1.税制改正大綱から読み解く法人税課税の重要改正項目
■実効税率
・32.11%⇒29.97%へ
・法人税の税率が23.4%、事業税の所得割が3.6%へ引き下げられるため
・中小企業の800万円以下の所得金額に適用される税率:19%
⇒措置法により15%に引き下げ中(29年度改正で延長するか?)
■法定償却方法
・建物付属設備、構築物の償却方法が定額法に一本化
・平成28年4月1日以後取得分から
■繰越欠損金(控除限度割合)
・平成27年度 65%
・平成28年度 60%
・平成29年度 55%
・平成30年度 50%
・繰越期間の延長(9⇒10年)は平成30年度より
■外形標準課税拡大
・付加価値割、資本割の税率がアップ
・中堅企業には軽減措置あり(負担増となる場合)
■役員給与
・利益連動給与の算定指標が明確化
■少額減価償却資産
・常時雇用する従業員が1000人を超える法人は除外
■雇用拡大税制
・無期雇用、フルタイムが条件に追加
・事業所が一定の道府県に限定される
例:東京都内や大阪府内の事業所で雇用者が増えても適用できない
・所得拡大税制の併用可
2.株式報酬は譲渡制限解除時の時価で課税
■一定期間の譲渡制限が付された欧米型の株式報酬に注目が集まっている
・日本での導入には会社法・税務がネック
会社法=株式の発行は金銭等の「払込み」を前提=欧米型の払込みなしで現物株式を支給するスキーム不可
■金銭報酬債権の現物出資により役員に株式を交付するスキームが提案
⇒会社法はOK
⇒税務
役員に対する給与課税のタイミング=株式の譲渡制限が解除された時点
会社は同じ時期に株式報酬額を損金算入できる
給与課税の対象額=株式の譲渡制限が解除された時点における株式の時価
会社の損金算入額=株式を交付した時点における株式の時価
3.軽減税率制度、中小企業以外にも売上高のみなし計算特例
・平成29年4月1日から軽減税率制度の導入が正式決定
・インボイス制度は平成33年4月から導入
・その間の4年間については各特例措置が導入されることになる
■売上の特例…平成29年から4年間対象
軽減税率対象売上の算定方法は3種類から選べる
(1)軽減税率対象売上に係る課税仕入/課税仕入総額の割合を、
そのまま売上に乗じる方法
(2)(10営業日間の)軽減税率売上高/総売上高の割合を、該当する課税期間中の売上高に乗じる方法
(3)50/100を課税期間中の売上高に乗じる方法
■仕入の特例…平成29年から1年間対象
(1)売上総額に占める軽減税率対象売上額を、軽減税率対象品目の仕入として算出可能
(2)(1)で計算不能な場合、簡易課税制度の事後適用可
※中小事業者以外でも適用可能
4.募集事項
新株発行又は自己株式の処分を行う際に、発行又は処分する株式について定めなければならない事項
具体的には、
(1) 発行又は処分する株式の数、種類
(2) 発行又は処分する株式の払込金額又は算定方法
(3) 金銭以外の財産を出資する場合は、その旨、出資する財産の内容及び価額
(4) 払込期日又は期間
(5) 増加する資本金及び資本準備金に関する事項
⇒ (2)~(4)から、会社法が想定する新株発行又は自己株式の処分が「払込み」を前提にしていることが分かる
5.国外転出時課税、分割確定時の法令整備
国外転出時課税とは、
・1億円以上の有価証券を保有した居住者が出国した場合に適用
・1億円以上の有価証券を保有した被相続人に相続が発生し、非居住者が取得した場合に適用
■法令整備
未分割により法定相続分で準確定申告をした後に、遺産分割成立後、相続人が有価証券等を取得しなかった場合
・現状(改正前)
⇒準確定申告をした所得税に、更正の請求が認められるか否か、法令により明らかでなかった。
・改正後(H28年1月1日以後)
⇒準確定申告後の遺産分割で、当初申告と異なる場合には、以下のように法令で定められるようになった。
税額が増額 ⇒ 遺産分割が行われた日から4月以内に修正申告
税額が減額 ⇒ 遺産分割が行われた日から4月以内に更正の請求
また以下事由により、非居住者に移転した有価証券等が、当初申告と異なる場合も更正の請求が対象となる。
・強制認知の判決確定による相続人の異動
・遺留分による減殺の請求に基づく返還すべき額が確定
・遺言書の発見、遺贈の放棄があった
6.テイクアウトや出前も軽減税率
・29/4/1 消費税10%へUP と同時に導入される軽減税率の内容が決定
・軽減税率(8%)の対象は、
-飲食料品(酒類・外食は対象外)
-週2回以上の定期購読契約している宅配の新聞(駅売り新聞・書籍・雑誌は対象外)
・テイクアウト、持ち帰り、宅配は、外食に該当せず(軽減税率対象)
例)
・ハンバーガー店のテイクアウト
・そば屋の出前
・ピザの宅配
・寿司屋の「お土産」
・コンビニの弁当をイートインコーナーで食べた場合
7.裁決事例:航空機リース事業の任意組合が受けた債務免除益について
■概要
・航空機リース事業を営む任意組合の組合員らが高い利息を支払っていたことなどを理由に融資銀行から債務の一部を免除された。
この債務免除益の所得税法上の区分は何にあたるか?
・国⇒雑所得、組合員⇒一時所得 をそれぞれ主張
■東京地裁
一時所得として国側の主張を退けた。
理由:
一時所得の要件として、
(1)利子・配当・不動産・事業・給与・退職・山林・譲渡以外の所得である
(2)営利目的の継続的行為から生じたものでない
(3)対価性がない
がある。
当て嵌め:
(1)⇒充足する
(2)⇒銀行判断で偶発的に生じたものである
(3)⇒組合員が役務の提供をしていない
以上より一時所得の要件を満たすとして国側の主張を退けた。
8.税制改正:調査の事前通知後に課される加算税
H28年度税制改正で加算税の取り扱いが変わる。
[例]過少申告加算税の場合
改正により、下記(2)の期間に修正申告を行った場合にも、過少申告加算税がかかることになる。
(1)「税務調査の事前通知を受ける」までの期間
(2)「事前通知を受けた時」から「更正を予知する」までの期間
(3)「更正を予知した時」以降の期間
■現行(『予知』するまではペナルティが無い)
(1)および(2)の期間に修正申告を行った場合、過少申告加算税は課されない。
(3)の期間に修正申告を行った場合、過少申告加算税がかかる。10%(or15%)。
■改正後
(1)の期間に修正申告を行った場合、過少申告加算税は課されない。
(2)の期間に修正申告を行った場合、過少申告加算税がかかる。(5or10%)
(3)の期間に修正申告を行った場合、過少申告加算税がかかる。10%(or15%)。
同様の改正が、無申告加算税についても盛り込まれている。
9.建物附属設備の償却方法
・28年度税制改正:建物附属設備の償却方法見直し
H28.4.1以降取得の建物附属設備&構築物について、定率法を廃止、定額法のみとなる
・会計上は減価償却方法の変更は会計方針の変更に該当
・「正当な理由」がないと過年度遡及
・税制改正だけでは正当な理由に当たらない
10.リース契約における残価保証の処理
1. 残価保証とは
⇒ リース資産売却の際に、一定額を下回った場合、貸し手に生じる損失を、借り手が負担する取り決めの事。
2. 会計上の取り扱い
(1) 割引現在価値の算出
⇒ 残価保証額を将来キャッシュフローに含めて計算を行う。
(2) リース資産の残存価額
⇒ 所有権移転、所有権移転外に関わらず、残価保証額を残存価額とする。
※所有権移転外の場合、残存価額はゼロ。
(3) リース契約終了時
⇒ 残存価額分のリース資産とリース債務が両建てで残る。
⇒ 貸し手がリース資産を売却し、借り手が損失を負担するか否かが判明した時点で、リース資産とリース債務を相殺する。
※残価保証額を下回る金額で売却された場合は、当該損失を借り手の損失として処理することになる。
11.スマホアプリの会計処理と実務上の留意点
■資産計上のタイミング
・製品を販売する意思が存在すること
⇒経営会議などで「市場にリリースすると判断」されていること
・最初に製品化された製品マスターが完成していること
■アプリ開発のコストの集計範囲
・個別原価計算の計算構造に基づく
・人件費が相対的に多くなる(人件費の集計が重要)
・バージョンアップに係る開発コストはソフトウェアの取得原価に算入する
・一方、アプリの動作プラットフォームを変更するケースでは研究開発費となる
・委託作業による場合は成果物が納品されたタイミングをもって原価算入
■アプリ開発のコストの費用化方法
(1) リリース時に一括費用処理
(2) ソフトウェアとして減価償却
(3) コンテンツ(無形固定資産)として減価償却
■アプリ開発コストの期末評価 ⇒ 減損検討が必要
この場合の減損検討の最小単位は「シリーズ別」「タイトル別」など
■アプリの収益認識のタイミング
課金アイテム購入時点では前受金(又は預り金)で処理し、ユーザの使用料に応じて売上に振り替える
■固有の留意点
(1) ライセンス売上
・変動ロイヤリティ
・ミニマムギャランティ
⇒収益認識のタイミングが異なる点留意
(2) 開発支援金の処理
・収益項目でなく、制作コストの控除項目として取り扱う
(3) ボーナスポイントの付与
・一時的に無償でサービスを提供した場合、逸失利益を管理会計上把握しておくことが必要
12.訴訟損失引当金の会計処理ポイント
・引当金計上のタイミング(認識)
敗訴の可能性が高く、その支払金額を合理的に見積ることができる場合に計上
⇒第一審判決で敗訴している場合には、その敗訴判決を覆せる合理的な証拠があるなどの場合を除き、訴訟損失引当金を認識する必要がある
・いくらで計上するのか(測定)
⇒第一審判決で敗訴している場合には過去の判決を参考にして、今回請求されている訴訟において認められる可能性が高い金額について訴訟損失引当金を計上
13.物流コスト削減の為の取組
■サード・パーティ・ロジスティックス(3PL)の活用
3PLは荷主でもなく物流会社でもない第三者が物流サービスを提供する。複数の荷主と複数の物流会社を束ねる事で価値を提供する。
3PLを上手く活用するパートナーシップ構築のポイント
・最適な3PLを見極める為の選定基準の明確化
⇒要件充足度、実現性・実行力、維持運用性、取引安全性、価格適正
※3PLを選定・窓口となる人材育成も重要
・物流サービスの見直し
⇒顧客サービスの標準化・サービスメニュー化を実施
※単純に物流をアウトソースしても、顧客からサービスレベルが落ちたとクレームがあるかもしれない
・継続的な改善が出来る仕組みつくり
⇒3PLの品質・コスト・サービスといった仕事の質に対する期待値と実績を正しく評価できるようにKPIを設け、両社でSLA(サービス・レベル・アグリーメント)を締結
※KPIの実績によっては3PLにボーナスを支払う等、改善意欲を醸成する
14.上場審査上、人事労務制度で注意すべきポイント
(1)従業員の定着率(※1)
⇒一般的に、従業員の定着率が悪い場合は、上場審査上問題があり、経営基盤の不安定要因ととらえられる。
⇒従業員の定着率が低い場合は、退職事由などその原因を十分に吟味・分析した上で、人事労務制度の見直しや良好な労使関係の構築を行うなど、定着率改善に向けた対策を行う必要がある。
(※1)定着率=1-離職率=1-{(当該年度の離職者数)÷(期首従業員数+期中入職者数)}
(2)法令順守
1.人事労務関係書類の整備
⇒就業規則や労働者名簿、賃金台帳、雇入通知書などの作成・保存
2.労働保険・社会保険の加入
⇒加入義務があるにも関わらず、加入対象者に未加入期間がある場合には、法令違反行為として上場審査において問題となる。
3.時間外労働の取扱い
⇒36協定の遵守
⇒残業手当の支給ルールが明確に定められていないことや手続上の不備等により、結果として割増賃金の不払い等について違法状態となっているケースでは、上場審査に支障をきたすこともある。
15.今週の新規上場会社
上場・公開日 社名 銘柄コード 市場 公募価格(円)
12/21 マイネット 3928 マザ 1,680
12/21 ビジョン 9416 マザ 2,000
12/22 ソネット・メディア・ネットワークス 6185 マザ 2,300
12/22 プロパティエージェント 3464 JQS 1,400
12/24 ソーシャルワイヤー 3929 マザ 1,600
12/24 ケイアイスター不動産 3465 2部 1,200
12/25 一蔵 6186 2部 1,210
(マイネット)
業種:情報・通信業
事業内容:スマートフォン向けオンラインゲームの運営
主幹事:大和証券
監査法人:新日本
(ビジョン)
業種:情報・通信業
事業内容:グローバルWiFi事業及び情報通信サービス事業
主幹事:みずほ証券
監査法人:あずさ
(ソネット・メディア・ネットワークス)
業種:サービス業
事業内容:DSP「Logicad(ロジカド)」を中心とするマーケティングテクノロジー事業
主幹事:大和証券
監査法人:PwCあらた
(プロパティエージェント)
業種:不動産業
事業内容:資産運用型不動産の開発、販売及び賃貸管理等不動産管理事業
主幹事:野村證券
監査法人:新日本
(ソーシャルワイヤー)
業種:情報・通信業
事業内容:ニュースワイヤー事業(プレスリリース配信サービス、クリッピングサービス)、インキュベーション事業(レンタルオフィス運営)
主幹事:SBI証券
監査法人:トーマツ
(ケイアイスター不動産)
業種:不動産業
事業内容:分譲住宅、注文住宅、中古住宅、マンション販売、その他の総合不動産事業
主幹事:大和証券
監査法人:トーマツ
(一蔵)
業種:サービス業
事業内容:きものの販売・レンタル事業、結婚式場の運営等
主幹事:野村證券
監査法人:新日本
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