1.税理士が妻に青色専従者給与、必要経費か否かをめぐり争い
■青色専従者に支払う給与
・個人事業主(夫)が事業を手伝う配偶者(妻)に給与を支払った場合
⇒妻が青色専従者に該当する場合、支払った給与は夫の必要経費に算入できる
・妻が、他の法人や他の個人事業者の手伝いをしながら、夫の事業の手伝いをしていて、夫が妻に給与を支払った場合
⇒妻へ支払った給与は、基本、夫の必要経費に算入できない
⇒妻が青色専従者に該当し一定の事由がある場合は、例外的に夫の必要経費に算入できる
■今回の事例(地裁)
・妻が夫の青色専従者でありながら、その親族の資産管理会社(法人)の代表者を務めていた場合
(1)妻は夫の青色専従者といえるかどうか
(2)妻へ支払った給与は夫の必要経費に算入できるかどうか
(1)について
⇒青色専従者とは言えない
⇒夫の事業の手伝いに専念していたと誰が見ても明らかとは言えないため
(2)について
⇒妻が青色専従者ではないため、夫の必要経費に算入できない
※納税者は控訴を提起
2.過去の誤謬(売上計上漏れ)
(設例)
・当期の売上500は、前期分であり修正申告済
・過年度遡及会計基準の適用により、当期の期首利益剰余金を500増額処理
⇒当期の申告調整はどうするか。
(答)
別表四は「売上認容」として500減算(留保)します。
3.海外投資に係る富裕層の申告漏れが増加
「H27事務年度における所得税及び消費税調査等の状況(10月28日、国税庁公表)」のうち、海外投資などを行っている富裕層に係る調査結果は下記のとおり
調査件数:565件(前年比+26.1%)
1件当たりの申告漏れ所得金額:2,970万円(前年比+27.1%)
1件当たりの追徴税額:756万円(前年比+35%)
(参考)富裕層全体への調査
申告漏れ所得金額:過去最高516億円(前年比+32.3%)
4.個別の議決権行使結果の公表を原則に
フォローアップ会議が、「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方」と題する意見書案を了承した。
運用機関とアセットオーナー(年金基金や保険会社等)が対象となる。
運用機関等に対して、アセットオーナーへの開示以外にも、個別の議決権行使結果を一般に公表することを原則とすべきという内容。
運用機関等が、最終受益者への説明責任を果たし、透明性の向上を図ることが目的となる。
5.他の税効果適用指針に先行して法人税等会計基準案が決定
■企業会計基準委員会が日本公認会計士協会の「税効果会計に関する実務指針」を会計基準へ移行中
「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」については、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」(※)として先行して公開草案を公表
(※)法人税、地方法人税、住民税及び事業税(以下、法人税等)に関する会計処理及び開示を規定
■会計処理
(1)当年度の所得に対する法人税等
⇒法令に従い算定した税額を損益に計上
(2)過年度の所得に対する法人税等
・追徴される可能性が高く、税額を合理的に見積ることができる場合(誤謬による場合を除く)
⇒追徴税額を損益に計上 ※延滞税(延滞金)、加算税(加算金)も追徴税額に含めて処理
・還付されることが確実に見込まれ、税額を合理的に見積ることができる場合(誤謬による場合を除く)
⇒還付税額を損益に計上
■開示
・法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)
⇒税引前当期純損益の次に「法人税、住民税及び事業税」等の科目をもって表示
※追徴税額及び還付税額は、本税を表示した科目の次に、その内容を示す科目をもって表示
(金額的に重要性が乏しい場合、本税に含めて表示可)
・事業税(外形)
⇒原則として、販管費として表示(ただし、合理的な配分方法に基づき、その一部を売上原価として表示可)
※追徴税額及び還付税額は、本税と同様
■留意事項
・「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」における表現の見直しや考え方の整理等を行うものであり、実質的に内容を変更するものではない
⇒公表日以後適用し、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更にも該当しない
6.小規模宅地特例の手続要件で納税者敗訴
■小規模宅地の特例の手続要件とは
・相続税の申告書の特例を受ける旨の記載
・小規模宅地等の計算明細書の添付
・遺産分割協議書や共同相続人の選択同意書の写しの添付
■事例
・A氏が遺言により特例対象のX土地を取得
・X土地の小規模宅地の特例適用にあたり、選択同意書を添付せず
・添付がなかったため、小規模宅地の特例が受けられなかった
・別の特例対象の土地は遺産分割協議中(未分割財産)
※措置法上、未分割財産の場合は未分割の上申書を提出したうえで、遺産協議が整った状態で選択同意書を提出しても特例の適用が受けられる
■A氏主張
遺言で取得したケースの場合でも、後日に選択同意書を提出しても問題ないのではないか。原因は立法の不備ではないかと訴訟
■裁判所の判断
・選択同意書の添付が困難なケースは、遺言対象で取得したケース以外においても一般的に生じる問題。
・遺言対象で取得したケースのみ不利益になるとは考えられない。
・他の相続人の選択同意書がないため特例適用を否定した課税処分を支持。
7.「連結納税制度外し」による否認事例は
<グループ法人税制外し>
・完全支配関係(100%株式保有関係)にはグループ法人税制が適用され、親子間での資産譲渡損益は実現されない
・株式の一部を従業員などに保有させ、完全支配関係を崩した上で資産譲渡損失を計上するケースあり
⇒いわゆる「グループ法人税制外し」として、同族会社等の行為計算否認規定が適用される事例が出てきた
<連結納税制度外し>
・連結納税制度適用会社は、子会社資産を時価評価しなければならない
・子会社株式の一部を100%出資の外国法人に保有させることで、連結対象外とし時価評価を不要とするケースあり
※外国法人が間に入った支配関係は、連結対象外となる
⇒いわゆる「連結納税制度外し」であり、連結法人に係る行為計算否認規定が適用される恐れあり
※現状は、否認事例は把握されていない
8.セルフメディケーション税制 QA
■セルフメディケーション税制とは
いわゆるスイッチOTC医薬品※を12,000円以上購入した場合、その越える額を所得から控除できる制度。上限は88,000円。29年1月1日以後購入分が対象となる。
※医師処方の医療用医薬品からドラッグストアで購入できるOTC医薬品に転用された医薬品をいう。
■Q&A
Q:従来の医療費控除と併用できるか
A:併用不可
Q:通信販売で28年12月31日に申し込んだ場合控除対象となるか
A:支払日が29年1月1日以降であれば対象となる
Q:購入時にスイッチOTC薬に該当せず、その後追加で登録された場合は控除対象となるか
A:29年1月1日以後購入のものであれば購入時に非該当であったものも対象となる
9.個別対応方式と一括比例配分方式の誤選択により過大納付となった事例
■概要
A税理士は依頼者の平成17年3月期から6年にわたり、消費税の計算を一括比例配分方式で計算していた。その後顧問契約が解除され、依頼者が自ら確認したところ、個別対応方式の方が明らかに有利であったことが判明した。
⇒差額につき損害賠償請求を受けた。
■解説
税理士は個別対応方式と一括比例配分方式について依頼者に十分な説明をし、納付税額について申告前に有利不利の試算をする必要があった。
明らかに税理士に過失があったものとされ賠償責任があると認められた。
10.国税庁 27事務年度の法人税等の調査事績を公表-消費税還付法人に係る追徴税額は前事務年度の約2倍
■調査日数
調査1件当たりの平均日数は11.3日
(調査課所管法人では平均日数78.7日)
■消費税還付申告法人
7,475件調査⇒消費税152億1,500万円を追徴課税
(内764件は不正に還付金額の水増しなどを行っていた)
■海外取引等に係る法人税
実地調査を1万3,044件、非違件数3,362件,申告漏れ所得金額2,308億円
非居住者や外国法人に対する源泉所得税等の課税漏れ1,527件、169億8,800万円追徴課税
■調査事例を6つ記載している。1つ紹介。
【事例】
輸出免税制度を悪用し,消費税不正還付(東京局)
調査法人が国内の仕入先Aから商品を高額で仕入⇒国外Bへ高額で輸出
⇒その後同一商品を国外Bから複数の法人を経由し仕入先Aが低額で輸入
⇒調査法人が再びAより高額
仕入⇒国外の法人へ輸出(繰り返し)⇒消費税の還付申告書を提出
仕入先Aは無申告であった。
⇒通関業者への反面調査及びインボイスの分析によって発見
11.マドフの内部通報者が暴露したこと。
・マドフ事件=米国史上最大級のねずみ講事件
・内部通報者のMarkopolos氏が「監査が効果的ではなかった要因」を下記の通り主張している。
①監査報酬が安い
・マドフはBig4の監査をなめていた
・監査報酬が安い=監査人は十分な手続きができない
⇒数値をごまかすのは簡単
②監査人の経験不足
・監査報酬が安い=監査がコモディティ化=20代の若手が担当となる
⇒経験の浅い監査人に、大人の不正は見抜けない
③実証テストが少なすぎる
・Big4ではサンプル75件程度。
大きな取引25件、新しいもの25件、その他25件
⇒膨大な取引の中から、わずかのサンプルでは実態はつかめない
※実証テストが少ない現在のリスクアプローチは、1980年代の監査報酬の引き下げ競争から。
※従来の実証テストを十分に行う方法ではコストがかかりすぎるため、コスト低減、すなわち手間をかけない方法として考え出された
12.税務調査で経理担当者として気を付けるべき事項
①日頃から資料の保管・整理に気を付ける。
※調査の連絡があってからでは間に合わないため。
②調査官がロッカーや金庫等も確認する可能性があることを念頭に置いておく。
③調査官からの質問の回答は、きちんと確認してから回答する。
※曖昧な回答や推測での回答は後のトラブルのもととなるため。
④営業担当者等のヒアリングには同席し、不用意な発言が無いようにコントロールする。
⑤調査官から求められた資料は、提出前に内容を確認する。
⑥資料のコピーを提出する際には控えを取っておく。
※調査官が何に関心を持っているかを推測する為。
※後日、調査官から問題点を指摘された際に、どの資料を根拠に話しているかを把握する為。
⑦調査議事録を記しておく。
※調査官との認識の相違や記憶違いを避けるため。
また、次回調査への申し送り書類とできるため。
⑧調査官と良好な人間関係を築く。
⑨誠意ある対応を見せる。
⑩納得できる指摘事項は素直に応じ、納得できない事には応じない。
13.非上場オーナー企業を買収する際のDDの留意点
■プロジェクトマネジメントへの影響
・DD対応能力の欠如
⇒スケジュール後ろ倒しのおそれ
・対応
⇒アドバイザーと相談のうえ、資料が揃うまでDDを開始できないことを申し入れる
⇒セルサイドのアドバイザーに依頼し、DD受入体制の改善を要求する。
■オーナー関連取引に関するDD検出事項の例
(1)例
・オーナー等保有物件の賃借、金銭貸借、個人保証
・個人使用目的の不動産の保有
・事業目的と異なる金融商品の保有
・役員報酬の支払(実体がない場合、報酬額が過大な場合)
・役員退職慰労金(原資とすべき保険への過剰な加入)
・個人的な支出
(2)リスク、発生作業等
・税務リスクの増大
・事業外の部分での調整項目が発生(金融商品の含み損益等)
・オーナー保有物件等の取扱いをどうするか(オーナーに貸し付けて賃料をとる等)
■価格交渉
×ファイナンス理論に基づくVA⇒別のロジックで決定されることが多い
例:修正簿価純資産+営業利益の○年分など
14.金商法における課徴金事例集(開示規制違反編)について
※証券監視委員会が平成28年8月に公表
・特定の役員等の主導による不適正な会計処理等
⇒経営トップ等のコンプラ意識の欠如、取締役会や監査役の機能不全等が発生原因
・新たに開始した事業における売上の過大計上
⇒コンプラ意識の欠如、内部統制の機能不全等が発生原因
・海外子会社等の不適正な会計処理が発覚
⇒適切なモニタリングを行うなどの、海外子会社等を管理する体制が十分に整備できていなかったことが発生原因
15.会計監査における監査役および監査役スタッフの役割
(1)会計監査人との連携
・双方から複眼的に会社の活動を捉えることが重要であり、そのためにも、日ごろから円滑な連携が図れるように監査役と会計監査人の信頼関係を構築することが必要となる
(2)会計監査人の評価
・会計監査人の監査の相当性を判断するだけではなく、品質管理、独立性、専門性等についても主体的に評価する
・大半の会社で明確な基準なしで検討中。
(3)内部監査部門との連携
・会計監査に限らず、相互の監査活動に関する情報交換・共有を密に行い、会計不祥事を起こさない仕組みづくりが必要
(4)その他
・監査役スタッフには内部監査部門その他の執行サイドはもちろん、会計監査人と監査役の懸け橋
・フットワークを生かして情報収集に努める等、不正を起こさせない企業風土の形成に対して大きな役割
16.上場を希望する子会社に対する親会社の対応
■親会社のメリット・デメリット
○⇒子会社株式の現金化、事業の選択と集中
×⇒親子会社間の不明瞭な会計処理の整理、利益相反関係の解消
■親会社の判断
⇒株式の一部を保有した上での判断が実際的
(関与レベルの判断は必要)
・if否認⇒子会社役員の経営意欲失墜と離反リスク
・if承認+全部譲渡⇒不要な資金調達、将来の成長による収益を逃す
■親会社の提案
・子会社役員へのSO付与
⇒インセンティブ向上による企業価値増加
⇒権利行使を踏まえた今後の支配権をコントロール可
・MBO(VC利用が多い)
⇒但し株価決定は慎重に
(株価が高い場合、手放す経営判断に市場の疑念発生)
■上場を承認する場合の留意
・親子会社の少数株主保護(利益相反)
・中核的な子会社でないか(新規公開により親会社が利益二重享受)
17.会計士監査人と株主代表訴訟
・株主代表訴訟では、役員のほか、会計監査人も訴訟の対象となる。
・公開会社では、株式を6ヶ月以上継続保有している株主は株主代表訴訟を提起できる。
・役員と比較して、会計監査人は会社に「守ってもらえない」ことが多い。
・そこで、日頃から、取締役、監査役とよくコミュニケーションしていることが重要となる。
(1)無限定適正意見を付すとしても、課題や留意点を整理し、取締役に伝達する。
(2)重大な事項でなくとも監査役に適宜報告を行う。
18.建設・不動産業の上場審査のポイント
1.価格政策
景気動向や住宅税制等、外部環境に左右されるため、会社設定している価格政策が外部環境にマッチし、ターゲットとしている市場に受け入れられるかが重要。不動産業においては、在庫リスクを回避することが重要であり、長期化した在庫に対する価格政策を含めた対応方針が、審査上のポイント。
2.プロジェクト別業績管理
プロジェクトごとの個別性が高く、受注から販売・資金回収までの期間が長い。3月に集中する傾向があり、業績の季節的変動がある。会計上、一定の条件のもとで工事進行基準の適用が求められるため、進捗状況の管理や予算に対する費用の発生状況の管理が有効に機能しているか、上場審査上確認される。
3.外注管理
建設業⇒下請業者、不動産業⇒仲介業者にそれぞれ外注することが一般的。上場審査上、外注先への依存の考え方や外注先のコントロール、下請法の遵守について、確認される。
4.受注管理
建設業では、受注情報が確度の高い業績の先行指標となるため、その管理手法が上場審査上、確認される。短期利益計画においては、受注情報の分析が重要。上場審査上、受注情報と利益計画の整合性が確認される。
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決算早期化・開示支援、株価算定・財務調査、IPOのための内部統制支援
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