1.所得税の源泉徴収義務を巡る最近の訴訟トラブル
■非居住者から国内にある土地等を購入したケース
・非居住者から国内にある不動産を購入した場合、譲渡対価を支払うときに所得税等を源泉徴収する必要がある
・裁判で、売主が非居住者かどうかの検討が十分でなかったとされたケース
⇒買主(国内法人)は源泉徴収の義務あり
・買主が非居住者でないとした根拠
売主の該当物件での生活ぶり、日本国内の住民票等の記載事項
・裁判所が検討できたとした事項
売主の渡米状況(売却交渉開始後1か月間)
売主が米国で生活していた旨を買主に話している
譲渡対価を26分割して米国口座に送金するよう指示
米国口座の口座名義がダブルネーム(複合姓)だった
売主の住所として米国内の住所を送金依頼書に記載している
2.日米租税条約の"合意"とは企業間の合意にあらず
・9条2項の内容について
一方の締結国により移転価格課税が行われ増額更正された場合に、
他方の締結国との間で"合意"すると
他方の締結国では減額更正できる
※国間の経済的二重課税の排除のため
・この場合の"合意"の意味
⇒審判所は、日米の課税当局間での合意であり、日米の個人または法人間の合意ではない、と解釈。
3.「子会社株式の現物配当を適格組織再編に」
■平成29年度税制改正で検討
・子会社株式の現物配当により親子関係を兄弟関係とする組織再編も対象
※現在、適格となるのは100%の保有関係のみ
⇒業績不振の子会社の切り離しが可能に
※現行の組織再編税制では、子会社株式に対する譲渡損益について子会社に課税および一般株主に配当課税あり。
4.今週の専門用語
■現物配当
・剰余金の配当のうち金銭以外の財産による配当
・株主総会の特別決議(※1)が必要
・ただし、株主に金銭分配請求権を与える場合には、普通決議(※2)で可
・「現物配当」とは会社法上の言葉で、税法上は「現物分配」
(※1)普通決議
・定足数
⇒原則:行使可能な議決権の過半数
⇒例外:定款による排除も可
・表決数
⇒出席株主の議決権の過半数
(※2)特別決議
・定足数
⇒原則:行使可能な議決権の過半数
⇒例外:定款で1/3以上の割合を定めることも可
・表決数
⇒原則:出席株主の議決権の2/3以上
⇒例外:定款で2/3を上回る割合を定めることも可
5.無期・フルタイムで税額控除額をUPへ
■地方拠点強化税制
本社機能を拡充・移転した場合、移転先の都道府県都知事から「地方活力向上地域特定業務施設設備計画」の申請・認定を受けた場合、優遇措置が受けられるという制度。
(1)雇用促進税制
・(地方移転型)増加雇用者1人当たり最大80万円の税額控除
⇒無期かつフルタイム雇用の場合は税額控除額の上乗せを要求中
(2)オフィス減税
・建物や附属設備、構築物などを追加取得した場合
(地方移転型)特別償却25%または税額控除7%
(地方拡充型)特別償却15%または税額控除4%
⇒平成29年は引下げ予定だったが、現行水準を継続するよう要求中
※また、この制度は東京圏、中部圏中心部、近畿圏中心部は対象外だったが、中部と近畿は対象とするように見直しを要求中
6.適格現物出資(DES)(被現物出資法人)
■事例
A社(現物出資法人)がB社(被現物出資法人)に対して貸付金(※)を適格現物出資
(※)債権者:A社、債務者:B社、簿価100、時価20
(B社における会計上の処理)
(借)借入金20 / (貸)資本剰余金20
(借)借入金80 / (貸)債務免除益80
■B社における税務上の処理
(借)貸付金100(※1) / (貸)資本金等の額(※2)100
(※1)適格現物出資なので簿価で引き継ぐ
(※2)現物出資財産の簿価100-増加資本金の額0=100
(借)借入金100 / (貸)貸付金100
∴債権債務の消滅
■B社における修正処理
(借)債務免除益80 / (貸)資本金等の額80
⇒分解すると(利益積立金額を挟むと)、
(借)債務免除益80 / (貸)利益積立金額80
(借)利益積立金額80 / (貸)資本金等の額80
■B社における別表調整
・別表四
減算/留保「債務免除益過大」80
・別表五(一)(利益積立金額の計算明細)
減算「資本金等の額」80
・別表五(一)(資本金等の額の計算明細)
加算「利益積立金額」80
7.リスク分担型企業年金の会計処理案の検討状況は?
■リスク分担型企業年金とは
・確定給付企業年金法に基づく年金制度
・事業者と加入者で運用のリスクを柔軟に分け合うことが可能
・事業主側はあらかじめ固定された掛金のみ拠出(追加的な拠出はなし)
■会計処理は
規定であらかじめ定められた各期の掛金額を各期において費用処理。
税務上も損金算入が可能となる
※法人税法施行令が改正される予定
■検討状況
・公開された草案より大きな内容面での変更はない模様。
・一部反対意見も寄せられているので、正式公表はまだ先になる予定。
・IFRSでの取扱いも今後明らかになる
8.固定資産の取得価額の按分方法
【例題】
1.設計料 :『共通経費』
2.建物本体工事
1)建築工事 :建物
2)電気設備 :建物付属設備
3)諸経費-1 :『共通経費』
3.外構工事 :構築物
4.諸経費-2 :『共通経費』
5.値引き :『共通経費』
【各取得価額】
・共通経費を按分して計算する。
(1)全体に係る項目を按分計算
⇒(設計料/諸経費-2/値引き)を、(建築工事/電気設備/諸経費-1/外構工事)に按分
(2)一部分に係る項目を按分計算
⇒(1)適用後の(諸経費-1)を、(建築工事/電気設備)に按分
9.外形標準課税:「資本金等の額」の計算誤り事例
■資本割の課税標準
資本割の課税標準は「資本金等の額」であり、具体的には、「”法人税法上の資本金等の額”に無償増資額を加算し、一定の欠損填補額を減算した額」であるが、そもそも”法人税法上の資本金等の額"の計算を誤っているケースが多い。
■具体例:相対取引による自己株式の取得にかかる誤り事例
(例)
取得直前の資本金等の額:2,500
発行済株式数:50
取得する株式数:10
交付金銭の額:800
(正)⇒1株あたり資本金等の額×取得株式数を減少させる
1株あたり資本金等の額:2,500/50株=50
減少する資本金等の額:50×10株=500
(誤)⇒交付金銭の額を減少させる
減少する資本金等の額:800
課税標準がズレて資本割の計算を誤る結果となるので注意が必要
10.【法人税】有価証券のクロス取引
■クロス取引とは?
有価証券の評価損の計上が認められない場合に、形式的に同一銘柄の譲渡と再取得を行い、含み損を実現させようとする行為。
■法人税上の取り扱い
法基通2-1-23の4 で、一定の要件を満たすクロス取引については、その売却がなかったものとして取り扱うこととされている。
■法的根拠
法人税法上の個別規定は無い。
法法22条の公正処理基準が法源と考えられる。
※企業会計上、金融商品会計基準でクロス取引については売買処理を認めていない。
11.ソフトウェア区分とゲームアプリ
・ソフトウェア制作費のうち、研究開発部分⇒「研究開発費」として費用計上
⇒それ以外の部分は資産計上する必要ある
受注製作:工事契約に関する会計基準適用
市場販売目的:製品マスターの完成時点以降は資産計上
自社利用:将来の収益獲得確実である場合は資産計上
「スマホ向けの基本無料・アイテム課金ゲーム」
⇒実務上は「自社利用」と扱うことが多い。
税務上5年償却だが、実態と合わない。
12.クロスボーダーM&Aの会計上の検討事項
1.正ののれんの連結財務諸表に与える影響の検討
・日本基準 … 資産計上、20年以内の期間で償却
・IFRS … 非償却、毎期減損テスト
・米国基準 … IFRSと同じ(※)
※ 非公開会社は10年以内で償却することも出来る。
⇒ 採用する会計基準によって、のれんの処理が異なり、連結PLに影響を与える。
⇒ のれんの連結グループの業績に与える影響を適切に評価する必要がある。
2.その他検討事項
・買収対象会社の採用する基準
⇒ 米国基準またはIFRSを採用していれば、一部の修正を要する事項を除いて、子会社の財務諸表を利用できる。
⇒ 逆に、米国基準、IFRS以外を採用している場合には、そのまま利用できない。
⇒ 親会社の重要な会計基準間の差異を把握・検討することが重要
・情報の正確性や十分性
⇒ 国外の会社では、情報の正確性や十分性は限定される傾向
⇒ 子会社の財務諸表の適切性について、十分に検討する必要がある。
13.役員の相続と未払報酬及び退職金
■ケース
・役員の配偶者に未払役員報酬及び死亡退職金全額を払おうと思っていたが、
別の相続人(以下、A)が現れ法定相続分をよこせと言ってきた
■未払報酬の支払
・未払報酬=相続財産
・法定相続分をAに支払わなければならない。
・Aが相続人であること、及び法定相続分がどれだけかを確認したうえで支払
・この点、相続人の全員の合意があれば、特定の一人に相続することも可能
■死亡退職金(会社に死亡退職金規程はない)
・相続税法上は相続財産とみなされるが、民法上はみなされない判例あり
・死亡後に支給決定するものなので、役員が生前に有していた財産ではない
・民法上の相続財産ではない=Aがもらう権利なし
・配偶者に支給することが妥当とする判例あり
・支給決定の議事録に記載すべきこと(相続人間で紛争が生じる余地を小さくするために、(1)配偶者の内助の功に報いるため、(2) 配偶者の生活保障として 等の理由を明記するとよい
14.子会社保有株式の現物分配に係る会計上の留意点
■完全子会社から孫会社株式が親会社に現物分配される場合
・実務上は、移転する株式の簿価を引き継ぐケースが多い
(時価評価し、損益を認識する会計処理も行われ得ると考えられる)
■完全親子関係にない子会社から孫会社株式が親会社に現物分配される場合
・持分がほぼ100%に近い場合は上記に準じた処理を行うことが考えられる
・そうでない場合は、受取配当金又は交換損益のような損益を認識するのが適当と考えられる
15.シェアードサービスセンター(以下、SSC)が機能しない5つの要因
■当初の計画通りに業務を移管集約出来ない
・SSCはグループ最適化の観点が必要
・個社単体で考えると導入のハードルがある
・そもそも業務が標準化されておらず移管が難しい
■業務範囲やサービスが不透明・不統一
・受託業務範囲、SLA(サービスレベルアグリーメント)、課金体系、評価方法が曖昧
■集約出来たがコスト削減が出来ない
・業務安定化以降、低単価要員へシフトが出来ない
・システム開発ではなく、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)※の導入
※低コスト、低スキル、高拡張性
■要員体制の安定化が図れず、業務が属人化
・SSC人材のキャリアプランが議論されない
・業務のやり方が人依存、特定の人に依存
■業務管理や業務改善の取組を行えていない
・KPIの設定が難しい
・業務改善の余裕がない
16.PPTスライド作成_力点を意識する
■力点
・スライド上、最も相手に印象を与えられるポイント
⇒結論を配置すると良い
■力点の場所
・スライドを縦方向と横方向それぞれ均等3分割する直線を引く
⇒できた4交点が力点(=power point)
※白銀比(補足)
・A4の縦横比1:√2
⇒日本人が直感的に美しいと感じる比率
17.IFRS 日本の現状
・2016年6月末時点で、IFRS適用済会社は85社 適用決定会社は30社。
・企業買収が盛んな情報・通信業、医薬品等の業種で適用が進んでいる。
⇒ネクソン、ソフトバンク、ヤフー、中外製薬、武田薬品工業、アステラス製薬など
・以下10業種では適用会社なし
⇒銀行業、保険業、水産・農林業、工業、繊維製品、パルプ・紙業、電気・ガス業、海運業、空運業、倉庫・運輸関連業
18.ショートレビューによる販売管理(受注、請求、売上計上)の主なチェックポイント
・売上の期間帰属の妥当か?
⇒現金主義による場合には、実現主義に修正する必要がある。
⇒いつ実現したかどうかについて、役務提供の完了時点などを適切に把握する必要がある。
・販売に関する各部署の権限と責任を規定し、各業務(受注、出荷、記帳、代金回収等)を各々独立した部署が行っているか?
⇒受注は営業部、記帳は経理部など、部署を区分し関与する社員も分ける必要がある。
・受注内容、受注条件、与信限度について所定の責任者の承認を受けているか?
⇒価格設定など受注に関する社内ルールを販売管理規程等で定め、担当分離及び社内承認を行う必要がある。
⇒与信管理規程を策定し、与信限度額の設定基準や与信限度額などの社内ルールを明確にする必要がある。
・物品受領書、作業検収書等を入手しているか?
⇒Web上で申込みが行われていることも多く、その場合にはシステムによる自動配信にて、利用開始日等の契約情報が反映される必要がある。
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