1.国外財産調書の未提出者に対する国税当局の対応
■国外財産調書制度
・平成26年1月から導入された。平成27年分の提出件数は約9000件。
・毎年12月31日において5,000万円を超える国外財産を持っている居住者に提出義務あり。
■未提出者に対する課税当局の対応
・文書や電話による照会
・一定の者については、調査が行われるケースもある。
■今後
・平成29年1月より施行されるCRSによる金融口座情報の自動交換制度の導入により未提出者は一層絞り込まれる可能性あり。
※CRSとは(Common Reporting Standard)
非居住者の金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準
2.信託方式の有償SO、決算への影響なし
■「信託方式」の有償ストックオプション(※時価発行新株予約権信託)を採用する企業が増加傾向に
※時価により発行される新株予約権を受託者が保管しておき、一定の期日になった時点で条件を満たした受益者に対して交付するという新しいインセンティブ制度
・最大のポイント=オーナー個人が信託の委託者となって金銭を拠出する点
・金銭を拠出するのがオーナー個人=有償SOと異なり会社の費用に計上という話にはならない
・特にオーナー色が強い上場企業やベンチャー企業での導入が広がりつつある
3.平成27事務年度の相続税・贈与税の調査事例
「国外送金等調書」が発端となって海外預金の申告漏れが発覚
(参考)国外送金等調書とは
100万円を超える国外への送金及び国外からの送金の受領があった場合に金融機関が税務署に提出する法定調書の1つ。
■事例:
(1)国外送金調書をもとに、税務署は相続税調査に着手
(2)相続人は、税務署の実地調査時、相続財産の中に海外資産は無いと回答
(3)税務署は下記事実を把握
・相続開始日おいて被相続人名義の海外預金が存在
・相続開始後、相続人がこの預金を解約、自らの口座に送金
⇒税務署は、相続人は海外預金が相続財産である事を認識していたが、税務署に把握されないと考え、税理士にも告げず相続財産から除外していたと判断
⇒約1,900万円の課税価格申告漏れを指摘、約300万円を追徴課税(重加算税あり)
4.今週の専門用語
■権利確定条件
ストックオプション(SO)を付与された役職員が、SOを行使するために求められる条件のこと。
(例)
・勤務条件(一定期間の継続勤務が必要)
・業績条件(一定の業績の達成が必要)
無償で付与されるSOにおいても、現行のSO会計上では「労働サービス提供の対価」と考えられるため、毎期の費用計上を求められている。
5.過去の誤謬(修繕費否認)
(設例)
・前期に未払計上した修繕費500は、当期分であり修正申告済
・過年度遡及会計基準の適用により、当期の期首利益剰余金を500増額処理
(Question) 当期の申告調整はどうすべきか?
(Answer) 別表四:「修繕費認容」500減算(留保)
6.仮想通貨の会計上の取扱いを明確化
財務会計基準機構が「仮想通貨に係る会計上の取扱い」について、企業会計基準委員会に対して新規テーマとなり得るか依頼。
■H28年6月交付の改正資金決済法にて
・仮想通貨が定義付けされた。
・仮想通貨交換業者に対し登録制を導入。
・仮想通貨交換業者へ財務諸表監査及び分別管理監査を義務付け。
改正法は1年以内に施行される予定であるが、仮想通貨の会計処理に関する取扱いが明確化されていないため、金融庁も重要課題として認識。
■主な会計上の論点
・仮想通貨は需要供給で価値が変動する⇒棚卸資産の範囲に含めるか?
・仮想通貨は決済手段の特徴あり⇒外貨建て現金が適合か?
また顧客からの預かり資産のため、期末評価や監査方法、財務諸表上の表示及び開示も論点となる。
7.会社間の株式の有利発行と受増益の有無
【裁判所事例】
・X社(国内法人)がタイに所在の関連法人TES社の株式を49%保有
・TES社が増資の際、X社のみが新株を引受し、X社のシェアが97%に増加
・増資の際の払込み金額は250バーツ/株(直近の純資産価額は約3万バーツ/株)
⇒当該増資が有利発行に当たるかどうか
【X社の主張】
・X社の保有株式と、その他株主の保有株式は種類が異なる
※株主間契約によって、その他株主には一定価額の買取保証・配当受領権が与えられており、優遇されている
・「他の内容の異なる株式保有株主との衡平を害さない(他の株主等に損害を及ぼすおそれがない)」場合は、有利発行に当たらない規定を適用できる
【判決】
・X社と他の株主の保有株式は、譲渡制限、議決権の条件が同様
・株主間契約は変更も可能であり、株式の種類が異なるとは言えない
・本件増資に際して、X社以外の株主に損害を及ぼすおそれがない、には当たらない
⇒有利発行であり、直近純資産価額と払込み金額との差額は受増益課税
8.判例:特許権に係る補償金の課税区分
■概要
・N大学の教授A氏は発明にかかる特許を受ける権利を無償でN大学に譲渡した
・N大学は特許の付与をうけたのちF社に特許権を譲渡して利益を得た
・N大学は大学の規定に基づきA氏に金員7,000万円を支給した
⇒N氏の所得は一時所得か雑所得かで争われた
■一時所得(意義)
「~労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」と規定されている
■A氏及び課税当局の主張
A氏:本件金員は「特許権」を譲渡したものではないため、「資産の譲渡の対価」にあたらず一時所得に該当する。
当局:「資産の譲渡」には資産の譲渡と密接に関連する給付を含むと考えられる。よって資産の譲渡の対価としての性質を有し、一時所得にはあたらない
■地裁の判断
当局の主張を支持し、雑所得とした。
⇒現在高裁に控訴中
9.衣料品の輸入にかかる消費税が計上もれとなった事例
■概要
A税理士は従来より衣料品販売業Bの税務を受任し申告を行ってきた。平成27年4月、依頼法人より衣料品輸入に関する消費税の控除について質問を受け調査したところ、引取にかかる消費税の控除漏れが判明した。更正の請求対象期間にかかる消費税の還付は受けられたが、期間経過分については還付を受けられなかった。
⇒還付できなかった消費税につき損害賠償請求を受けた。
■解説
消費税の更正の請求期限⇒法定申告期限から5年以内
申告ミスが発覚した場合でも期限内であれば更正の請求ができるため速やかに手続きを行うこと。
10.相続税で海外資産調査が3年連続増,13年以降最多に
平成27事務年度における相続税の調査の状況について
■1件あたりの平均調査日数
相続税⇒平均14日
贈与税⇒1.6日
海外資産事案⇒19日
■相続税総括
・実地調査件数や非違件数は微減(実地12,406件⇒11,935件、非違件数10,151件⇒9,761件)
・重加算税の賦課割合は微増(12.4%⇒12.8%)
⇒限られた人員で優先度の高い事案を行う当局のスタンス
■贈与税総括
・実地調査件数や非違件数は微減(実地3,949件⇒3,612件、非違件数3,616件⇒3,350件)
・重加算税の賦課件数は2倍(27件⇒51件、賦課割合は0.7%⇒1.5%)
■海外資産事案
・どういう括りか
⇒相続財産に海外資産がある、相続人や受遺者又は被相続人が日本国外に居住、海外資産等に関する資料情報がある、外資系金融機関と取引がある等のいずれかに該当する事案
・実地調査件数は13事務年度からみて最多(847件⇒859件)
■調査事例を5つ記載している。1つ紹介。
【事案】
海外預金を相続財産から除外していた。
⇒国外送金等調書(金融機関の法定調書)から調査し発覚、重加算税有りとなった。
11.為替感応度
・先日のアメリカ大統領選挙では、トランプ氏の優勢で105円から101円台まで一気に円高が進行し、当選後には108円台まで円安が進んだ。
・輸出関連企業では相場が1円動いたときの利益への影響を表す為替感応度が注目されている。
・為替感応度は決算説明会資料やアニュアルレポートで説明されることもある
・IFRSではこのような為替リスクは「金融商品に係る定量的なリスク情報」として開示する。
12.税務上の固定資産付随費用と修繕費と資本的支出の区分
1.付随費用と修繕費・資本的支出
(1)付随費用
⇒事業の用に供するために直接要した費用
⇒取得原価に含めなければならない。
(2)資本的支出
⇒使用可能期間延長、または価値の増加をさせるための支出
⇒資産計上
2.例示
(1)租税公課
・取得原価、または損金と出来る支出
⇒不動産取得税、自動車取得税等
・取得原価としなければならないもの
⇒未経過固定資産税等精算金(※)
※日割り按分した固定資産税相当額
(2)購入対価の3%以内の付随費用
⇒ソフトウェアと棚卸資産の場合のみ取得原価に含めなくとも良い
⇒その他の固定資産は当該3%の規定はなし
(3)建築等の為の地質調査・地盤強化等
⇒取得原価に含める。
(4)事業の用に供する為の、既存の固定資産や棚卸資産の破棄
⇒取得原価に含める
(5)機械装置の試運転費用
⇒取得原価に含める。
13.3者間相殺の可否と債権回収実務への影響
■3者間相殺とは
当事者:A、B、C(BとCは連結グループ)
A:信用悪化、Bから原材料を仕入れて製品化、Cに販売(Cに債権あり)
B:Aに原材料を販売(Aに債権あり)。Cの関係会社
C:Aから製品を仕入。Bの関係会社
⇒3者間相殺…AB間、AC間の債権債務の相殺をすること。平時は契約に定めることよって可能。差押さえや法的倒産手続(事例はAが民事再生手続中の相殺可否)のような時期まで相殺が可能なのか?
■最高裁判例
法的倒産手続中の相殺は否定(契約上他のグループ会社に対する債権と相殺できる旨記載していてもダメ)
理由:他の債権者との間の公平・平等という基本原則に反する
■最高裁判例が債権回収実務に与える影響
・法的倒産手続の場合に3者間相殺の効力を主張するのは困難
・法的整理に入る前に手を打つ必要あり。
⇒債権譲渡の利用:上記Bのもつ債権をCに譲渡しておく方法などが考えられる
14.金利スワップの特例処理適用の可否
・デリバティブ取引
⇒原則、期末日の時価でBS計上し、評価差額は当期の損益として処理
・金利スワップの特例処理
⇒ヘッジ会計の要件を満たす金利スワップのうち、一定の要件を満たす金利スワップ取引は金利スワップを時価評価せず、金利スワップに係る金銭の受払の純額をヘッジ対象に係る利息に加減して処理できる。
(要件)
①想定元本とヘッジ対象の元本金額がほぼ一致
②契約期間およびヘッジ対象の満期日がほぼ一致
③変動金利の基礎となる金利指標がヘッジ対象とほぼ一致
④金利改定のインターバルがヘッジ対象とほぼ一致
⑤利息の受払条件がスワップ期間を通して一定
⑥金利スワップに期限前解約オプション、支払金利のフロアー又は受取金利のキャップが存在する場合には、ヘッジ対象の資産負債に含まれた同等の条件を相殺するためのものであること
■例
借入金の金利条件が前半は固定金利、後半は変動金利である。後半のみ金利スワップ契約を締結した場合、金利スワップの特例処理は適用可能か?
⇒⑤を満たさないため特例処理の適用は不可
15.株式等によるインセンティブ・プランの類型
■新株予約権→インセンティブ効果
(1)株価連動
・株式報酬型SO(1円SO):無償or払込債務と報酬債権の相殺により付与、権利行使価格1円
・通常型SO:無償or払込債務と報酬債権の相殺により付与、権利行使価格>付与時の時価
(2)株価連動+業績条件
・業績条件付株式報酬型SO:株式報酬型SOで付与法人の業績を権利行使条件
・有償SO:付与時のSOの時価による払込みにより付与、権利行使価格>付与時の時価
■株式付与プラン→インセンティブ効果
(1)株価連動
・譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック):初年度に株式付与、一定期間経過で権利確定+譲渡制限解除
→リテンション効果
(2)株価連動+業績条件
・パフォーマンス・シェア:初年度に株式付与、業績評価期間の業績により権利確定+譲渡制限解除
■その他
・従業員持株会:福利厚生の増進、経営への参画意識向上
→インセンティブ効果とは異なる
16.社債の発行手続とトレンド (上場会社を前提)
■発行手続(会社法:CFO等への委任)
準備:基本事項(募集総額の上限等)について包括決議(取締役会)
公表:CFO等による機動的な発行+証券会社との総額引受契約
発行:払込⇒発行
■発行手続(金商法:発行登録制度)
準備:発行登録書(一定期間における発行予定総額等)
公表:発行登録追補書類(個別発行時における発行価額や利率等)
発行:追補書類提出後、ただちに可能
■発行手続(社振法:保振とのやり取り)
準備:振替社債発行の同意書+取締役会決議
公表:銘柄情報について、保振に通知
■トレンドの社債商品~株式価値の希薄化回避しながらROE改善~
・普通社債(シニア+固定金利+期限一括償還型)⇒シンプルで取引しやすい
・ハイブリッド債⇒任意利払繰延条項+劣後特約(優先株の配当と同性質に)
・転換社債型新株予約権付社債⇒額面での償還が約束+株価次第で転換可能
17.「親引け」制度
1.制度概要
「親引け」とは、証券会社が株式等の募集または売出しの引受けを行うにあたって、発行会社が指定する販売先への売付けを行うこと。
長期保有が期待できる安定的な投資家に配分することを目的。
従前、個人投資家へ公平かつ公正な配分を行うという観点から、原則禁止されていたが、H24年に規制緩和され、下記に示す要件に基づき、「親引け」が認められることになった。
・要件1
引受証券会社が、当該募集等の引受け等に係る株式の配分が、公正と判断したこと。
・要件2
発行会社が、親引けの予定先の状況、発行条件に関する事項、当該親引け後の大株主の状況などを、有価証券届出書の提出後において適切に公表すること。
・要件3
当該募集に係る払込期日から180日を経過する日まで継続して保有することの確約を、主幹事会員が親引け予定先から書面より取り付けること。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
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