2018年7月20日金曜日

7/20 勉強会:平成30年税制改正-法人税編- 他

1.当局の裁決分析から見る審査請求審理の舞台裏

事例
■原処分調査
請求人が意図的に少ない収入金額を青色申告決算書に記載したことにより、隠蔽仮装の事実が認められるとして重加算税を賦課決定。
しかし、過去の裁判例や裁決事例からすると意図的な過少申告にすぎないものと判断され、
重加算税の賦課決定処分が取り消される可能性が高かった。

■異議調査
そこで、審判所が原処分を維持するように、異議調査において再度、業務の流れ、収入金額の集計方法等を詳細に確認し、具体的な隠蔽行為があったことを把握した。

⇒税務当局は原処分を維持するために必要な証拠収集等を後追いで行うことがある!





2.一部の定期保険の損金算入割合圧縮も

■定期保険
・現行法上、全額損金算入…一般の定期保険は取扱に変更なし
・一定期間災害補償重視型定期保険について、当局に問題視
⇒当初の5年or10年or15年は基本的に災害による死亡のみ保険金を支払い(病気による死亡は対象外)
⇒死亡保障の範囲を絞ることによって解約返戻率が一般の定期保険より高く設定
⇒節税目的で加入する事例が散見される
⇒早ければ年内にも税務処理を変更する通達が出る可能性がある





3.大企業賃上げ投資減税の留意点を示す

■大企業向け所得拡大促進税制
【適用要件】
(1)雇用者給与等支給額が前年度を超えること
(2)継続雇用者給与等支給額が前年度比3%以上増加
(3)国内設備投資額が当期の減価償却費の総額の90%以上
【控除税額】
・給与等支給額の前年度増加額の15%の税額控除が適用
・さらに教育訓練費増加要件を満たせば、税額控除率5%アップ
※控除額は法人税額の20%が限度

■国内設備投資額とは
・適用事業年度に取得した国内資産(国内事業の用に供する資産)の取得価額の合計額
※注意点
・国内判定⇒無形固定資産(○○権等)は、権利が使用される場所、ソフトウェアは、そのソフトウェアが組み込まれている資産の所在場所で判定
・翌期から使う場合⇒適用年度終了日に事業の用に供されてなくても、その後使うことが見込まれる場合は対象としてOK
・資本的支出の場合⇒既存の国内資産に資本的支出を行った場合の金額は対象としてOK








4.平成30年税制改正-法人税編-

■収益認識基準に関する会計基準への対応(法人税法22条)
・新会計基準に基づく収益の額を定義
①契約を識別⇒②契約における履行義務を識別⇒③取引価格の算定⇒④取引価格を履行義務に配分⇒⑤充足時、充足するにつれ収益を認識
・適用開始時期
早期適用:2018年4月1日以後開始事業年度より/強制適用:2021年4月1日以後開始事業年度より

■電子申告の義務化(法人税法75条)
・対象となるもの:法人税の確定申告・中間申告・修正申告、期限後申告も対象となる
・適用額明細書:電子申告義務化に伴い提出義務対象書類となった
・適用開始時期:2020年4月1日以後に開始する事業年度より
※上記の制度と併せて、代表者の自署・押印制度が廃止

■所得拡大促進税制
(改正後:給与引き上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除制度)
・平均給与支給額が前事業年度から3%以上の増加(中小企業は1.5%) (改正前は上回っていればOKだった)
・国内設備投資額が減価償却費の90%以上 (改正前は要件無し)
・控除税額:15~25%(20~25%の控除を受けるには上乗せ用件に該当する必要あり)

■少額減価償却資産の特例
・2020年3月31日まで延長










5.KAM導入で監査基準改定、平成33年3月期から適用へ

■制度の概要
・KAM (Key Audit matter)とは、「監査上の主要な検討事項」のこと。
・監査プロセスの透明性を向上させる観点から、監査報告書にKAMの記載が求められる。
・平成33年3月期決算に係る財務諸表監査から適用。
・東証1部上場企業については、可能な限り平成32年3月期決算に係る財務諸表監査からの早期適用が促されている。
・会社法の監査報告書への記載は見送られた。








6.今週の専門用語

■定期保険
一定の保障期間で支払われる生命保険のこと。
法人が支払う定期保険料全額損金算入が認められている。
※ただし、保険のタイプによって損金算入割合がことなるので確認が必要です。

■教育訓練費増加要件
下記の要件を満たす場合、控除率を5%上乗せできる。(所得拡大促進税制の一つ)
大企業⇒教育訓練費が過去2期の年平均額から20%以上増加
中小企業⇒教育訓練費が前期比10%以上増加
対象費用:講師・指導員等の経費、教材費、外部施設使用料、研修参加費、研修委託費


■配偶者居住権
⇒配偶者相続人が、被相続人の遺産である建物を、無償で使用及び収益することができる権利。配偶者が所有権を得ずとも建物にそのまま居住できる。










7.法人税:請負工事の完成引渡し時期についての判例

■概要(工事業者Aの事業年度末は3/31)
工事業者Aは発注者から工事Bの発注を受け、本体工事を3/31までに終え
発注者から工事検査通知書を受領した。しかし、付属するバリケード設置工事及び
一定期間の現場管理が完了していないとして売上を計上しなかった。
税務当局は工事の完成引渡しが3/31までに完了しているものとして売上計上もれと
して加算処分をした。工事業者Aはこれを不服として処分の取り消しを求めた。

■事実関係
・本体工事は3/31までに完了
・バリケード工事は実質3/31に完了していた
・完了後の現場管理は発注者が行っていた

■審判所の判断
建設工事等の請負による収益の帰属時期は目的物の全部を完成し相手方に引き渡した日の
属する事業年度である。本件工事は実質的に工事の全部を3/31までに完了し引渡している
ことから当該事業年度の売上として計上される⇒税務当局勝訴

■考察
バリケード工事が契約に盛り込まれ、実際に4/1以後も行われていた場合または現場管理業務を
4/1以後に行っていた場合には<工事の全部が完了していない>ことになり、翌事業年度の売上
計上が認められていた可能性がある。











8.災害と所得税の軽減措置

自然災害により住宅や家財等が損害を受けた場合、
下記のどちらか有利な方法を選ぶことにより、所得税の全部又は一部が軽減できる。

■災害減免法による所得税の軽減・免除
・災害のあった年分の所得金額が1,000万円以下であること
・災害によって受けた住宅又は家財の損害額が時価の1/2以上であること
上記に該当する場合、所得税が軽減・免除される。
(具体例)
所得金額500万円以下 ⇒ 全額免除
所得金額500万円超~750万円以下 ⇒1/2の軽減 
所得金額750万円超~1,000万円以下 ⇒1/4の軽減

■所得税法による雑損控除
生活に通常必要な資産について損害を受けた場合、
損失額△所得金額の1/10の金額の所得控除を受けられる

■その他
・上記の控除は併用不可。
・上記の対象資産の範囲はほぼ同じ(住宅や家具・什器・衣服等)
・給与所得者が源泉所得税の還付等を受ける場合は、
給与支払者を経由して、災害を受けた者の税務署に申請書を提出する必要あり。









監査基準の改定「監査上の主要な検討事項」を記載へ

・監査上の主要な検討事項=KAM(Key Audit Matters)の記載が求められることになる
 さらに、監査人の意見を監査報告書の冒頭に記載する改定等もあり
・当面は金商法監査のみが対象
・連結・単体ともに対象
・「経営者の責任」を「経営者及び監査役等の責任」に変更
 ※20121年3月期から適用







10.支配獲得日が決算日以外の場合における連結方法

・当該日の前後いずれかの決算日(四半期決算日含む)に支配獲得が行われたとみなして処理できる
■事例
(前提)
・親(3月決算)が4月末日に子会社(3月決算)を取得
(設例)
・親の第1四半期連結決算(6月末)における連結方法
(会計処理)
原則
⇒4月末において全面時価評価法を適用して資本連結
⇒子の5/1~6月末日までのPL、6月末のBSを取り込む

容認(1)3月末をみなし取得日
⇒3月末において全面時価評価法を適用して資本連結
⇒子の4/1~6月末日までのPL、6月末のBSを取り込む

容認(2)6月末をみなし取得日
⇒6月末において全面時価評価法を適用して資本連結
⇒子の6月末のBSのみ取り込む










11.未払残業代の会計処理(ケーススタディ(2))

■状況
・労働基準監督署より、過去1年分の未払残業代の支払命令あり
・しかし、調査しても記録がなく、具体的な金額を算出することができない
・そこで、従業員と協議し、一律に1人100万円を支給する合意をした

■会計処理
・合意時に支払債務が確定したことから、合意した期に一時に費用処理する







12四半期報告書上の留意点

■非財務情報に関する留意点
主に以下に項目が改正されている
「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」
⇒従来から「経営者による」が追加され、経営者の視点による分析・検討内容を具体的かつわかりやすく記載することが求めれらるようになった
「新株予約役兼等の状況」
⇒新株予約証券を発行した場合、①ストックオプション制度の内容に決議年月日、付与対象者の区分、人数等の事項を記載する

■財務情報に関する留意点
「税効果会計基準一部改正」
⇒貸借対照表の表示が下記に変更
繰延税金資産:流動資産または投資その他⇒投資その他
繰延税金負債:流動負債または固定負債⇒固定負債
⇒繰延税金資産/負債は固定項目として開示









13.国際会議の費用にかかる消費税の課税判定

■役務の提供の判定
・原則:役務の提供が行われた場所が国内であるかどうかにより判定
・原則以外に別途基準が定められているもの以外で、役務の提供場所が明確にされていないもの等
 ⇒役務の提供に係る事務所等の所在地により判定
 (例)、国内と国外の双方で行われるもので国内対応分と国外対応分とが合理的に区分されていないもの等

■国際会議の判定例
(1) 国際会議は国内で行われるが、会議資料は国内で作成され参加者に提供(国内と国外の双方にわたる)
 ① 国際会議が国内事務所により提供されるもの  ⇒国内取引
 ② 国際会議が国外現地事務所等より提供される場合⇒国外取引
(2) 参加費用について内訳が明示され、国内取引分と国外取引分が明確に区分されている場合
  ⇒国内取引部分のみが消費税の対象









14.未払残業代の会計処理(ケーススタディ(3))

■状況
・従業員からの労働審判の申立てによる争い
・請求額はタイムカードに基づいており、過去2年分で800万円
・解決金として400万円支払うことで和解

■会計処理
・過去の未払残業代としての性格が強いと考えられる場合
→過去に未払が発生した期の費用として処理。
・解決金としての性格が強いと考えられる場合
→和解が成立した期の費用として処理。









15.役員退職金は、通常、最終月額報酬×勤続年数×功績倍率で計算される。

・「月額報酬」に、役員賞与を12分割した金額を加算することは認められるか?

・認められるのが合理的に思えるが、役員賞与が支払われ、「これを12等分したものを最終報酬月額に加算すべき」と判断された事例は無い。

・社会保険料の削減、老齢年金の増額支給を目的として、月額報酬を極端に下げ、役員賞与を高額にするスキームは功績倍率法が採用されないリスクを負うことになる。









16.製造業の上場審査

(1)製品の特徴等 
⇒製造業の収益力のポイントに関して、以下の観点を申請書類等で確認。
1.市場の成長性…マーケット規模および今後の拡大要因
2.業界動向…業界及び主要顧客を取り巻く環境ならびに需要動向等
3.競合状況…業界シェア及び同業他社との相違、製品の優位性、製品の効率性

(2)法的規制や業界慣行等
⇒業界に対する法的規制等が実施されている場合には、その内容が上場審査で確認。
⇒弁護士等に事前に相談するなどの検討が必要。

(3)ファブレス型企業
・製造は他社に任せて、企画・開発・販売だけを自社内で手がける企業。
⇒生産委託する理由や委託先における生産能力を上場審査で確認。

(4)内部管理
⇒以下を重点的に上場審査で確認。
1.在庫管理
2.原価計算制度
3.為替リスクの管理(海外に生産拠点をもつ企業が多いため)


 


17.システムの自社開発における留意事項

・上場審査において、業務に関連する情報システムを自社で開発していること自体は特に問題とならない。
・ITに係る内部統制の観点からは、仕様書、設計書、システム運用マニュアルなどによって、
システムの目的や構成、運用方法などを客観的に理解、把握することができる状態
・それらの文書に基づいた運用、整備、保守が適切に行われることも重要

・開発予算の制約や業務効率重視のため、必要レベルのセキュリティ概念が設計思想に盛り込まれていないなど、
内部統制を軽視したシステムが構築されることもある
・内部統制の思想もカバーした開発が行われているかどうか特に留意しておくことが必要。














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