1.分掌変更による役員退職慰労金の「退職所得」性と分割支払金の損金性
■まとめ
・同族会社の創業者である代表取締役が、その役職を辞任しただけでは退職したと言えない
⇒非常勤取締役になる、実質的に代表権がない、報酬が以前の50%以下となることが必要(分掌変更があることが必要)
・分掌変更に伴う役員退職慰労金は退職所得かどうか
⇒上記を満たしていれば退職所得と言える(所得税基本通達30-2(3))
・分掌変更に伴う役員退職慰労金を分割支給した場合、第2回目以降の支給額は
(1)退職所得となるものかどうか
⇒退職した事実に基づき支給されるものであるなら退職所得
(2)どの時点で損金となるのか
⇒原則:株主総会の決議があった事業年度に全額を損金とする
例外:資金繰りが厳しいなど事情がある場合は、その支給の都度、支給があった金額を損金とする(中小企業においてはよくあること)
・役員退職慰労金の分割支給の問題点
⇒結果的に利益操作の余地を法人に与えてしまっている
2.宗教活動の収益帰属で一部取消裁決
■事案
宗教団体の名称で行われていた事業から生じた収益が請求人(宗教団体の師)に帰属するか否かが争われた。
■審判所の判断
収益は宗教団体に帰属しないが一部収益については請求人に帰属しないと判断。
■主な判断理由
請求人に帰属すると判断された収益は、請求人名義の口座へ入金されそこから生活費が出金されていた。
請求人に帰属しないとされた収益は、上記のようなことは認めれず担当者個人の独立採算による運営・管理がされていた
3.今週の専門用語
≪処分の理由≫
・平成25年1月1日以降、国税通則法の改正により申請に対する拒否処分や不利益処分を行う場合は理由附記が必要になった。
(例)申請に対する拒否処分
・更正の請求に対して更正すべき理由が無い通知
・青色申告承認申請の却下 等
(例)不利益処分
・更正、決定、加算税賦課決定、督促、仮押え 等
4.売上リベートの認識時期が異なることに
■売上リベートの会計上の取扱い
(1)現行の日本基準
⇒一般的な定めはなく、実務上の一般的な取扱いは以下の通り
・勘定科目:売上高から控除又は販売費として計上
・認識時点:支払の可能性が高いと判断された時点
(2)IFRS第15号
・勘定科目:売上高から控除
・認識時点:履行義務を果たした時点
(3)売上リベートを販売費として処理していた日本企業がIFRSを適用すると
・勘定科目が異なる
・収益の金額が減少する
・認識する時期が異なる
⇒多くの日本企業において売上リベートの支払いが行われている現状を考えると、IFRSの適用は日本企業に与える影響は大きい
5.マイナンバーを含む個人情報、行政機関はどこまで把握可能か
■マイナンバーはどのように管理されるか
・情報提供ネットワークシステムにて管理される。
・個人情報が必要な行政機関は、同システムを利用して、情報の照会や提供を受けることができる。
・民間事業者は利用できない
なお情報提供ネットワークで一元管理されるわけではなく、各行政機関等がそれぞれの項目ごとに分散して管理する。
■情報提供ができるケース(限定列挙されている。)
・都道府県知事等が、生活保護支給に関し市町村長より提供をもとめる場合。
・厚生労働大臣が、年金の支給に関し市町村長より提供をもとめる場合。
現在は120ほどに限定されているが、今後、追加される可能性あり
6.消費税めぐる税賠トラブルで税理士敗訴が相次ぐ
【例1】
・税理士が、個人医院経営者に、節税目的として法人化を提案し、設立認可手続き等の一部を行う旨の契約を締結。
・資本金1000万円未満とするように説明・指導しなかった。
・その結果、設立2期分の消費税が課税された(資本金1000万円未満なら免税だった)
・節税目的に沿う資本金設定についての説明・指導義務を怠ったとして、税理士に損害賠償が課された。
【例2】
・税理士が、顧客の申告書を作成した際、香典・見舞金を課税仕入として処理(本来不課税)
・後日の税務調査で、過少申告加算税、延滞税が課された。
・顧客は、別の税理士に修正申告書の作成を依頼。
・上記、追加税額負担に加えて、他の税理士に依頼した修正申告作成費用についても、誤った税理士に損害賠償が課された。
7.包括的租税回避防止規定適用リスクの判断基準
1. 記事の内容
ヤフー事件、IDCF事件、及び日本IBM事件を通じて、包括的租税回避防止規定が適用される判断基準を考察した記事
2. 判断基準
(1) 租税回避防止規定が適用されるリスクが高くなる判断基準
・ 租税回避目的が事業目的より優越
・ 租税法規の趣旨・目的に反する
(2) 租税回避目的が事業目的より優越しているか否かの判断基準
・ 『
達成した成果 』が、事業目的より租税回避目的が優越
・ 『選択した法形式』が、事業目的より租税回避目的が優越
3. 事例検討
(1) 事例の概要
・オーナー企業を買収
・買収形態は株式譲渡方式
※オーナーにとって、配当所得として課税されるより、譲渡所得として課税された方が税負担が少ないことが多いことから、事業譲渡方式ではなく、株式譲渡方式を選択
(2) 行為を否認される(事業譲渡であるとされる)リスクを低減するには
・『
達成した成果 』について
⇒ 経営を支配するという事業目的に不合理がないことを説明出来るようにしておく
・『選択した法形式』について
⇒ 株式譲渡方式の方が、事業譲渡方式よりも簡便、合理的である事を説明できるようにしておく。
8.会計上の見積りが確定した年度の実務対応ポイント
■会計上の見積りに該当する項目
・繰延税金資産の回収可能性
・金融商品の評価
・固定資産の耐用年数
・引当金 など
■基準上の取扱
見積もりと確定額に差異が発生
(1) 投資者への意思決定に与える影響 小(重要性なし)
⇒ 差額発生時の損益
⇒ 差額発生時の損益
(2) 投資者への意思決定に与える影響 大(重要性あり)
2A. 入手可能な情報に基づき最善の見積りができていた場合
⇒ 差額発生時の損益
⇒ 差額発生時の損益
2B. 入手可能な情報に基づき最善の見積りができていなかった場合
⇒ 過去の誤謬
⇒ 過去の誤謬
■実務上重要なこと
・会計監査人との「重要性」及びどのような作業が必要になるか、考え方を摺合せ
・新たな事象の発生や新たに入手可能となった情報により見積差額が生じていることを合理的に説明できること
■例(賞与の支給の場合:支給日3月31日、決算日12月31日)
・14年12月末:冬季賞与として基本給の1か月分を支給する方針
⇒ 120百万円を引当金計上
⇒ 120百万円を引当金計上
・15年3月末 :労使交渉の結果、1.2ヶ月分を支給することになった。
⇒確定額144百万円
⇒確定額144百万円
・差額24百万円は、重要性があるものと判断されている。
⇒ 12月末の決算時において、3月に労使交渉を控えているものの、結果的に基本給の1月分を賞与として支給することになると考えている旨、会計監査人に説明しておくと、見積差額に関する検討をより円滑に進められるものと考えられる。
9.子会社のその他有価証券評価差額金の連結財務諸表上の会計処理
Q.改正により、親会社による支配が継続する状態での子会社株式の追加取得・売却では、のれんを増減させず、資本剰余金を増減させることで対応することになった。
子会社BS上のその他有価証券評価差額金の取扱いに変更はあるのか?
A.従前と同じ。
10.平成27年6月開催の株主総会分析
・主な質問項目
-経営政策、営業政策
→競合他社との比較における当社の強み弱み、今後伸ばす事業について
-財務状況
→為替変動リスクに関する質問、原価に関する質問、利益率に関する質問
-リストラ・人事・労務
→女性の活躍に関する質問、人材育成に関する質問
-配当政策・株主還元
→配当方針に関する質問、株主優待制度の導入に関する質問
・社外取締役の選任増加
社外取締役を選任する上場会社が87%に(昨年比22.9ポイント)。
→改正会社法で監査役会設置会社で有報提出会社が社外取締役を設置しない場合、株主総会での理由説明が必要になったため。
・監査等委員会設置会社※への移行
6月末までに移行の開示を行った会社が189社あった。
※改正会社法で新たに認められた。
取締役3名以上(過半数は社外取締役)で構成する監査等委員会が取締役の業務執行を監査する株式会社。
・コーポレートガバナンスコード※の対応状況
招集通知にCGコードの対応状況を記載する会社は限定的であった。
※上場企業が守るべき行動規範
11.M&Aにおける簿外債務の検討法
(1)簿外債務の性質による4分類
・容易に金額換算○、発生可能性が高(未払退職給付債務等)
・容易に金額換算○、発生可能性が不明(税務調査における未払税金)
・容易に金額換算×、発生可能性が高(訴訟債務)
・容易に金額換算×、発生可能性が不明(土壌汚染等の環境問題)
(2) 簿外債務の調査の流れ
・一般的には経営者、部門責任者、部門担当者、顧問弁護士、税理士へのヒアリング
→上席者では確認できない事項でも、担当者レベルからヒアリング出来る事もある。
→短時間でもいいので、顧問税理士との面談は望ましい
・簿外債務に対するリスト(後発事象等)を作成しヒアリングを実施
・各種契約書、稟議書の確認等
(3)契約条項交渉時の対応方法
・いかに効率的なDDをやっても簿外債務のリスクをゼロにはできないため、対象会社に表明保証を求め、補償条項を盛り込んでリスクを回避する
→表明保証を求めることで、DD時には回答されなかった事項や誤って回答していた事項について、開示される可能性がある。
(4)簿外債務の疑いがある場合のスキームの検討
・事業譲渡の場合、契約で移転する資産・負債を特定できるため、簿外・偶発債務を引き継ぐリスクを小さくすることが出来る
・会社分割も、事業譲渡と同様、分割契約に記載された範囲で資産・負債を移転できる。
※ただし、「○○事業に関する資産・負債等の一切が買手に承継される」と規定した場合は、○○事業に関する簿外債務も負担しなければならない可能性があるため注意を要する。
12.役員報酬 税優遇拡大へ
・経済産業省が2016年度税制改正要望を8月中にまとめる
・役員の業績連動給与を見直しへ
(現行)指標は利益のみ、全役員一律の計算方式
(改正案)ROE、ROAも指標として認める、職務に応じた個別算定が可能に
・その他、「株式報酬も算入しやすくする」「ボーナスの期中変更も可能に」する方針
・詳細は未定
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
ワンストップでサービスを提供
ワンストップでサービスを提供
0 件のコメント:
コメントを投稿