⇒ 繰延税金資産として、回収可能性のある範囲内で認識
ロ)スケジューリング不能
評価益と評価損となるものを区分せず、評価益と評価損の純額について税効果を認識
・評価益>評価損 ⇒ 評価益と評価損の差額に対して繰延税金負債を計上
・評価損>評価益 ⇒ 評価損と評価益の差額に対して、回収可能なものについて繰延税金資産を計上
※評価損の部分も評価益と相殺されるため、個別法では回収不能とされる部分も、実質、回収可能性ありとして処理されることになる。
【設例】
評価益100と評価損50のその他有価証券があり、回収可能性がない場合
※実効税率を40%とした場合
(1) 個別法
・評価益100 ⇒ 評価益100に対し、繰延税金負債40(100×40%)を認識
・評価損 50 ⇒ 評価損50があるが、スケジューリング不能として繰延税金資産認識しない
⇒ 繰延税金負債40を認識
(2) 一括法
・評価益と評価損の差額(100-50)の50に対し、繰延税金負債20(50×40%)を認識
⇒ 繰延税金負債20を認識
11.平成27年度税制改正に係る税効果会計のポイント
1.平成27年改正
・法人税率の引き下げ
2016/3期決算時/2016/3期:33.06%、2017/3期以降:32.30%
・欠損金の繰越控除制限
2016/3期、2017/3期 65%
2018/3期以降 50%
(例外)
(1) 更生手続、更生手続開始の決定等があった場合
⇒更生計画認可の決定等の日以後7年間は100%控除可能
ただし、その間に再上場した場合は通常の取扱に戻る
(2) 新設法人
⇒設立の日後7事業年度については、100%控除可能
ただし、5億円以上の親会社・グループからの100%支配を受けている場合は通常の取扱になる。
・欠損金の繰越期間
2018/3期以降 10年
※ただし、当該期間延長によりはじめて消滅が問題となるのは2028/3期
・受取配当金の益金不算入制度の見直し
2.税効果への影響(第1四半期決算)
・年度決算と同様に取り扱う場合
一時差異の集計 → 会社区分の検討 → 回収可能性の検討 → 繰延税金資産の算定
【一番の問題は繰越控除限度額の縮小!】
例:期末時点1,000の繰越欠損金がある大会社
毎期250の課税所得が発生する見込
会社区分は3(5年間スケジューリング可)
毎期の繰延税金資産回収額:
改正前(限度額80%):
16/3以降毎期200(250×80%)回収され、向こう5年で回収しきるスケジュール
改正後(16/3、17/3は65%、18/3以降は50%)
[16/3]162、[17/3]162、[18/3]125、[19/3]125、[20/3]125 合計699
⇒繰延税金資産のうち、回収できない部分が出てきてしまう。
・四半期特有の処理による場合
(四半期税前利益 ± 簡便的な税務調整)× 見積実効税率
⇒この場合でも回収可能性の検討は行う必要がある。
12.法定実効税率と法人税等負担率の個別F/Sでの主な差異原因
※法人税等負担率=(法人税等+法調)÷税前利益
・永久差異
・住民税均等割
・評価性引当額の増減額
・税額控除
・税率変更
・繰越欠損金の期限切れ
13.インサイダー取引について
■インサイダー取引規制
(1)内部情報に関するインサイダー取引禁止
・「会社関係者」または「情報受領者」が
・「重要事実」を知った場合は
・当該事実が「公表」されるまでの間
・関係する「特定有価証券等」の
・「売買等」を行うことを禁止
(ポイント)
・役員等の会社関係者も退職後1年は規制対象
・インサイダー取引は形式犯
→未公表の重要事実を利用したかを問わず、また利益の有無を問わず、未公表の重要事実を知ったうえで取引しただけで処罰対象
(2)外部情報に関するインサイダー取引禁止
・公開買付や株式買い集めに関する重要事実について、買付者と一定の関係にある者による取引禁止
(3)未公表の重要事実の伝達等の禁止
・重要事実を知る会社関係者がそれを他人に伝達したり、伝達せずに取引を推奨する行為が禁止
(4)制裁
・5年以下の懲役、500万円以下の罰金、またはその両方
・インサイダー取引で得た財産は没収
(5)包括的禁止規定
・インサイダー取引に限定せずに市場における不公正な取引を規制する
→新しい形態の不公正取引も処罰できるようにするため
14.税制優遇基準「資本金1億円」見直しへ
・「中小企業」の基準見直し検討が開始に
・意図的に抑えることができる「資本金」ではなく、「売上高」「所得」を基準にする方向で2017年度にも基準変更を目指す
・アイリスオーヤマ、ジャパネットたかたなど著名な大企業が資本金を1億円にして優遇を受けている
・シャープが1億円への減資を検討したことで、見直しへの機運が高まった
・米国⇒大企業と中小企業の分けなし 所得水準による累進課税
・仏国⇒売上金額を基準に法人税率を区分
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