2016年6月10日金曜日

6/10 勉強会:M&Aで押さえておきたい競争法対応の実務ポイント 他

1.組織再編成税制における行為計算の否認 ヤフー事件

・節税スキームに対して、法人税法132条の2の規定を適用する更正ついての可否が争われた裁判
⇒更正は適法と裁判所は判断

・法人税法132条の2の規定の解釈のあり方を最高裁として初めて明確にしたもの

・上告審では、租税回避にかかる「意図」という主観的要素を重視している


2.適格分社型分割-税務否認金額がある場合(分割承継法人)

■事例
分割法人A
・簿価⇒資産500、負債200(全て貸引、内、繰入超過額100)
・対価はB
分割承継法人B
・吸収分割にともない資本金100、資本剰余金200増加

■分割承継法人Bの会計処理
()資産 500           /
                   /  ()貸引 200
                            /  ()資本金 100
                           /  ()資本剰余金 200

■分割承継法人Bの税務処理
⇒適格分社型分割なので、移転資産負債を帳簿価格により譲渡したものとして計算する。
()資産 500           /
()貸引超過額 100 /
  / ()貸引 200
  / ()資本金 100
  / ()資本金等の額 300

⇒したがって税務調整は以下となる。
()貸引超過額100 / ()資本金等の額100
※別表五()に貸引超過額の引継のため

■別表調整
別表四⇒なし

別表五()
1.貸引超過額100
2.資本金等の額△100

別表五()
⇒利益積立金額100


3.「株式交換後に買取請求撤回も、株式の引渡しは認められず」

■概要
・株式交換に反対する株主の株式買取請求をめぐり、株式交換の効力発生後に同請求を撤回した原告株主が被告子会社に対して、株式の引渡しまたは株価相当額の金銭の支払いなどを請求していた事件
・原告株主は、被告子会社が株式交換の効力発生日から60日以内に価格決定の申立てを行わなかったことを受け、被告子会社に対する株式買取請求を撤回した。

■東京高裁の判決
被告子会社に対し株式の価格相当額の金銭の支払いを命じた。
株式の引渡しは株式交換の効力が発生しており、不可

■会社法785786
株式交換の効力発生日から60日以内に価格決定の申立てがないときは、その株式買取請求を撤回できる。


4.リスク分担型企業年金の掛金は費用処理

・企業会計基準委員会がリスク分担型企業年金の会計処理の草案を決定
2か月間意見募集したのち、正式決定する

■リスク分担型企業年金
・運用リスクを事業主と加入者で分け合うハイブリッド型企業年金
・事業主に対して予め固定された掛金以外に追加的な拠出はない

⇒制度導入後は、確定給付制度に分類される退職給付制度から確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に移行することが想定されるが、この場合は退職給付制度の終了に該当

■開示で注記する内容
(1)企業の採用するリスク分担型企業年金制度の概要
(2)リスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額
(3)翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額の拠出に対する残存年数


5.収益認識の会計基準に法人税歩み寄りも

■企業会計基準委員会は、「収益に関する包括的な会計基準」を開発中
IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」が公表されたことを踏まえ

■論点は、個別F/Sに適用するか否か
・収益認識は企業活動の根幹に関わる
⇒個別F/Sにも適用すべきという意見多い
・ただし、個別F/Sにも適用する場合、会計基準の内容が法人税法の取扱いと異なれば、(申告調整が必要となれば)、企業の事務負担が増える為、法人税法との整合性が重要な検討事項となる

■収益認識のルール(前提:日本)
・会計:企業会計原則で少し触れている他、工事進行基準がある程度
⇒実務上、法人税法上の処理に準じている
・税務:通達に工事進行基準等がある程度であり、明確な収益認識のルールがあるわけではない
⇒会計上の収益認識基準が固まれば、場合によっては、会計基準に法人税法が歩み寄る可能性もあり得る


6.総会決議事項の登記に添付する「株主リスト」に関するQ&A

商業登記規則等の改正により、H28101日以降、役員変更の登記等、株主総会の決議を要する事項について登記する場合は、上位10名等の「株主リスト」の添付を義務付けられることとなった。

1:概要
1:「議決権数の割合が高い上位10名」又は「議決権の多い順に順次加算した割合が3分の2に達するまでの人数」のうち、いずれか少ない人数の株主リストの添付が義務付けられことになった。
株主総会議事録等を偽造して役員になりすます等の違法行為が散見されたため。

2:上場会社は有報で大株主情報を記載しているが、「株主リスト」は免除される。
2:登記の真実性の確保の観点から、上場会社か否かに関係なく提出が義務付けられている。

3:有報に記載している大株主リストを流用することは可能か。
3:今回改正の「株主リスト」では内容が異なるため流用は難しい。
「株主リスト」の主な記載事項は以下となる。
・氏名又は名称
・住所
・当該株主のそれぞれが有する株式数及び議決権の数
・当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面

4:中小企業は法人税の申告書の別表2の写しを流用できるか。
4:「株主リスト」の記載事項と一致するわけではないので流用は難しい。
ただし、内容的に重なる部分が多いため、別表2を利用した記載例等を法務省HPで掲載予定。

5:「株主リスト」に記載すべき株主はいつ時点の株主か。
5:リストに記載すべき株主は株主総会で議決権を行使できる者。
基準日が決算期末であれば、期末日現在の株主をリストに記載する。

6:上位10名の記載方法につき統一的な書式があるか。
6:特に統一的な書式はない。今後法務省HPで記載例を掲載予定。

7:「株主リスト」は、会社が作成管理する株主名簿の記載通りに転記すればよいか。
7:会社が把握している氏名又は名称及び住所等の記載で問題なし。

8:個人株主の住所はどこまで記載するか
8:有報とは異なり、「番地」までの記載が求められる。

9:上位10名を超える場合でも、すべての株主を記載する必要があるか
911名以上であってもすべての株主を記載する必要あり

10H28101日から施行されるが経過措置はあるか
10:経過措置はなし。
H28101日以降の登記申請は必ず「株主リスト」を添付する必要あり。


7.附属書類の閲覧

・他社の登記申請書、その附属書類(定款等の添付書類)の閲覧には制限あり
・閲覧できるのは以下の通り
-利害関係者であること
-利害関係及び閲覧事由が相当であること
H28101日より、閲覧申請人の住所・閲覧希望部分の記載・利害関係を証する書面の添付が必須に
・登記申請書、その附属書類の保存期間は5年で、5年経過後は閲覧不可となる


8.税理士損害賠償事故事例と予防対策:相次相続控除適用失念

■相次相続控除とは
10年以内に続けて相続があった場合に、2度目の相続(2次相続)で、1度目に支払った相続税(1次相続)の一部を差し引くことができる制度。

■事故事例
平成205月に発生した相続(第二次相続)の申告において、平成158月に発生した第一次相続に係る相次相続控除の適用を失念していた。平成278月にミスに気付いたが更正の請求期間を経過していた。

■予防策
(1)税額控除別に該当の可否を確認する。また確認のために必要な資料を列挙する。
(2)戸籍謄本を確認するだけでなく、必ず相続人にヒアリングする
などチェック体制を整備することが肝要


9.【法人税】確定給付年金(DB)の制度変更に対する税制の対応

従来のDB制度においては、会社が拠出する掛金は、基本的に拠出時に損金算入される。

■リスク対応掛金について
DBでは将来の給付額に応じて一定の掛金が拠出されるが、運用悪化時に企業に追加負担がかかる点が問題視されていた。
運用悪化に備えて通常の掛金に加えて『リスク対応掛金』を拠出できるように、DB制度が変更される。

追加拠出が可能となる『リスク対応掛金』の損金算入は認められるのか?
損金算入可能(28年度改正)
ただし限度額が設定されることとなっており、今後政令等で規定される見込み。

■リスク分担型DBについて
確定拠出年金(DC)DBの中間の性質を備えた制度が設けられる。
(企業と従業員で運用リスクを分担する。)

リスク分担型DBの掛け金は損金算入が認められるのか?
28年度税制改正で損金算入可能である旨が示されている。


10.分配可能額と東京都の条例改正案

■分配可能額
・その他利益剰余金+その他資本剰余金-自己株式
・自己株式処分差益は配当可能利益を構成する

■東京都が条例改正案を公表(5/25
29年度の超過税率:3.78%
H29.4以降開始事業年度の実効税率は30.86


11.分掌変更による役員退職金の取扱

1.法人税法上の取扱
⇒原則として、損金算入可能。
※不相当に高額でなく、実態として退職と考えられることが条件

2.判断基準
(1)不相当に高額か否かの判断基準
・業務従事期間
・退職事情
・同業他社との比較等
(2)実態として退職したと考えられる判断基準
・勤務状況
・経営への関与の状況
・報酬額の増減等


12.M&Aで押さえておきたい競争法対応の実務ポイント

■競争法上の問題とは
・水平統合では⇒川下の顧客にとってサービスの調達先の選択肢が減少することが主たる問題
・垂直統合では⇒川上の事業者にとって販売先、川下の事業者の仕入先の選択肢が減少することが主たる問題
⇒いずれの場合でも、
・どのような範囲で市場を設定するのか
・市場シェアを算定するのか
が検討の前提として重要となる(市場画定)

■ポイント
・国によって規制が異なる
⇒JVなど、日本では特別な届出規制はないが、中国やEUなどでは規制が厳しい
・届出が必要となる国において、どの程度の競争法上の問題が生じるかの見立てをすることが重要


13.役員報酬制度に関する平成28年度税制改正のポイント

業績に連動した報酬制度の導入を促進するため、上場企業等を対象に役員給与の取扱いが見直された。

■改正内容
・株式報酬
⇒役員報酬として譲渡制限付株式を交付する場合には、事前確定届出給与の要件である届出が不要になった

・業績連動報酬
⇒利益連動給与の算定指標の範囲について、営業利益、経常利益等に加え、ROEROA等の一定の利益関連指標が含まれることが明確化された

■適用期日
 平成2841日以後開始事業年度から適用


14.IASB 企業結合の審議状況

■企業結合のポイント
・取得時に減損テストを行う新アプローチが指示され、具体化に向けて検討
・新アプローチでは取得企業が保有する資産の簿価が低い事によって生じるバッファーに注目

■流れ
(1)のれんの配分先となる取得企業の資金生成単位を識別する
(2)取得前のバッファーを算定する(取得による影響を除外した状態で、取得時点における資産の回収可能価額を算定し、帳簿価額を超える部分が取得前のバッファーとなる)
(3)のれんと被取得企業の資産を、関連する資金生成単位に配分する
(4)各資金生成単位の回収可能価額をACの合計と比較し、回収可能価額の方が低い場合、その差額を減損として認識
A:配分された被取得企業の資産およびのれんの金額
B:取得企業が保有する資産の帳簿価額
C(2)で算定した取得前のバッファー


15.マイナス金利下の会計処理上の論点共有

■銀行業における預け金利息のマイナス表示
⇒マイナス表示するか、費用科目に振り替えて表示するかが論点
例:日銀に対する預け金から発生する受取利息のケース
なお、システム障害も想定される

■金利スワップの特例処理の継続
⇒利息の受払の要件に抵触するかが論点
H283月期は継続適用OK
⇒金利スワップ(特例処理)の継続適用には3要件が必要
例:借入金の支払利息と金利スワップの変動金利相当額が相違するケース
・ヘッジ対象(借入金):想定した契約なければ、貸付人は利息を支払う必要なし
・ヘッジ手段(金利S):想定した契約ない限り、実金利に基づいて支払う必要あり

■退職給付債務の計算における割引率
⇒安全性の高い債券の利回りとしてマイナス金利or0を下限
・マイナス金利でも0でもOK
例:国債の利回りを基礎としたケース
ただし、マイナスの利回りを適用することは基準の趣旨と整合


16.子会社からの配当方針

申請会社に子会社がある場合、上場審査上、申請会社グループ全体の収益力が大きなポイントとなる。
それに加えて、申請会社の株主に対して適切に利益還元がなされているか否かも、重要な一つのポイントとなる。

申請会社の株主の利益を損ねることのないよう、配当の方針や配当性向(※)など一定の還元ルールを定めておくことが望ましい。

(※)配当性向(%)=配当金支払額÷当期純利益×100

申請会社グループの経営方針に沿った、配当方針を決定する必要がある。








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