1.平成27年分所得税確定申告のチェックポイント
・住宅ローン控除 平成31年6月末まで延長
・公的年金についての確定申告不要制度が外国の年金など源泉徴収の対象外の年金については適用不可に
・国外転出時課税制度が開始
平成27年7月1日以降国外に転出等をする
時価1億円以上の対象資産(有価証券など)を保有
出国時に含み益がある場合
⇒含み益について所得税等が課税される
■国外出国時課税制度
・納税管理人を置く場合
出国時の対象資産の時価の合計が1億円かどうか
1億円以上の場合は確定申告時(出国の翌年3月15日まで)に含み益についても申告が必要になる(含み益:出国時の時価-簿価)
・納税管理人を置かない場合
出国予定日より3か月前の対象資産の時価の合計が1億円かどうか
1億円以上の場合は国外転出前に含み益について確定申告が必要になる
(含み益:出国予定日の3か月前の時価-簿価)
2.財産の名義と帰属をめぐる相続・贈与課税トラブル
■贈与・相続財産に該当するか否か
【事例1】
父が息子の名義で自動車を登録し、支払いも父が行ったケース。
父から息子への贈与となるか。
・考え方
⇒名義人が真実の所有者と推定されるが、反証があればこの限りではない(相基通9-9)。
・当てはめ
①息子は自動車をほとんど利用しない
②息子は自動車会社関係者のため割引が受けられる
③息子が自動車の選定や購入手続きに関与した事実がない
・結論
今回のケースは贈与を受けたとは認められない(平成27年9月1日裁決)
【事例2】
日本人が米国でジョイント・テナンシーの形態により米国不動産を被相続人と所有。
被相続人死亡時に当該不動産の被相続人持分は相続財産となるか。
なおジョイント・テナンシーは日本には存在しない。
・用語の説明
ジョイント・テナンシーとは、複数名が同一の不動産について取得する財産権。
所有者の1名が死亡した場合には権利が生存者に帰属することが特徴。
・結論
死亡時に生存者に権利が帰属するため、その時に死亡者から生存者への贈与となる。
併せて3年内贈与のため相続財産となる(平成27年8月4日裁決)。
3.扶養控除等申告書への個人番号記載
■原則
・提出の都度、個人番号の記載が必要
■個人番号を省略するには下記の対応が必要
・従業員が扶養控除等申告書に「個人番号については給与支払者に提供済みの番号と相違ない」と記載する
・会社は既に受領している個人番号を確認し、確認した旨を扶養控除等申告書に表示する
4.グリーン投資減税見直しで電気自動車等は特別償却のみに
グリーン投資減税
…対象設備を購入した場合、設備の取得価額に対して30%の特別償却か7%の税額控除(中小企業のみ)が取れるというもの
■平成28年度税制改正
・グリーン投資減税が2年間延長
・対象設備の見直しあり
■変更点
・風力発電の即時償却の廃止
・太陽光発電は自家用のみ
…売電収入を事業所得とし、給与所得と損益通算していた個人が自家用(雑収入)のみとなるため、節税が出来なくなる
・車両運搬具は特別償却のみ
…対象車は電気自動車等一部に限られる
※補助金等をもって取得した設備は本税制の対象外となる
5.粉飾決算巡る監査法人の賠償責任認めず
■東証1部に上場していた、ニイウスコー社が循環取引により、売上高を水増し
⇒ 同社株主が監査法人に対し2,600万円の損害賠償請求
■地裁
原告株主:
監査法人は容易に粉飾を発見できたはず
⇒ 会計監査人としての監査義務を怠った
判決:
監査法人は監査基準で要求されている手続をきちんと実施した上で、有報に「虚偽記載なし」と証明
⇒ 故意過失はない
⇒ 損害賠償請求を棄却
■高裁
原告株主:
(1) 監査調書に明らかに矛盾や不自然な記述あり
⇒ 監査法人は架空取引が存在することを知っていたハズ
(2) 監査法人が実施した在庫の実地調査には過失があった
⇒ 有報に「虚偽記載なし」と証明した点に故意過失あり
判決:
(1) 監査調書にそこまで大きな矛盾はない
⇒ 監査法人が架空取引が存在することを知っていたとまでは言えない
(2) 従業員が架空在庫の存在がバレないよう仮装し、また一部のソフトウェアについてデモ画面を閲覧するなど実在性を確認
⇒ 監査法人が実施した在庫の実地調査には過失があったとまでは言えない
⇒ 損害賠償請求を棄却
6.マイナンバーの記載省略は税制改正前も弾力的運用を容認
H28年度税制改正において、税務署等へ提出する書類に記載するマイナンバーの省略が可能になる。
(1) H28.4.1以後提出すべき書類から適用されるもの
・給与所得者の配偶者特別控除申告書・保険料控除申告書
・住宅借入金等特別控除申告書等
(2)H29.1.1以後提出すべき書類から適用されるもの
・所得税の青色申告承認申請書
・消費税の簡易課税制度選択届出書
・相続税延納・物納申請書等
税制大綱上、それぞれの期日以後に提出する書類よりマイナンバーの記載が省略となるが、H28年税制改正法の施行日前であっても、弾力的にマイナンバーの記載が省略可能となる。
※雇用保険、社会保険関係はマイナンバーを記載する必要あり
・雇用保険:H28.1.1以後提出分より
・社会保険:H29.1.1以後提出分より
なお年金機構はマイナンバー利用延期の処分が下されているため、現状はH29.1.1以後であってもマイナンバーの記載は不要
7.改正経営承継円滑化法の施行日が判明
・中小企業経営承継円滑化法の改正施行日は、28年4月1日~
・主な改正内容は以下の通り
(1)「遺留分に関する民法の特例」の適用対象者に、親族外が追加
※上記特例は、生前贈与された自社株式を、遺留分の算定基礎から除外することができる (=後継者が、自社株式以外の財産も相続する権利が残せる)というもの
(2)個人事業者が親族内で事業承継した場合、65歳以上の会社役員が退任した場合に、小規模企業共済制度で支払われる共済金が引き上げられる
8.相続税:小規模宅地特例(貸付事業用宅地)
■貸付事業用宅地にかかる評価減の流れ
・被相続人がアパート経営などを営んでいた
↓
・相続人がその事業を承継した
↓
・宅地の評価を50%減
■ケーススタディ
・被相続人がアパートを経営
・相続人である妻Aが建物を、子Bが土地を相続
・子Bは妻Aに土地を貸し付ける
Q:この場合、子Bが相続した土地は評価減できるか?
A:評価減できない。
被相続人が営んでいたのはあくまでアパートの貸付であり、その事業を承継したのは妻Aである。子Bが営むのは土地の貸付であり被相続人の事業を承継したわけではない。よって評価減できない。
⇒妻A(子B)が建物と土地をセットで相続した方が有利
9.法人税:28年度改正 建物附属設備等への資本的支出も定額法
H28年度改正により、建附の償却方法は定額法となる。
■変更のタイミング
・H28.4.1以降『取得』分について適用される。
・供用日が同日以降であっても、3.31までに取得していれば定率法。
■資本的支出について
・定率法が適用されている既存資産についての資本的支出は、既存資産と同じ耐用年数の資産を『新たに取得した』ものとみなして定額法により償却する。
・従って、建附について4.1以降に実施された資本支出には定額法を適用する。
10.税効果の旧ルールを廃止
・実務上の税効果会計ルールであった以下の2つの委員会報告を廃止した。
委員会報告66号/DTAの回収可能性の判断に関する監査上の取扱い
委員会報告70号/その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い
・2015年12月28日に「DTAの回収可能性に関する適用指針」が公表されたため。
※この指針は2016年4月1日以後開始する事業年度から適用
(早期適用もあり)
11.平成28年度税制改正による法人実効税率
1. 法人実効税率の引き下げ
・現行 32.11%
・平成28年度 29.97%
・平成29年度 29.97%
・平成30年度以降 29.74%
※上記税率は標準税率の場合
2. 税収確保の為の課税ベース拡大措置
・生産性向上設備投資促進税制の縮減
・建物付属設備等の償却方法を定額法に一本化
・外形標準課税の拡大
・中小企業等の少額減価償却資産の損金算入特例の適用対象の縮減
・繰越欠損金の繰越期間延長の適用年度を1年後倒し
12.減損損失の認識の判定のポイント
■減損損失の認識の判定フロー
(1) 主要な資産の決定
(2) 将来CFの見積期間の決定
(3) 将来CFの見積り
(4) 割引前将来CFとの比較
■主要な資産の決定
資産グループのうち、将来CFに最も寄与する構成資産
■将来CFの見積期間の決定
経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方
経済的残存使用年数=著しく不合理と認められる事情がない限り税法耐用年数に基づくことが可能
■将来CFの見積り
・将来の設備投資等
計画されていない将来設備の増強や事業の再編 ×
現在の価値を維持するための合理的な設備投資 ○
建設仮勘定に関する完成まで、完成後のキャッシュアウト ○
・本社費等間接的に生ずる支出
資産グループが将来CFを生み出すために必要な本社費等は将来CFの見積上控除する
「減損損失の測定のポイント」
■正味売却価額
・不動産
不動産鑑定評価基準に基づき算定
・その他の固定資産
コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチを併用又は選択
■使用価値(将来CFが見積と乖離するリスクをどう反映させるか)
・将来CFの見積り自体に反映
使用する割引率:リスクフリーレート
・割引率に反映
使用する割引率:
(1) 当該資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率
(2) 当該企業に要求される資本コスト(WACC)
(3) 類似の賃貸用不動産の還元利回り
(4) 当該資産グループのみを裏付けとして大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積もられる利率
■減損損失の配分
・帳簿価額に基づき比例配分する方法
⇒ただし、配分の結果個別構成資産の時価<個別構成資産の帳簿価額となった場合は要再配分
・構成資産の帳簿価額と時価との差額に基づいて配分する方法 等
13.資産のグルーピングのポイント
・新たに資産を取得する場合
その資産の取得目的、取得を申請した部署に関連する資産グループによりグルーピングする
・外部から事業を取得する場合
取得に当たって自社の既存事業と外部の事業とのシナジー効果を期待していた場合には、既存事業と取得した事業を一体でグル―ピングする
・事業の変革期
事業を再編成したことにより管理会計上の区分が変更した場合、マネジメントアプローチに基づき既存の事業セグメントの区分を見直した場合などはグルーピングの変更の要否を検討する必要がある
14.過年度に減損したその他有価証券評価差額金の税効果について
■N年3月末の前提
N年3月末に税務上の簿価2,000、会計上の簿価1,400となり減損した(税率30%)
(投資有価証券評価損)600 (投資有価証券)600
(1)DTAに回収可能性あり
(DTA)180 (法調)180
(2)DTAに回収可能性なし
仕訳なし
■ケース1
N+1年3月末に会計上の簿価1,200となった場合
(その他有価証券評価差額金)200 (投資有価証券)200
(1)DTAに回収可能性あり
(DTA)60 (その他有価証券評価差額金)60
(2)DTAに回収可能性なし
仕訳なし
■ケース2 ※減損額を超えない範囲で簿価が上がった
N+1年3月末に会計上の簿価1,800となった場合
(投資有価証券)400 (その他有価証券評価差額金)400
(1)DTAに回収可能性あり
(その他有価証券評価差額金)120 (DTA)120
→減損後に生じた評価差額金(評価差益)は将来減算一時差異の戻入となるため、DTAを取り崩す
(2)DTAに回収可能性なし
仕訳なし
■ケース3 ※減損額を超えて簿価が上がった
N+1年3月末に会計上の簿価2,200となった場合
(投資有価証券)800 (その他有価証券評価差額金)800
(1)DTAに回収可能性あり
(その他有価証券評価差額金)180 (DTA)180
→減損後に生じた評価差額金(評価差益)800のうち、減損分の600は将来減算一時差異の戻入となるため、DTAを取り崩す
(その他有価証券評価差額金)60 (DTL)60
→当期の生じた評価差額金(評価差益)800のうち、減損分以外の200は、新たに発生した将来加算一時差異となるため、DTLを計上する
(2)DTAに回収可能性なし
仕訳なし
15.タワマン節税防止 高層階の評価額引き上げへ
・高層マンションでは、相続税の算定基準となる「評価額」は階層や日当たりなどの条件によって差がつかず一律。
⇒高層階になるほど評価額と市場価格が乖離し、相続税節税に使われやすい
・2018年にも、「20階は1階の10%増し、30階は20%増し」等の一定の補正を行う案が有力。
・相続税評価額だけでなく、固定資産税にも影響を与える見込。
・マンション市場を冷え込ませる恐れもあるため、総務省と国税庁が税の引き上げ幅を今後慎重に検討。
16.ファイナンスの規制期間
(1)第三者割当増資に関する規制
・制限期間中(※1)に第三者割当増資を行っている場合
⇒保有者は、新株発行の効力発生日から上場後6ヶ月を経過するまでの間、継続保有、かつ、申請会社と継続保有に係る確約書の締結が義務
⇒確約書の締結を行っていない場合、上場申請が認められない。
(※1)直前期の期首から上場日の前日まで
(2)ストックオプションに関する規制
・制限期間中に役員、従業員にストックオプションを発行した場合
⇒第三者割当増資と異なり、継続保有義務は上場日の前日まで
⇒継続保有に係る確約書の締結は義務
17.今週の新規上場会社
なし
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決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
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