1.所得税の買換特例をめぐる最近の訴訟トラブル
■争点
・「居住用財産を買い換えた場合の譲渡損失等の特例」について、税理士の誤った説明により納税者が更正処分を受けることになったかどうか
■結論
・確定申告は納税者が自ら行うことになっている
・税理士と納税者の間に税務相談に関する報酬の定めがないなど
⇒本件における税理士の義務は納税者から得た情報を前提に特例の有無を検討するにとどまる
(情報の正確性までを検討する義務は負っていない)
2.国外転出時課税制度の概要と問題点
■制度概要
・有価証券等を1億円以上を有する居住者に下記事由が発生した場合、みなし譲渡課税が課税。
①国外転出時課税、②国外転出贈与時課税、③国外転出相続時課税
・上記事由前10年以内に5年超住所を有していた場合に対象。
・いずれの場合も、居住者本人、非居住者=受贈者、非居住者全員が各事由の日以後5年以内に帰国すれば更正の請求により取消。
①&③ 期限内に納税管理人届出をした場合にのみ、担保提供等により納税猶予が選択可
② 担保提供等により納税猶予が選択可
※納税猶予の場合、原則5年以内、延長して10年以内に帰国
⇒更正の請求により取消し
納税猶予未選択に場合、5年以内の帰国は当然取消し
■主な問題点
・国外転出相続時みなし譲渡課税の申告期限が4か月では短すぎる。
・準確定申告時に未分割であって、その後に分割が確定した場合の規定がないため、このケースにおいて分割確定時に更正の請求ができるのか不明。
・帰国による取消し規定が、非居住者相続人全員の帰国が必要となっている。
3.ハイブリッド型年金制度
…確定給付型年金と確定拠出年金の2つを組み合わせたもの
・確定給付型年金
予め給付額が決まっており、広く取り入れられていたもの。
運用状況によって積立不足が発生した場合は、事業主が不足部分を補わなければいけない。(景気悪化の影響を受ける)
・確定拠出年金型
拠出額のみが決まっており、給付額は運用次第となる。
よって運用状況によっては年金額が減少するが、事業主の追加負担は生じない。(景気変動の影響を受けない)
…この2つを組み合わせることによって、景気変動を考慮した運用が可能となっている。
4.「分類4」から「分類2」「分類3」に該当するケースの留意点
■繰延税金資金の回収可能性に関する適用指針(案)では、重要な欠損金等が生じた場合(「分類4」)であっても、
(1)将来においても5年超にわたり課税所得が安定的に生じることが合理的に説明できる場合
⇒「分類2」として取扱い可
(2)将来においておおむね3年から5年程度は(一時差異等加減算前)課税所得が生じることが合理的に説明できる場合
⇒「分類3」として取扱い可
■留意点
(1)翌期及び翌々期において将来において(一時差異等加減算前)課税所得が見込まれているものの、3年目以降に見込まれない場合
⇒「分類3」として取扱い不可
(2)「分類4」の企業を「分類3」として取り扱った場合、
⇒5年を超えて課税所得の見積りは出来ない
5.工事の収益認識が遅れる可能性も
■現行の日本基準
・収益総額、原価総額、進捗度が見積もれる⇒工事進行基準
・上記以外 ⇒工事完成基準
■IFRS第15号
・一定の要件を満たす⇒一定期間にわたり履行義務を充足して収益認識
・一定の要件を満たさない⇒完成して顧客に引渡した時点で収益認識
※IFRS第15号とは
「顧客との契約から生じる収益」を収益認識会計基準とすること。
※一定の要件とは
契約の履行によって資産を増価させ、顧客がその資産の増価につれて支払すること
■収益認識のズレ
IFRSを導入した場合に上記要件を満たさない工事は、工事完成時点で収益認識をするため、工事進行基準と比較し収益認識の時期がズレが生じる
■運用時期
当初より1年延期して、2018年1月1日以降開始する事業年度より適用
6.医師の接待交際費で更正処分一部取消し
【審判所事例】
・A医師が複数の病院へ勤務 + 自身の診療所を経営
・下記接待交際費が、診療所に係る事業所得の必要経費になるか?
(1)予防接種実施先である学校法人に対する贈答品の購入費
※診療所で予防接種を受託
⇒必要経費になる
(2)勤務する病院に対する贈答品の購入費
⇒必要経費にはならない
【判断ポイント】
・診療所の事業と直接関係しているか
・事業の遂行上必要なものであったと認められるか
7.所得税:国外居住親族の扶養控除等申告書
∇提出のルールが改正(28年1月1日以後支給分給与から)
(1)その年最初の給与等の支払日の前日までに<国外居住親族用>の扶養控除等申告書を提出
(2)その年最後の給与等の支払日の前日までに<生計が一である事実等を記載した>扶養控除等申告書を提出※
※(1)に追記する
(3)(2)と同時に<送金関係書類>を提出
∇送金関係書類
・クレジットカードの利用明細書など
・原則として送金先名義人のみが扶養控除の対象となる
⇒たとえば父に送金し、父経由で兄弟に分配されたとしても、扶養控除の対象は父のみとなる。つまり個人別に銀行口座を作成する必要がある。
8.消費税:第六種事業に該当する不動産取引
H27.4.1以降に開始する課税期間から、不動産業は第六種事業に区分される。
不動産関連の事業に適用されるみなし仕入率は下記のとおり。
・不動産賃貸業
⇒ 第六種(40% 不動産業)
・不動産賃貸業者による賃貸用物件の売却
⇒ 第四種(60% その他)
・不動産を購入し、そのまま他の業者に売却した場合
⇒ 第一種(90% 卸売業)
・消費者等に売却した場合
⇒ 第二種(80% 小売業)
9.取得関連費用
・企業結合を行う際に外部アドバイザー等に支払う報酬や手数料
・FAやDD、VA、鑑定評価に対する報酬など
・H27.4.1以降開始する会計年度から改正あり
改正前:対価性あり⇒取得原価 なし⇒発生時費用
改正後:すべて発生時の費用
・ただ、個別財務諸表においては改正前同様、取得原価に入れる。
※個別財務諸表では金融商品会計基準が適用されるため。
10.棚卸資産の評価方法
1. 棚卸資産の評価の考え方
⇒ 将来の損失を繰り延べず、分かった時点で費用計上する。
2. 評価方法
(1) 原則
⇒ 帳簿価額 vs 正味売却価額
※正味売却価額 … 評価時点でいくらで売れるか
(2) 容認
⇒ 帳簿価額 vs 再調達原価
【要件】
・製品と材料の価格がほぼ連動する場合
・正味売却価額より金額が低い事
※再調達原価 … 評価時点で、同じ資産を購入したらいくらか
3. 棚卸資産の価額に標準原価を使えるケース
⇒ 四半期特有のルールで、年間を通じたら原価差異が解消される見込み
⇒ 四半期では売上原価と棚卸資産に原価差異を配賦せず繰り延べる処理も容認されている。
⇒ この場合は、標準原価を棚卸資産の価額とすることも出来る。
11.『これから始めるマイナンバー対応』~これだけは知っておきたい実務ポイント10~
■「意図しない取得」には要注意
Ex. 個人事業主から送付sれてきた請求書等に、自主的にマイナンバーが書き込まれている 等
⇒ 法が定める利用目的の範囲外に当たることから、そのまま受理して保管しておくことは×
不要な記載があれば当該書類を返却するか、マイナンバーの部分を完全にマスキングするような手順を確立しておく必要がある
■従業員の家族の本人確認は誰が実施するのか
・原則従業員自身が行う
・ただし、年収が130万円未満の配偶者(国民年金第3号被保険者)は原則事業者が本人確認する
・従業員が配偶者の代理人となって事業者からの本人確認を受ける
・事業者が各従業員に本人確認手続を委託するなどの方法による確認が可能
■誤ったマイナンバーを書類に記載し、そのまま行政機関に提出するとどうなるか
・罰則規定は法律上定められていない
・行政機関から間違っている旨の指摘がかえってくることが想定
■本人確認が終わった後の確認書類はどうするか
・保管の要否については、ガイドライン上特段の取り決めなし。事業者の判断に委ねられている。
・保管/廃棄のメリットデメリットを比較衡量のうえ、方針を定めておく必要がある
■グループ会社間での人事異動時は要注意
・事業者間でのマイナンバーの直接のやりとりは原則禁止。グループ会社間の転籍もこれに該当。
(たとえ本人の同意があったとしても×)
・原則、転籍先であらためてマイナンバーを提出、再度本人確認を受ける必要あり
・ただし、以下のような場合は再提出不要
・グループ間で同一の人事給与システムを使用
・従業員情報について共通のデータベースで管理
・従業員が自らの意志によってマイナンバーを移し替えることができるような権限を有しているような場合
■マイナンバーは一生変わらないのか
・生涯変わらない
・ただし、漏洩して不正に用いられるおそれがあると認められる場合に限っては変更可
■不要になった特定個人情報等はできるだけ「速やかに廃棄」
・廃棄の際は基本的に復元不可能な状態で確実な処理が求められる
・かつ、廃棄の記録も残す必要がある
・半期に一度、年に一度など、廃棄のタイミング・廃棄すべき情報を適切に特定抽出できるような管理方法・社内ルールをあらかじめ構築しておくことが求められる
■「マイナンバーは提供しません」と拒否されてしまったら
・マイナンバーの必要性について対象者本人に説明、理解をもとめる
・そのための説明文書などをあらかじめ準備、拒絶された場合の対応をルール化しておく
・提供を求めた経過等を記録、保存することによって、事業者としての責務を果たしていることを明確にしておくべき旨が記載されている(国税庁、国税分野におけるFAQ「Q2-10」
■事務作業スペースは隔離しないといけないか
・特定個人情報ファイルを取り扱う情報システムを管理する区域(管理区域)
⇒ICカードなどを使った入退室管理のように厳格な安全管理が求められている
・事務作業区画(取扱区域)
⇒部外者が出入りすることができないような部屋を別途用意できなくても、
パーテーションで間仕切りするなど無関係の従業員が覗き見できない座席の配置やパソコンの覗き見防止フィルターの設置などの工夫で一定のセキュリティレベルを保つことが可能
■事業者自体にも番号が付与されるのか
・13ケタの法人番号が付与される(10月以降に国税庁より通知)
・利用範囲についての制約はない(各種取引を法人番号で一元管理するといった方法も可能)
・秘匿性はない(国税庁の専用WEBSITEを通じて一般公表が予定されている)
・税分野での取り扱いは個人番号と同様(付番が必要な取引先からの収集・管理も検討しておくべき)
12.スキャナ保存制度の実務対応上の留意点
・H27年9月30日以後の承認申請対応分から適用
・スキャナ保存の対象となる国税関係書類の範囲が拡充
改正前:契約書・領収書等については3万円未満のもの
改正後:すべての契約書・領収書等
・スキャナ保存の保存要件が緩和
改正前:一定の場合、電子帳簿保存法の承認を受ける必要があった
改正後:廃止
・電子署名要件の廃止
改正前:スキャナで読み取る際、電子署名を行ったうえでタイムスタンプを付す必要があった
改正後:電子署名は不要(タイムスタンプは必要)
・適正事務処理要件の新設
内部統制の整備を行っている企業は基本的には特段の対応不要。
中小企業は社内規程等で整備し事務処理を行うことで要件を満たす。
① 相互けんせい
⇒スキャナで読み取った画像が紙の記載事項等と同等であるかを別の者がチェック
② 定期チェック
⇒事務処理手続きのチェックや検査を最低限1年に1回は行う
③ 再発防止
⇒問題点があった場合に社内幹部に速やかに報告がなされ、必要に応じて再発防止委員会を設置することが必要
13.2段階TOBについて
■2段階TOBとは
1つの企業買収において、TOBを2回に分けて行うこと
1段階目で大株主から市場外でTOBを行い、2段階目で他の少数株主から譲り受ける
※類似用語
・2段階買収:1段階目でTOBで一定程度集めたうえで(=前述の2段階TOB)、全部取得条項付付種類株式等の制度を利用して少数株主をスクイーズアウトすることで完全子会社化する手法
■2段階TOBをやる理由
1段階目と2段階目で買い取り価格を変えたい
→大株主との取引では市場価格に対して低廉のプレミアムとし、
買収を確実なものとするため、2段階目ではそれなりのプレミアムを付して少数株主から買い取るため。
14.消費税還付 世帯で合算
・消費税を10%に引き上げる際、「酒を除く飲食費」については、「2%分」「上
限1人年4,000円まで」還付されるようになる。
・利用には、「買い物時のマイナンバーカード認証」が必要。
・購入品目などの個人情報はシステムに残らず、ポイント情報だけが蓄積される。
・事業者は読取機の設置負担が発生。
・還付は年に数回受けられる仕組みに。(⇒銀行口座に振込)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
ワンストップでサービスを提供
ワンストップでサービスを提供
0 件のコメント:
コメントを投稿